08
「あー、終わった。だるい、疲れた、眠い」
朝日が上り始めると共に、無限とも思える氷の精霊達の猛攻は撤退していき、夜通し戦い続けた俺達三人。
頭をこっくりこっくりと揺らしながら歩くヨト、目を細めているが眠たさを必死で隠そうとするエミリー、残弾も殆ど尽きて半分涙目になっている俺が並んで歩いていた。
この量の敵を捌くちなると、やはりかなりの量を使ってしまったのだが……また魔力を再装填する作業がしんどい。幸いにして、テーブルとかに並べて一括で魔力注入出来る点は良いのだが、問題なのは俺が魔力を微細にコントロール出来ない点にあって、下手をするとキャパシティオーバーで割ってしまいかねない。もうちょっとで良いから、器用になりたいものだ。
宿に入ると、ちょうど二階からアイリスが降りて来た所だった。どうやら彼女も徹夜の様で、眠そうに目を擦りながら遠慮なく欠伸をする。
「お疲れさま、眠い」
「ああ、お疲れさまだアイリス。俺も凄く眠いよ」
「お疲れさまですアイリス様、サルラ様達はご無事ですか?」
「ん、三人とも寝てる」
「あぁ、そうですか、良かったです」
帰って早々に役立たずな主人の安否確認か、使用人の鏡だな。安らいだ顔で安心する表情を見せるヨト。
「さて、村人も最初に襲われてた人以外は何とか助けられたし」
「そうですね、瀕死の剣士さんがドアを開けた時は既に壊滅的かと思いましたが」
「あれは壊滅フラグだよな、どう考えても」
「結局道ばたを歩いてた人しか襲われませんでしたし」
「何だかんだで、抑えてくれてた剣士達に感謝だよ」
「それを言うなら、殆ど全部を一人で片付けたエミリーさんの方が凄まじいですよ。学園ではあの様な姿を見た事が有りませんでしたから、ちょっと驚いちゃいました」
一夜の戦闘で友情に似た何かが芽生えた俺は、ついヨトとの話に夢中になってしまっていたが、とん と背中に感じる重みに話を中断して振り返る。
「あなた達、仲いいのねぇ。まったく、私が目を離すとすぐにコレだわ……エリス、私もう疲れたわ、ベッドまで運んで頂戴」
「いやいやいやいや! いきなり何言ってんだあんた、俺にそんな力はねえよ!!」
「あ、私はちょっと拠点に寄って行くので。サルラ様達が起きたら伝えて下さい」
「ちょっ、ヨト助けて!」
「では、ごゆっくり〜」
そそくさと立ち去るヨトの後ろ姿に、友情が芽生えたと思ってた俺はがっくりとうなだれる。俺だけだったのかなぁ、友達になれたと思ってたの。
ちらりとアイリスを見るが、さっと目線を逸らされる。どうやら手伝うのは嫌な様だ。仕方が無い、覚悟を決めて運ぶとしよう。
「はぁ〜、それじゃ行きますよエミリーお嬢様」
「早くしなさいよ、眠いの」
「はいはい」
心地よい疲労感と、背中に感じる柔からな温もりを楽しみながら蹌踉めきながらも二階へと上って行った。
昼過ぎまで眠り、その間警備に着いていたアクアパーティで昨日は役に立たなかった自称王子のコロイルに、報酬とばかりにクロケットを一つ奢ってから一日遅れで拠点に入る。どうやら昨日の事態についての会議が開かれているようだった。
「ですから、ここはお互いに力を合わせなければ確実な防衛など出来ないと申しているのです。決して何かを狙っている訳では無いのです」
ヨトが鎧を着込んだ剣士達に協力を求めている様だが、何やら相手の顔を見る限り良い話の流れでは無いらしい。
中でも中心と思える大きな体格の青年が、機嫌の悪そうな大声で叱りつける様に叫ぶ。
「だから、我々だけの力でこの程度の氷の精霊ごとき殲滅してみせると言っている。昨晩の訳の分からぬ雷を連発する危ない女の手助けは借りんと言っておるのだ。それと貴様、気味の悪い槍を扱うそうじゃないか、貴様の様な下賎な輩には似合うのかも知れんが我々と協力したいのならば剣を持ち身体を使って戦え」
