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光をともして~学院日誌~  作者: からー
2/2

入学しました

 教会の座席は既に前方が埋まっていた。最後列から三番目というそこそこの列に案内される。さすがに教会であるため沈黙が守られているが、緊張や浮き立つ気持ちが伝わってくるようだ。

たくさんの感情の中には反感も混じっているので、自分の意図で入ったのではない、もしくは、信者ではないのに礼拝に出席しなければならないことへの苛立ちを感じている人もいるかもしれない。

そのような人はどうするのだろうか。特別教育は、普通教育の三年制と違い、二年制と一年短い。にしても厳しい訓練、厳粛な宗教授業。よほど強い信念が無い限り耐えられないのではないか…。


 入学式は聖日礼拝に毛が生えたようなものだ。

賛美して、説教という名の祝いの言葉を与えられ、新入生代表がまたまた説教という名目の決意表明をする。

レイアは讃美歌を口パクでやり過ごした後、学院長の話に耳を傾けるか悩んだ末、形だけでも聞くことにした。

「皆さん、入学おめでとう。今年は例年より時間が無いから、くだらない話は全部抜きにしましょう。」

軽くざわつく生徒達を見渡して学院長は微笑した。

「ここ国立バルカルーセ航海学院は、皆さんご存知の通り入学試験が無い。

但しそれは誰でも受け入れるという訳ではありません。

実際皆さんには二年間をここで過ごすという覚悟を記した誓約書を書いて頂き、提出しなかった方には入学を辞退して頂いております。

既に受けて頂いた、クラス分け用の筆記テスト。

そして、この後皆さんには実技テストを受けてもらいます。

合計点が基準に達さない方はそれ相応の努力が必要なことを肝に命じ、神の下で皆さんの夢に向かって精進していって下さい。私からは以上です。」


ざわついていた教会内は静まり返った。

ある者は、説教の内容があまりにもルーメン教から離れているため。

ある者は、突然知らされた実技テストのため。

またある者は、突拍子の無い学院のシステムのため。

皆それぞれの理由で開いた口が塞がらなかった。

そしてレイアは、この直球な学院長に関心が湧き、代表の決意表明をも耳に入れず、礼拝が終わるまで彼について様々な思いを巡らせていた。



入学式が終わってもなお何だか落ち着かない様子だった生徒達は、一人の男性が現れてようやく我にかえった。

「銃剣及び体術担当のミカイルだ。これから諸君には航海術、体術、実戦の三つの試験を受けてもらう。成績優秀者には個室がある部屋を与えられるので、頑張るように。試験が終わり次第カフェテリアに用意してある昼食を食べて結果を待つと良い。それでは女子は第一停泊所へ、男子は打撃訓練場へ移動しなさい。」

テストはどうやら男女別のようだった。それもそうだろう。ここに来る女子のほとんどは、有能な船乗りという名の婚約者を見つけ、一年で退学するためにやって来ているのだ。実際、女船乗りや女海賊など伝説になるほどなのだから。

レイアは重い腰を上げ移動を開始した。

(筆記で稼げてるはずだから…。問題は航海と体術かな。)



航海と体術を普通の女子と同じように、女の子らしくこなした後、実戦の試験会場である射撃訓練場へ移動すると大勢の男子達が待っており、30人程度の女子達が、一人を除いて、無言で色めき立った。

レイアは厳格なあの教師の横に、見覚えのある顔を見つけて驚く。

キールがこちらを見て二ヤッと笑った後、人が良さそうな笑顔に作り直し生徒を見渡す。

「座学担当のジョナサン・キールです。キールと呼んで下さい。

実戦では僕とミカイル先生が審判を務めます。ルールを説明するのでよく聞いて下さいね。」すぐさま、厳格な方の教師がゆるむ生徒達を睨み、場の空気を取り戻す。。

「試合形式は1対1です。お互いが50メートル離れた場所からスタートし、相手を試合続行不可能にするか降参させて下さい。武器を使いたい場合は、こちらで用意した物のみ使用可能です。

致命傷や、後に障害が残るような攻撃を与えた場合、又は与えようとした場合、即失格となります。また安全性が著しく損なわれると思われた場合、問答無用で審判が割って止めます。

審判の指示に従わない場合も、即失格です。ミカイル先生がダガーを投げつけてくるのでそのつもりでいて下さい。

逆にちょっとの傷くらいで文句を付けるのも無しですからね?」

笑いながら、最後の言葉を一人を除く女子に向かって、最後から二番目を男子に向かってかけると、大勢の心当たりがある生徒がそっぽを向く。

「呼ばれた順番に試合を行う。なお、実戦を考え男女はランダムに組んである。それでは始める!一番ルーカス・コティヤール、ジュリアン・ダルク。」


そこからのほとんどの試合は白熱した物となった。しかしそれも男子同士限定であり、女子が組み込まれている試合は全て即降参で終わってしまっていた。

(女子が馬鹿にされるのも当然…かな。)


