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【ワールド・レガリア=エクソダス】  作者: 行くよ!!!!!!
“リアルエクソシスト”
7/8

高校生編・第五話『水瀬照美の“神谷”』

 ──────東京都・千代田区。




 日本政府の役人達が日々集う国会議事堂。

 その大きさと異質な作りにはいつ見ても圧巻される。

 しかし同じ地区に並ぶ日本祓魔師連盟・総本部も負けてはいない。

 欧州の建物を真似て作られたのがわかるくらい大きく、どこか少し教会に似ている。魔法使いの集う場所と考えれば妥当かもしれない。だが、それ故にトラブルも多く当初は《化け物の住処》とさえ蔑まれていた。


「あれから随分と大きくなったわね………」

「は?何か言いましたでしょうか?」

「いいえ───さて新たな日本の旗頭は有能か、それともただの“馬鹿”か、お手並み拝見と行こうかしら」

「そのように堂々と“総理”を侮辱できるのは貴方様だけでしょう…………“神谷静香”様」


 入り口付近に駐車された黒塗りの車。

 そこから優雅に出てきたのは、四十代ぐらいの女性。神谷静香と呼ばれた彼女は長めの黒髪を綺麗に右肩から胸あたりにまで流し、少しシワが目立つものの綺麗な女性として世間には知られている。しかし実のところ彼女の年齢は現在、六十は超えていた。なのにこの若さから妖怪なのでは? と巷で囁かれている。

 そんな彼女を出迎えたのは、短く結ってある黒髪を垂らした美男の執事。正装を纏う彼は執事という影的な職に就きながらも、ファンクラブがあるほどにモテている。


「フン。…………で? あなた自らわたしを出迎えたということは、何かあったの?」

「はい。すぐにお耳に入れて頂きたい事が幾つか、それとお客さまです」

「来客、…………案件はここで話せること?」

「それはできません」

「分かったわ。…………にしてもずいぶんと“穢れてる”わね? ここから近いの?」


 静香は厳格なその瞳をさらに鋭く研ぎ澄ませて、杉並区の方角を見つめる。

 それに対して執事は懐より少し大きめのデバイス、俗に言うタブレットを取り出し、情報を展開する。


「現在、杉並区を中心にエビル(悪魔)との戦闘が行われています。加えて“北海道、岩手、新潟、静岡、高知”、小規模ではありますがこの五県でも同じく反応が確認されています。」

「ランクは?」

「杉並区はA。他は北海道C、岩手B、新潟D、静岡C、高知Bと報告されています。今のところ犠牲者ゼロで」

「人型の悪魔以外では一切の犠牲者は出すな。これは生易しくもなければ甘さでは無い。今の世の中、国家戦力だけで言えばもはやパワーバランスなど無いに等しい。だから世界は容易く悪魔に食い潰され、戦争が起きる。一刻の猶予とて無い、日本を筆頭に世界のチカラを底上げするためには日の丸の威光こそ必要不可欠な事だ──────そう全支部に伝えなさい」

「かしこまりました」


 執事に見送られ、神谷静香は先に来客がいるという待合室に向かった。

 祓魔師連盟、総本部。

 平成になる直前に再建築され、今や国会議事堂並の大きさを誇る建造物。

 ここを訪れる祓魔師のためにいくつもの窓口カウンターが扉を開いてすぐに設置されており、やはりその筆頭がここを通ると一瞬誰もが目を見開く。だが、その手を止める事はせず、きちんとそれぞれ自分達の仕事をこなしていた。

 挨拶も大事だが、筆頭によって何を重んじるかは別だ。神谷静香は挨拶よりも結果を求める、彼女が頭について数十年。故に誰もが黙々と働く。

 そんな彼女が待合室の前につくと、見張り役の若い祓魔師の女性が小さく頭を下げ、


「お待ちしておりました、神谷筆頭。お客さまが中でお待ちです」

「ありがとう、あなたはもう外していいわ」

「承知しました」


 既に開かれていた扉をくぐり抜け、その扉を見張り役の女性が締める。

 明るく照らされた待合室で立って待っていたのは、一人の学生。


(あの服、神野舞高校の…………)


