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神鎧戦騎 アトラス  作者: 谺響
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第3話 「暗闇に眠るもの」

※ナイター中継が延長のため、「神鎧戦騎 アトラス」は終了次第、お送りします

月のない坂道を二人で手を繋いで登る。アトラスが掲げる松明だけが、夜道を照らす。祭壇を避けて洞窟の中へと進むと、僅かに暗さが増した。

禁域の扉は相変わらず太々しく、そこにそびえていた。壁面に走る数本の切れ目がなかったら、扉だとは思わなかったかもしれない。しかしただの行き止まりにしろ、洞窟の奥を隔てる扉だとしても、その硬質で冷ややかな、見るからに異質な壁は、長い年月の間、畏敬の対象として君臨してきた代物には違いない。

早速二人で扉を調べてみるが、灯りが一つしかない物だから、どうにも効率が良くない。大体怪しい所を探そうにもその壁面全体が怪しいのだから、どこもかしこも怪しく見えてしまう。描かれた模様をなぞってみたり、端の方の材質の異なる部分を叩いてみたりと、色々と試してみるが、扉が開く気配は一向になかった。イアが何かしらの鍵を握っているだろうと、アトラスは期待にも似た楽観的な予想を立てていたが、イアが押そうが叩こうが何の反応もない。

扉に背中を預けて少し休む。アトラスの頭の中には一つの好ましくない仮説が生まれてきていた。

扉が開いた時、イアは扉の向こう側にいたのだから、イアが扉を開けたとするならば、扉は向こう側からしか開けないという可能性がある。裏返すと、こちら側からは開けない。

イアはまだ松明を片手に必死に扉を探っていた。あの様子だとあれだけ何度も祭壇にまで来ていたにも関わらず、洞窟の中に這入って扉に直接触れるのは初めてなのかもしれない。イアの気が済むまで調べ尽して、それでも開かないとなった時、イアはそれで納得するだろうか?アトラスは首を振って腰を上げた。

何とかして開きたい。開かなきゃいけない。開いてみせる――

アトラスがそんな決意と共に立ち上がった時、手を着いた壁面が微かに震えた。低く唸るような音を立てて、震えはよりはっきりとしたものになる。


「えっ……何で?」


突然の異変に、二人で目を見張る。アトラスが手を着いた辺りは確かに特に怪しげな、材質の違うと思われる箇所だったが、そんな所は真っ先に、特に念入りに調査済みだ。仕掛けが動き出すのに時間がかかったとか、そんなところだろうか?

兎も角、二人が驚いて見守る中、扉はゆっくりと口を開いた。二人は無言のまま頷きあって手を取り合い、扉の奥へと足を踏み入れた。

二人が中に這入ると扉は再び動き出し、帰り道を閉ざしてしまった。アトラスはそこで初めて、自分が帰りのことを何も考えていなかったことに気が付いたが、もう遅い。今は進む以外に道はない。

扉の奥はまた異様な雰囲気だった。不気味なほど真っ直ぐに整った壁と床と天井とがずっと奥まで続いている。


「どこか見覚えのある所とか、ある?」


アトラスの問いにイアは黙って首を振った。あの日のことはちょっとだけしか覚えていないと言っていたからあまり当てにはしていなかったけど、こうなるとこの中を片っ端から虱潰しに調べていくしかない。どれだけの広さがあるかも分からないし、どれだけの時間がかかるかも分からない。しかし、それだけ膨大な探索の全てが、イアのためだけのものだと思うとアトラスは何だか気分が高揚するのだった。一先ず間違いなく言えることは、キッチンからパンをくすねてきたのは正解だった。

頼りない明りで辺りを照らしながら、ゆっくりと進んで行く。

途中で見付けた横道はすぐ先で天井が崩れていて、土砂で完全に埋まっていた。あの扉と同じ物でできているであろう天井や壁が、土や岩で破られているというのは不思議な気分だった。あの扉もこの通路も、自分たちよりももっと上位の存在、それこそ神様か何かが作ったのではないかと思っていたから、そんなものが自然の力に打ち破られるのは何だか不自然で仕方がない。

幾つか小さな扉も見付けたが、どれも開けることは出来なかった。あからさまに怪しい出っ張りや溝もあるのだけれど、押しても引いてもうんともすんとも言わない。最初の禁域の扉の例もあるので、食事をとりながら少し待ってみたりもしたけれど、その甲斐はなかった。結局、イアに覚えがないようなので先へと進むことにした。

道中かなり丹念に調べながら来たので、もう、相当な時間が経っていた。外ではいい加減、夜も明けるだろう。それでも二人は期待と好奇心で一杯で、疲れも眠気もそんな二人を妨げることは出来なかった。家に帰ってこの冒険のことがバレたら怒られるかな?という恐れがアトラスの頭の中にはあったが、それだってささいなものだった。

イアが来た所を気が済むまで調べて、イアが納得できる何かがあれば、或いは何もないことにイアが納得できれば、それでいい。今のアトラスにはそれが全てだった。

しかし禁域の奥深くで待ち受けていたのは、彼が期待するようなものではなかった。


「……広い……」


辿り着いた先はとても地中とは思えない広大な空間だった。ただ広いだけではない。天井は灯りが届かなくてどれだけ高いのかも分からないほど高いし、下は底は見えるけれどももし落ちたらきっと無事では済まないくらいに深い。そんな巨大な部屋の中、向こう側まで橋が渡されていた。

しかし、その危なっかしい橋よりも、部屋の広さよりも、もっともっと目を見張るものがそこにはあった。トの字になった橋の右手の先、壁面に沿って立つように大きな人影があったのだ。イアが息を呑む。


「……巨人?でも……」


人の10倍はゆうにあるだろう巨体。ただ、そこにいたのは人の姿には近いけれど、とても角ばっていて、そして無機質で。


「----鎧……?」


アトラスにはそう見えた。アトラスの大好きな神話にも見上げるほどの巨人の話は時折出てくるが、そんな風には見えなかった。

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