「次!ライル・シルダー・デュアリス、レイア・グリーンフォード。」

レイアは周りからの目を無視し、まっすぐ武器の方へ向かった。ペイント弾が装填されている銃と空気銃を手にとり具合を確かめていると、銀髪の対戦相手がニヤついてくる。「おいおい、グリーンフォードのお姫様。あんたに扱える代物じゃないと思うぜ?俺なら大人しく降参することをオススメするね。何だったら負けてあげてもいいからな?」

空気銃の調整の手を休めず、

「あなたの好きなようにすれば良いと思います。確かにこれは使いづらいけれど、他よりはずっとマシですから。」

と答えると、銀髪は舌打ちを打ち睨んでくるが、レイアにはそんな物に構っている余裕は無い。

所定位置の横で手を空気銃に慣れさせていると、観衆がどよめいた。

「おい、女が空気銃《エアガン》…。無理だろ。」

「何も考えずに選んだんだろうよ。」

「あれをか?普通は選ばないぞ…。」

有象無象の声はどれも女だからと馬鹿にしているものだ。

さすがに大勢から悪意を向けられて、何も感じないほど感情が無いわけではない。

(1分で終わらせる。ていうかお昼早く食べたい。)


「始めっ!」

相手が一番近い障害物に向かってまっすぐ走るのを確かめて、軌道に合わせ照準を微調整しつつ、構えてトリガーを引く。

圧縮された空気が銀髪の足をちょうど襲い転ぶ。

「はあっ!?…うわっ!!」

二弾目を直撃せずかすめる程度まで避けた相手に感心しつつ、容赦なくトリガーを引き続ける。

「くっそ…女相手に…」

空気にめげず無理やり体勢を整えて、剣を構えて走ってくるのを見るとパワーファイターか。

(3秒…)

軌道を読み、足ではなく、胴体を連射する。

体勢を崩し、転ばないまでもスピードを落とすのを確認した。

(2…)

ペイント弾の銃と空気銃を持ち替える。

(…1!)

即座に照準をつけ、相手の心臓の位置に向けて、トリガーを引く。

衝撃を受け、倒れこむ。

銀髪は、貫通しない代わりに服についたドロッとしたものを見て、ギョッとしたようだった。

続けて眉間を狙おうとしたところで、相手の手が上がり、小声で降参という声が上がる。

「勝者、レイア・グリーンフォード!」


ちょうど1分だった。



昼食のサンドイッチを頬張っていると、いたる所からひそひそ声が聞こえてくる。

関心の先が自分と分かると良い気持ちはしない。さり気なくお手洗いに立とうとすると、ざわめきの対象が変わった。

教師二人が入ってきた。

「只今より結果を発表します。まだご飯は食べられるので安心して下さい。

ニコニコ顔の前に隠すようにミカイルが立って咳払いをする。

「1位、ジークムント。31点。

2位…」

しばらく呼ばれない、または本当に呼ばれないだろうと思い、レイアは陰に隠れてツナサンドを食べ続けていたら意外と早く呼ばれてむせそうになった。

「16位、レイア・グリーンフォード。23点

以上16名が、今年の成績優秀者だ。

出てすぐのところに部屋割りが貼ってあるので、確認すること!」

その他連絡が伝えられ、解散になったところで、嫌な予感がして、残りのサンドイッチに別れを告げてからすぐカフェテリアから出ようとした。

「レイア君!折り入ってお願いがあるんだ。」

(捕まった…。)

「…。何でしょうか…?」

キールはこちらの気などしらないようにニコニコ迫ってくる。

「女子部屋がさぁ…。一人分足りなくってね。レイア君、男子部屋混じってくれないかな?」「無理です。」

即答すると横からミカイルが苦笑しながら口を挟む。

「元々は男女共同部屋だったのが、あまりにも不純な関係が増えたんだ。その結果、どうせ女子は花嫁学校という風にしか思っていないだろうということで、男女の部屋を分けただけだった。

無秩序な私室にしない。もし、なってしまっても順応する。

これが当初の目的だ。

本気で目指しているなら、君にも悪くない話だと思うのだが?」

味方を得たとばかりにニコニコ追い討ちをかけてくる。

「それに女子部屋、香水臭いよ?まあ男子部屋は汗臭いけど…。さすがにレイア君の点数的にも地下じゃなくて2Fに組み込んでるから安心してよ!」

もうすでに決定事項らしい。退路は完璧に塞がれた。

「…分かりました。」

部屋番号を確認すると、ふいに嵐の予感がした。

(ここに来て何回溜め息吐いてるんだか…。)

レイアはそれでも嘆息せずにはいられなかった。

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