要するに魔法とは一緒に戦えないと、そう言っているようだった。
今に始まった話では無いが、やはり戦士系学園に所属する人間は魔法を忌避しているらしい。どうしてそんな思考回路になったのかは理解し難いが、彼らにもそれなりの理由はあるのだろう。しかしそれを懇々と語っている時間は無いのだ。
「昨日宿まで来て、俺達に状況を伝えてくれた奴は……自分たちには手に負えないと思って知らせてくれたんじゃないのか?」
俺が会議に割って入ると、ヨトは不安そうな顔から少しだけ和らいだ顔に。反対に剣士達はいっそう怒りの溢れた顔を此方に向けた。
「貴様何を言うか! 奴は自身の恐怖に負けた騎士にもなれず犬死にした雑兵だ、そのような駒にも使えぬ役立たずの行動が我々の総意と取って貰っては困るな」
「そもそも末端にそんな行動を取られるなんて、お前実は人望無いんじゃないか?」
ぬぐぐ……と歯ぎしりをしながら此方を睨みつける剣士。しかし周りの剣士達は必死に真顔を作る事で精一杯な奴と、隠れて笑う奴らが殆どだった。
「もう良い! そんなに戦いたいのならば貴様ら魔法使いだけでやれば良いだろう。我々は十分貢献した、後はここに座して結果を持ち帰る事とする!」
ここまで偉そうに不貞寝宣言をする奴は初めて見た。
しかし、これでは戦力的に偏ってしまう為にこっちにも死者が出かねない。何より此方の戦力として数えられる分は三人だけなのだ。いくらエミリーの電撃が一騎当千だとしてしても、いつまで続くか分からない上に一人に頼るのは不安要素が大きい。
「いや、流石にそれは人としてどうだろう。せめて数人貸してくれないか?」
「断る! 貴様らの様な無礼な下郎共に貸せる部下は居らん!!」
うーん、これは頑固な奴に当たってしまった。以前の俺だったら、間違いなく睨み合いから勝負に移行する事だろう。
すると、横から参謀らしき軽装の剣士がリーダーの青年に耳打ちをする。なんだろう、こっちを見る視線が酷く気持ち悪い、寒気がしてきた……。
「と、思ったのだが……貴様らも魔法だけでは厳しかろう。此方からは三人までが限度だが貸し出してやらん事も無い」
一体どういう心境の変化か、頑なだったリーダーの顔が綻びーーというかニヤケた顔になり、急に意見を変えて来た。
「いきなり意見を裏返すなんて妙だな、何を考えているんだ?」
「何、誠意には誠意で還すのが道理だ、そうだろう?」
「対価を払えと、そう言う事か?」
「然り。此方は三人の命を貸し出すのだ、それ相応の対価を要求せねばなるまい? そうだな……例えば、貴様らのうち三人を一日好きにさせてもらおうか」
うわあああああああああああああああああ!
きめえええええええええええええええええええええええええええ!!
まさかこんな対価を要求されるとか、どこぞの三文小説じゃあるまいしこんなセリフを吐くなんて想像すらしなかった! なんだか頭が痛くなって来たよマリー。
「ちなみに貴様ら二人と、あとは昨日派手な雷で迷惑をかけてくれた女の三人だ」
「しかも俺がリストに入ってるのかよ!」
「我々が姿を見たのは貴様ら三人とコロイルとかいう男女だ。あんな男女に興味は無いが、貴様らはそれなりの容姿をしている様だ。さて、一日とはいえ我々の好きに出来るのならば三人の命を貸してやろう、どうするね?」
「そんな提案をするなんて、あなた達はそれでも誇りを主題とする戦士ですか!」
ヨトが足を振るわせながら反論する。しかし剣士達はリーダーの言葉を聞いて、全員が鼻の下を伸ばしている。あれ、もしかして俺も昔はこうだったの? なんかそう思うとマリーに申し訳なくなってくるな……実は普通にフラれただけだったのかな?