 その制服に少し驚いている神谷静香に、黄金の校章と青空のブレザーを纏う少女が小さくお辞儀をした。

 黄色いリボンで結られた焦げ茶のポニーテールが静かに揺れ、その彼女のリボンで神谷静香は気付いた。


「戻っているとは聞いていたけれど、……………………随分と変わったわね」

「はい。“茨城” より特殊遠征を終え、本日帰還しましたーーーーーー“水瀬照美”です」





☆☆☆






 ダークホース。

 数いる悪魔の中でも比較的数が多く、その強さは一般にまでも轟いている。

 だが戦闘にはやはり相性というものが付いて回る。

 今回に限って言えば、スピードタイプ、縦横無尽を得意とする大和からしてみればいい張り合い相手である。鍛えられた肉体を持つといえども、その皮は比較的柔らかい。

 堂々と真っ向より突進してくるダークホース。

 それに対して大和も己の刀を軽々しく棒切れのように振り回しながら、足元で瞬時に展開された魔法陣を踏み抜いて地上を駆け抜ける。


(ブースト………………からの!!)


 刹那、コンマという世界の中で彼は神業を披露する。

 “見えない”場所を“見て”、そこへ適当に創り出す。

 そう魔法陣を“視認していない座標”へ正確(・・)に展開するのには、完全なる空間把握と鍛錬、神がかった感性が必要だ。

 それなのに彼は己の左肩に正確な角度で手のひらサイズの適当な大きさの魔法陣(ブースト)を展開し、それを使って瞬きの間に速度を殺さずして、無理やり体を道理ごと捻じ曲げた。


(マルセイユ・ルーレットッ!!)


 サッカーのフェイント、体重移動とその回転速度で相手を交わす超テクニック。鋭い体の捻りを見せつけ、ダークホースの突進をいなしながらその勢いのままに胴体を切り裂く。

 大和はスポーツという体技を悪魔との戦闘に活かす──────本物のファンタジスタである。

 だがそんな大和にも苦手な相手がいる。

 そうちょうど今、道路を塞ぐように現れたワニ。キラキラとした鱗で覆われし怪物。

 あれにはもちろんだが、金属の刃はそう簡単には通らない。それどころか通ったとしても刀は一発でダメになるだろう。


「今日で三本目…………一日で百万近くだ、シャレにならん!」


 悪魔が放ってきた炎や氷の魔法とブレスを、華麗に躱しながら唸る大和。

 そう一般的に提供されている刀といえども安くはない。安くても一本あたりの平均価格は十万以下にはならない、良い物だとキリがないだろう。

 彼のここまでの退治報酬は既に《二百万》を超えているが、刀の他にも着ている服がボロボロになっていたり、特殊学生というランクにはまた別の税徴収がある。本来の祓魔師になるための課程を終えずに資格をもらえている分、“無課程資格調整”という特別徴収があるのだ。


「これ以上万札諭吉さんをゴミにできるかっ!」


 大和は右手をワニに向け、魔法陣をワニの側頭部と自分の眼前にそれぞれ展開した。

 そして次の瞬間、ワニは予想外の力を側頭部に受け、横から叩かれたように首をはねさせる。さらに続け様に大和は、眼前の魔法陣より火焔を生み出した。


「焼いて柔らかく! 第一の火(イグニス)・ブラストッ!」


 魔法陣より迸る気焔。

 空気を燃やすように溢れ出る炎の放射にワニは思わず、悲鳴をあげる。


「ビギャアアアアアアアアアガァアアアッ!!?」

「大して効いてないくせに大げさだなオイッ!!」


 恐らく熱波が眼球を焼いたのだろう。

 しかしそんなことはどうでもよく、硝煙を晴らすように大和は駆け抜ける。その勢いのままに下段より刀を振り上げた。うまく焼けて柔らかくなっていた鱗は容易く斬り裂かれ、先程までの醜い怪物の悲鳴が途端に鳴り止む。ワニの首元からビュービューと血しぶきが湧きあがっていった。

