不覚にもときめいた
「先輩いいいっ!」
「何、大声出さないでようるさいなぁ」
「足!治ったんですけど!」
「また捻られても困るから演技決まるまで勝手に動かないで、いい?わかった?」
「はぁい……」
「必修にはなってるけど体育の先生には話し通してあるから見学してよ」
「りょうかいです……」
流石先輩。
ペアを組んで早2ヶ月ちょっと。
先輩に見られてる場所では大人しくしてるけどそれ以外は走り回るってよくわかっていらっしゃる。流石過ぎますよ〜、三上先輩。
「で?案とかはないの?」
「……私、極度にワルツが苦手なんです」
「ふぅん。知ってる」
「……………」
「お前、大人しくしてられないだろうしね」
「それなら、なぜ……!」
「俺、腱鞘炎持ちなんだよね。それに、ペアの発表会のあとにピアノ専攻だけは個人の発表会もあるんだよね」
なるべくワルツで温存したいなって思って。
なんて先輩は、軽く弱音を吐いた。
きっと、すごく自分に厳しいんだと思う。
でも、腱鞘炎があって、どちらかを優先しなきゃいけないんだとも思う。
だから、ペアでの発表では私のレベルに合わせるというか、私任せなところがあるんだと思う。
それで罪悪感があるから、最近はもっと先輩が小さく見えるくらい背中が曲がってるんだってわかった。
「ね、先輩」
「なに、」
「わかったんですよ!私!」
「何が」
「ね!私、頑張りますから、先輩は二曲とも完璧にしてください!」
「……はぁ」
「それで、本番失敗したら、私の責任ですから!」
「………お前、馬鹿なの?」
「ええ、まぁよく言われます!」
「……わかった。俺は完璧に仕上げるから、お前も完璧に仕上げろ」
「はい?」
「お前がヘタな演技でもしやがったら俺まで恥かくからな」
俺に恥かかせたら、ぶっ飛ばすからな。
なんて、照れながら(?)言われてしまった。
もうっ!素直じゃないなぁ!
「先輩!私!完璧に仕上げてみせます!」
「当たり前だ」
「そうと決まれば早速演技を考えますね!」
「……お前、案すらなかったのか」
「はい!」
「…………」
「で、先輩にもう一つ言いたいことが」
「なんだよ……」
「背中曲げてると余計小さく見えますよ!」
「っ!!余計なお世話だっ!!!!!」
顔を真っ赤にした三上先輩に思いっきり蹴られた。
痛かったけど、元気が出てよかったよかったと思って私は笑みをこぼす。
そうすれば先輩も私の顔を見て、可愛らしい笑みを見せてくれて。
ああ、私、先輩の笑った顔好きだな、って。