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神鎧戦騎 アトラス  作者: 谺響
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第8話 「山狩り」

夜通し開かれた会議で下された結論は、鎧の巨人、即ちアーティーのことを探してみるというものだった。上天から降り注ぐ光の矢と、それを受けて飛び立ったアーティーの姿を見ていた数人の村人の証言から、今、村の中ではアーティーのことを守護神か何かのようにとらえる向きが強まっていた。

朝食のテーブルでそれを聞かされたアトラスは、すかさず捜索メンバーに立候補した。昨日のことがあって、自分たちだけで山に行くのは難しいかもしれないと思っていたから、その話はまさに渡りに舟だった。目くばせを受けて、イアもそれに続く。母親は訝しげな眼を向けたが、アトラスが眼を輝かせながら


「だって、”天蓋の大神”かもしれないんでしょ?」


と言えば、特に反対はしなかった。もっとも父親の方は、


「新しい天蓋は張ってくれなかったがな」


と、軽くあしらったが、アトラスは全く気にしない。“天蓋の大神”の名前は、どうにか二人で巨人の探索に潜り込みたくて持ち出したのだから、こじつけに近い。そもそもアトラスにとっては、アーティーが本当に“天蓋の大神”かどうかなんてのは二の次だ。アーティーに話を聞いて、イアの過去にまつわる何かが掴めれば上々、或いは、何も無くともイアが納得して、彼女の気が済めばそれでいいのだ。

広場に集まっていた大人たちの間では、既に捜索範囲の割り当てが始まっていた。昨日の異変で山のあちこちに地面の陥没や崖崩れが起こっているので、足下には十分注意を払って捜索するように、と言われて、アトラスは裏山の簡単な地図を受け取った。年少であることが配慮されたのか、アトラスに渡された地図では禁域の祭壇があった崖の上、割と村に近い一帯が捜索範囲として指定されていた。


「地形の変化があった場所は記録しておいて、あとで報告してくれ。あと、何か怪しい物を見付けても無闇に触るなよ?」


しっかりと釘を刺されて頷くと、アトラスはイアの手を引いて山道を登って行った。

脇から回り込んで高台に登り、クレーターの縁に沿って奥へと進む。クレーターの中心では、3人の大人たちがあの扉の残骸を検分していた。

辺りに人影が無くなったところで、イアはアトラスに訊ねた。


「それで、どうやってアーティーに会うつもりなの?」


「どうやってって……」


訊かれてアトラスは弱ってしまった。それは全然考えてなかった。他に大勢の大人たちが山狩りをしている中で、まさか大声を上げて呼ぶわけにもいかない。アーティーならこちらを見付けることは造作もなさそうだけど、そもそも隠れてしまったアーティーの方からコンタクトを取ってくれるだろうというのでは、あまりにも楽観的過ぎるような気がする。


「兎に角、辺りを少し探してみよう?」


大人たちに対して真面目に捜索しましたという体裁も必要だ。栗の木が群生するその一帯は、収穫の季節ともなれば毎年母親たちと訪れる場所なので、全くの初めてというわけでもない。

地下の遺跡は随分と広かったから、きっとこの地面の下にもあの奇妙な空間が広がっているんだろうな、と思うと、アトラスは不思議な気持ちになった。


「ここは、アーティーと最後に別れた場所からは少し距離が離れているけど、アーティーが遺跡の奥に帰ったのなら、どこかで別の入り口を見付けて、そこから会いに行けるかもしれないね」


口に出してそう言ってみると、本当に何とかなりそうな気がしてくるから可笑しい。イアが頷くと、更に現実感が増した。

少し明るい方へと、茂みを掻き分けて進むと、そこにも小さなクレーターが出来ていた。周囲の薙ぎ倒された木々は幹が黒く焼け焦げている。よくもまぁ、山火事にならなかったものだ。


「あれは……」


そのクレーターの中ほどにあるものが、二人の目を惹いた。土の中から顔を覗かせていたのは、冷たげで固そうで、その雰囲気はあの扉に似ていた。二人でクレーターの中へと下りる。「怪しいものがあっても無闇に触るな」と言われていたけど、端からアトラスはそんな言いつけを守る気はなかった。

倒木から折り取った枝を箒代わりに、その不思議な物体の周囲の土を丁寧に退ける。やがて姿を現したそれは、あの扉よりは二回りも小さいが、やはりよく似た何かだった。ただ、扉とは違って地面に立っておらず、床のように水平に横たわっている。綺麗な四角形を描く切れ込みは、アトラスの家にもある、地下室への入り口を思わせた。

禁域の扉同様、取手も何も無いものだから、どうやって開けたものかと頭を悩ませていると、それは勝手に口を開いた。


「アーティー?」


その奥に向かって呼び掛けてみるが、返事はない。開いた口の中には梯子がついていて、下へと下りて行けるようになっている。二人で顔を見合わせていると、奥の方から明かりがこぼれてくる。返事はないが、二人を奥へと誘うかのようだった。

二人が中に這入ると、その入り口は勝手に口を閉じた。梯子を降りた先は、洞窟の奥の遺跡と同じような通路だった。同じような、と言うか、同じ物なのだろうが、前に松明を灯して進んだ通路とは違って、その通路は昼間よりも明るく、軽く目が眩むくらいだ。その雰囲気からして全く違う。しかしイアは、


「私が一人で引き返した時はもっと暗かったけど、雰囲気は似ているわ」


と言うのだった。実際、進んだ先、分かれ道の灯りの灯っていない方を覗き込むと、やっぱりあの通路と同じ物なのだというのがアトラスにも分かった。そしてそれはイアの言う通り、光の灯っている方が正しい道、ということらしい。

長い階段を下りてさらに進むと、どこか見覚えのある広い部屋に出た。アーティーがいた、T字の橋の渡された大きな部屋だ。その下のフロアに出ていたようで、あの橋は今、二人の頭上に架っている。

その部屋の奥に、アーティーはいた。壁に背中を預けて腰を下ろした姿のアーティーが、アトラスに訊ねた。


「どうかしたのですか、アトラス?」


再びその声を聞くことが出来てアトラスは、心底安心した。言いたいこと、聞きたいことは一杯あるけど、何から話すかは決まっていた。

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