 更に追い討ちをかけるように彼は大きく後ろへバク転して飛び退きながら左手を構え、雷光を走らせる。


第一の雷(アーペア)・ソード!」


 至近距離から放たれた稲妻の剣は切れ目にスパン!と入り込む。

 即座にその電流が内側より細胞もろとも怪物の肉体を焼き尽くす。

 バチチチ!! とそんな悲惨な音ともに黒焦げになった悪魔は、黒い灰となりて空へ舞っていった。


「これで10体目。三◯◯のうちいろいろ引かれて………せいぜい一◯◯万が良いところだろうな」


 簡単に指折りしながら今回の報酬を算出する大和。

 一日で稼いだにしては高額であるものの、武具を使った戦闘を主だっている者としては赤字以上だ。何せこちとら命がけである、プラマイゼロでは一体何のために仕事として選び、戦っているのか分からない。


「D級以下は一万…………C級が三〜五万………B級は十〜五十万、だったか」


 B級で報酬額が跳ね上がるのは、単に命を失う可能性がとても高くなるから、だけではなくその危険性を世間一般に知らしめると共に、誰にでも億万長者になれるチャンスがあるということを分かりやすくするためだ。

 しかし高額な報酬を得た上で生存率が高くとも、何かを失っていては意味がない。“五体満足”で終えなければ金などゴミ以下である。病院のベットの上で途轍もないお金と持っていた普通の幸せを眺めていることほど切ないものはないだろう

 大和はデバイスに移る報酬金ランキングの一覧を見て、くだらないと嘆息をこぼす。


(競争力を高めたいのは分かるが、…………こんな上下関係を作れば)

「おい大和!」

(……………チッ噂をすれば)


 建物の屋根から飛び降りて、大和に声をかけたのは同じく特殊学生の祓魔師。大和の同期というものだった。しかしながら同期ではあるものの、大和の表情は歓迎ムードとはとてもかけ離れたものであった。


「おやおや?超クールビューティーエリート様がまさか、まさか!こんだけしか稼いでないないんて、ダッサ!」

(……………相変わらずのウザさ。んでもってクズだな、こいつは)

「何か言ったらどうなんだぁー?それとも何か、お金しか友達はいないのかね?」

「(お前のことだろ)……………用が無いなら行きますが?」


 明らかな敵意を見せつける大和。

 だがそれが逆に拍車をかけるように、目の前のクズはカラカラと笑う。

 ────デバイスの画面に表示された報酬ランキング。

 クズがああも粋がっているのはそのおかけだろう。

 しかし彼が上位ランカーに名を連ねていられるのは、十中八九避難誘導などをせずにバカスカ戦っただけに過ぎない。故に大和は彼をクズとしか認識せず、名を呼ぶことも覚えることも無い。


「まあそう言うなよなー。 あ! そういえばさっきよ────」


 馴れ馴れしく肩を組んでくるクズを無視し、大和は次なる標的を探すべくデバイスにうまく親指を滑らしていく。そこには祓魔連盟からの“お知らせ”や現在地の地図が映し出されていた。

 そしてお知らせには、あらゆる豆知識と情報が記載される。その数ある情報の中で大和が目に止めたのは、


「『現在、この区画にある社は十年以上も前に廃止されています。間違って避難されている一般人がいるかもしれないので至急、手の空いた祓魔師はその社へ向かってください』…………か」


 これを見て大和はとても不快になった。

 理由はわからないが、何か身近なことで見逃しているような、そんな感覚。何より思い出さないとまずいことだということが分かるから余計に。

 なのに側ではクズが相変わらず独り言を、


「おい待て!…………今なんて言った?」


「ああ?だからさーお前の金魚の糞みてねぇなお友達がちょうどそのお知らせの社の近くで見かけてな? よりにもよってこんな戦場の真っ只中で呑気に俺に向かって“手を振ってきた”んだって!!あーぁ、いいよな力を持たない奴は無責任で。能天気に逃げ回ればいいだけなんだからよ!羨ましいぜ、まったく………ってアレ?」


 クズが独り言を呟き終わる頃には、目の前から大和の姿はなくなっていた。

 案の定、このクズは人を見ることはないのだと大和は認識を再確認したのだった。



(勇気には記憶がないッ!…………社のことなんて知るわけもないクソガッ!!)



