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光をともして~学院日誌~  作者: からー
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カフェテリアにて

テスト前日にアイディア降臨したので一生懸命書きました。

はじめは謎多いですが是非読んでもらえると嬉しいです。

 まだ少し暑い潮風を吸い込み、ふいに後ろを振り返る。何の変哲もない港町。人通りの少なさに首をかしげ錆びかけた門をくぐる。


 国立バルカルーセ航海学院。古くから存在する名門校。殆どの航海学校が入学試験を設けているのに対し、ここは優秀と言われるところでは唯一入試を行わない。門扉が開けていると、一般的には評判だ。

敷地に入ってまず目につくのは大きな教会。入学式である今日は、その教会前にたくさんの新入生と教師達がいるはずだ。

だが、賑わっているはずの広場は人一人いない。

少し困り、取り敢えずベンチに腰掛け足を休めていたところ、一人の男性、おそらく教師だろう、が走り寄って来た。

「君…もしかして新入生?」

頷いてみせると、突然彼は頭を抱え込んだ。近くで見てみると意外と小柄なようだ。

「本当にごめん…。色々手違いで…。実は開場まで後1時間あるんだ。それまで待っていてもらってもいいかい?」

別に構わなかったが少し汗ばんでいたため、どこでもいいから屋内で待てる所は無いか尋ねたところ、カフェテラスのような場所に案内された。


 教師はそのまま去るかと思いきや、水を2つ持ってきて二人席の向かいに音もなく座った。

「僕の名前はジョナサン・キール。名字は無いんだ。キールの方で呼んでくれ。担当は座学、寮監も勤めているよ。よろしく。」

座学ならどうりで小柄な(いかにもトレーニングしていなさそうな)体つきな訳だ。

ぼーっと馬鹿なことを考えていると、キールから名を尋ねられた。

「レイア・グリーンフォードです。よろしくお願いします。」

「レイアか…。賜名(パルシアノーム)かい?」

「いえ、レイアは実名、グリーンフォードは名字です。」

それを聞いたキールが目を丸くするのも無理は無いだろう。

この学校、というかこの国全体が、ルーメン教の国なのだ。

ほとんどの国民が唯一神であるルーメンを信じ祈りを捧げる教徒―パルシア―であり、それを信じない者をオスクロ、道から脱する者と呼び、過激な者は差別し、そうでない者も決して良い目では見ない。

教徒は子が産まれると、教会に連れて行って洗礼を受けさせる。

その時パルシアの証である名、賜名―パルシアノーム-を与えられるのだ。

ほとんどの国民の名が実名、賜名《パルシアノーム》の2つで構成されており、教徒とそうでない者の区別は名前の数でついてしまっている。

名字があればその限りでは無いが、それは人口全体の5%にも満たない貴族にか与えられず、パルシアである貴族は特権階級になることができるので、教徒にならない貴族はいないと言っても過言では無い。

レイアに話を戻すと、実名と名字の2つということは、いないに等しいオスクロ貴族の一人であるということだ。

しかもレイアはよくある賜名《パルシアノーム》の一つ。

普通ならばレイアが賜名《パルシアノーム》でグリーンフォード(これはあからさまに名ではない)が名字となり、これまた数少ない、実名をもたない敬虔な教徒と考えられる。

そうではなく敢えてレイアという名を実名としてつける行為は、教徒からしてみたら神への冒涜ととられてもおかしくないのだ。

キールからの非難のこもった視線を予想したレイアは、心の中でため息をついて軽く外を眺めた。

だが、キールは元々優しげな目つきを細め、

「良い名だ。君の名をつけた方は、本当に君のことを思っているんだろうね。」

と言ってのけた。

レイアにとって長い知り合いでは無い人にそれを言われたのは初めてで、気持ちの良いものでは無かった。

「何故そう思われたんですか。」

彼はハハッと安っぽい探偵のようなシニカルな笑みを浮かべた。

「簡単なことだ。

古代語で、あっこれ僕の専攻なんだ。古代語だけじゃなく語学と宗教全般。他にも歴史とか地誌とかもやってるんだけど、どれか一つに絞るってなった時にやっぱり何よりも」

「あの、先生の専攻の話はまた後で。」

「ああ…ごめん…。」

どんどん目が輝いていくキールを止めるのはどうもやりづらい。

一方の彼は気を取り直したように真面目な顔に作り替える。

「直訳するとレイアは光。他にも輝かしい道、栄光。

花の名前にもあるね。

確か花言葉は…あなたに光があらんことを。」

母親に何度も言われたことを、今日初めて会った他人に言われると、よく分からない気持ちになっていく。

それは苛立ちに変わり、反発を覚える。

「でも、何も考えずにつけたかもしれないですよ。」

目の前の男は、笑ったまま頭を振る。

「それだけじゃ無いさ。

君は、見たところ薄茶色の髪に焦げ茶の目。

グリーンフォード家は、実は信者でない人の方が多いらしいが、君は直系のグリーンフォード家の特徴の淡い緑色が混じった目に当てはまらない。

つまり分家か養子だね。

薄茶色の髪はメラニ人に多かったはずだ。

例外もあるだろうが、この濃淡は古代に近いと言っても過言じゃあないだろうから。

あそこはかなり昔に自然崇拝をルーメンに発展させた民族。

君の名付け親はルーメン教徒じゃないかい?

きっとレイアの意味を分かっているんだろう。」

謎の苛立ちを収める為に、男の目を見据えたまま下唇を噛む。

「それだけじゃ分からないはずです。まだ説明しきれないと…。」

「後はもう直感だね。

君は光を追い求めてるってねっ!」

Vサインを出す彼を見て、自分の気持ちは気恥ずかしさなのだと気が付いた。

レイアはようやく表情を和らげることに成功した。

「先生…。適当すぎですよ…。それでよくここまで考えましたね。さすが博識と言うべきですか。」

「文系だから直感型なのは仕方ないのさ。

それより知識は時に武の力になる。その事を忘れずにね。」

キールが初めて教師らしいことを言ったなと、そうレイアは感じた。


 ここでの話は他言無用と確認し合った後、キールは入学式の案内をしてくると立ち去った。

レイアはさらに30分待ち、おそらく席が埋まりかけているであろう時間になった時、水を飲み切り、立ち上がった。

彼の推理は9割正解で、1割間違いだ。

確かに彼女の実の両親はルーメン教徒で、自分はグリーンフォード家に養子として引き取られ、名付け親はレイアの意味も知っている。

だが、レイアはメラニの末裔では無い。

(もっともっと…複雑な何か…。それは何なのか…。分からない。)

考えると頭痛が湧いてくる。

元々記憶には限界があるのだから、ある一定量まで絞ったらそれ以上は無駄なのだ。


 ともかく今分かっていること。

バルカルーセに味方は少ない。

ただそれだけだ。

 レイアは息をつき、教会に向かって歩き始めた。


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