 勇気は死の間際になるほどその人格を失わせる。

 要らない感情を捨て、確かに正しい答えを導き出すだろう。たとえそれが己の命を切り捨てることでも。

 急がなければならない。

 大和は焦る気持ちを抑え込むように歯を食いしばりながら、都市部の上空を高速で駆け抜けるのだった。





☆☆☆☆





 勇気がかくれんぼを始めてから十分ほど経過した。

 どこかの神社の林にまで来たが、悪魔はちゃんと退治されずについて来ている。怪物達の遠吠えが四方八方が響き渡り、容易に悪魔達があらゆる方向から這いずってくるのが想像できてしまう──────逃げ場はもう無い。しかし勇気とて馬鹿ではない、ただ逃げ回って偶然ここに辿り着いたわけではないのだ。


(神社が近いなら、神族あるいは巫女たちが来てくれる!流石にここまで領域を侵されては黙ってないはず!…………けど)


 神社とはその字のごとく、神の社。

 人が神を祭ったゆえにつくられた建造物と、神に供物として捧げられし土地。その二つを合わせて神の社とし、人々の信仰が形となって集まる場所でもあり、神が存在を確立させて降臨するための力場だ。

 つまりここを侵すということは神の誇りを汚し、戦争を仕掛けるに等しい行為である。

 そもそも神とは人の信仰を糧に神格を得た超人であり、悪魔などそれほどの脅威として捉えていない。敗北など通常ありえない。だがその大きな力を持つゆえに彼ら神霊の自我はとても強く、多くは現在のように直接的に害が及ばぬ限り、神どころか神が加護を与えし存在である巫女や神族を出張らせることもない。

 だが逆に言えばこうして存在自体が穢れみたいな化け物達に領域を荒らされれば、その重い腰を上げて出てくる他ないだろう。

 しかし勇気の体は短い時を重ねるごとに何か間違えたように体温が下がっていき、とうとうその要因である疑念を吐いてしまう。


「………………………………遅い」


 勇気はいま蜘蛛の巣やら毛虫などが這い回る茂みの中で、必死に息を殺して外の様子を観察していた。

 そしてとうとう視界に収まるだけでも五体もの巨大なワニがすぐ目の前を徘徊していた。

 彼らの侵攻で数多の木々が倒れ、轟音と共に粉塵が舞い上がり、視界は不明瞭になる。空気は汚れ、咳き込むことを息を止めることで無理やり止める勇気。そして冷静に服の袖をマスク代わりに口に当て、静かに深呼吸をした。

 しかし事態はさらに深刻になっていく。

 視界が晴れ、空気も落ち着いてきたと勇気が周囲に目を凝らせば、徘徊する怪物達のその中心にひと際強そうな悪魔がいる。


(あれはさっきのドラゴン……………?!)


 思わず悲鳴を上げそうになるが、必死に口を押さえて堪える勇気。

 あれに見つかればまず間違いなく助かることはないだろう。というより元からこの数相手では逃げ切ることは不可能だ。

 加えて流石にここまで何も事態が進まなければ、勇気も自然とその結論を受け入れた。


(………………ここはもう捨てられていたんだ………)


 死ぬのか、俺は………。

 勇気は林の間より空を見上げ、一雫の涙を流す。

 その涙はどんな感情が込められていようとも熱が宿ることはなく、覆ることのない現実のように冷たい。いや気持ちばかり冷えていくようにも思える。

 ────自分には記憶がない。それはつまり功績がない。

 それはこの死に意味もない、というとこだ。

 そんなのは嫌だ、だから強くなりたいのだ。


(はぁ…まだ死にたくないんだけど)


 苦笑と共に本音を口には出さず、静かに零す。

 だがその瞳は死に恐れているのものではなかった。

 勇気はただ悔しそうに化け物たちを睨みつけていた。





☆☆☆☆






 “茨城”での特殊遠征を終え、激変した姿を見せた水瀬照美。

 そんな彼女よりその報告を受けた神谷静香は、先の驚きが嘘のように優雅に口を開く。


「なるほど…………私に言われた条件通りに課題を終えるどころか、“位”まで頂いてくるとはね。つまりは、そうね───────今一度貴方に問い直さねばならないのでしょうか。…………なにせ今の貴方ならこれからの一生涯を思うがまま、欲望に忠実に自由に生き、家のしがらみも“姉妹”の宿命からも逃げることは容易いでしょう。────…………ただそれはこの地にいることでは叶わない。この遠征(一人旅)はいわば遠回しの一人立ちを含めていた。なのにわざわざ戻ってきてしまってよろしいのですか?……………貴方は己の自由(いのち)すらも捨て、赤の他人でしかない“神谷勇気”を監視しつづける人生を送りたいの?」


「………静香さん。私は逃げません(・・・・・・・)。絶対に“家族”を救います。そのために私は幼馴染を“傷付ける”ことも厭わない、たとえそれが日本トップ(あなた)の“お孫さん”であっても平気で嘘をつきましょう。」


 水瀬照美の声が響く。

 その声音は凛としていて、自信に満ち満ちていた。

 偉いからなんだ、私はもうそんなことでは引かない。そんな意思の強さが覇気として現れてるかのように、その場の空気を張り詰めさせる。


「────報告は聞いているわ。転入して早々一騒動起こしたそうじゃないの。」


 互いに少しばかり敵意を感じる口調。

 しかし打って変わって神谷静香はなんとも爽やかに笑った。


「でもそういう企みは嫌いじゃないわ。色々と貴方なりに考えていることが伝わってくるから」

「どうもです。けどそれは少し祖母としては冷たいのではないですか?」

「ほう?というと?」

「仮にも静香さんは勇気の家族です。あまり家族に手を出されるのは気分が良く…………っ!」



 途端、先ほどまでの笑顔がまるで嘘だったかのような表情を浮かべる神谷静香。

 嘆息を零し、少し茶を口に含んでから彼女は呆れたように言葉をこぼす。



「はぁ………………─────(やはりまだ学生か)レベルが低いわ水瀬照美さん。よく考えなさい。私とてこの世に生まれた一人の人間。魔女やら悪魔やら神を束ねる化け物なんて呼ばれていても、そこは決して変わらない。そう同じなのよ、貴方と何も変わらない。どんなを手を使っても日本(家族)を守っていく。それだけのことだわ」



 彼女のいる位とプレッシャーが相まって、水瀬照美の体を静かに微動させた。

 しかし神谷静香の態度には加えて《若いから》というあからさまながっかり感があったため、微かな怒りを携え、なんとかすぐ体の震えを止めた照美。

 

「別にいいのよ、そんなに私を怖がらなくても。昔は色々と無茶をしたこともあったけれど、今は割と静かに腰を下ろしているから」


 水瀬照美は、彼女のその余裕の態度がどうにも気に入らないようである。

 確かに彼女は偉いのだろうし、魔術師としても最強の名を冠する一人なのだろう。

 だがそれは魔術師の中ではということであり、人の進化はそれだけではない。

 それを得た彼女は、つまりもう今までのような操り人形ではないのだ。


「………………なら私のしたことには何も思わないと?」


 気のせいか、いや気のせいではあるまい。

 今の言葉には明らかにドスがあって、少しばかりの殺意があった。

 しかしそれに対して少女の強がりをあざ笑うかのような、満遍の笑みを浮かべる神谷静香。

 同時に彼女が吐いた言葉は人として恐怖を抱きかねないものだった。





「至って何も思わないわ? 何よりそれは特殊監査(あなたたち)の“仕事(かんがえること)”でしょ? 何せ彼は生存を許されている、ただそれだけで火種の存在。様々な意味で混沌でありこの世の禁忌に触れたようなバケモノ(・・・・)なんだから」






 ッ───────貴方がそれを言いますか!!

 次の瞬間に扉がノックされなければ、自分は愚かな驕りによってこの神刀を抜いていたかもしれない。

 水瀬照美は静かにその怒りを押さえ込み、入ってきた特殊監査の伝令係から話を聞くのだった。








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