どんよりと項垂れた様子を観念したと勘違いした剣士リーダーは、得意げな顔で勝手に話を進めてしまった。
「よーし、それじゃアヤク! 貴様が他の二人を決めろ。そのひょろひょろとした身体でも男に違いは無いのだ、少しは男気を見せてみろ」
「えっ、わた……俺ですか!?」
アヤクと呼ばれた少年は、小さく細く、まるで少女の様な風貌をしていた。きっとその容姿が災いして虐められているのだろう……、可哀想に。
「文句が有るのなら、貴様一人でも構わんが?」
「あ、えと、それじゃエイテ……来てくれる?」
エイテと呼ばれた青年は、一七十センチくらいの身長に前髪を中心で分けた長めの金髪が特徴的な少年だった。
「しょうがないですね、使えない人はこれだから……」
「ひどいよエイテ、そこまで言わなくてもいいじゃないかぁ」
「後一人ですか……それじゃレング、君にしておこう」
「スルーしないでよ、ちゃんと聴いてよ!」
「残念ですが下らない文句は聴かない主義なんで」
「下らないとかひどい!」
「わかりました」
「レング君もスルー!?」
何だか楽しそうな会話と共に、彼らが貸し出す三人が決定したらしい。ていうか、此方はそもそも承諾していないのだが……いや、最悪”一日だけ我慢”すればいいか。
「分かった、それでいい。三人ともよろしく頼む」
「ううっ、はい……」
「チッ」
「………………」
大丈夫かなぁこの三人……。
不安を煽る三人の態度を見て、ヨトはガクガクと身体を震わせ初めていた。そう言えばコイツの確認取ってなかったな……問題はエミリーだが、取引の事はこいつらに口止めしておこう、バレたら色々と大変そうだからなぁ。
宿に戻り、拠点から連れ帰って来た三人の剣士を皆に紹介する事になった。本来なら長老の屋敷のロビーを拠点に使う筈だったのだが、剣士連中に占拠されている様なものなので俺達の拠点はこの宿と言う事になる。
「それで、なんで剣士の方々がこっちにいるのかしら。詳しく説明してくれるのよね、エリス?」
彼女も昨夜の襲撃時に剣士達とは色々と口論をしたのだ、差別意識を抜きにしても嫌そうな表情は仕方が無いと言える。
「色々あってね、なんとか三人は貸してもらったんだ。使えるかどうかはともかく、前衛さえ居れば奴らの巣を叩くのにも必要だろ」
「そんな失礼な人達は必要ありません、返してらっしゃい」
「いや、そんな捨て猫を拾って来た事を怒る親みたいな事を言わなくても」
「そう言う問題じゃないの! 昨晩に散々コケにされておいて、よく手を組むなんて考えられたものねエリス。私は貴女の頭を疑うわ」
「でもなぁ、エミリー。もしお前が魔法を撃てない状況になったらどうする? 杖を弾かれて遠くに手放してしまったら? そもそもお前が攻撃を受けて昏倒したら、誰が回復するまで護ると思う? 俺達二人ではそこまでフォロー出来ないんだよ、いくらヨトが槍使いであったとしてもだ」
苦々しい顔をするエミリーを他所に、彼らには自己紹介をしてもらった。現状使える人員が少ない以上、彼らの助力は必要不可欠なのだから。
「俺の名前はアクヤ・ディージェンスです。まだ入学したてなので、剣技もなにも無いですが頑張ります!」
少年の様な高い声で自己紹介をするアクヤ。その少女めいた風貌から、この女ばかりの集団でもなじんでしまう。
「俺はエイテ・グラヴドル。得意分野は金稼ぎだ」
「剣はどこいったの!?」
「え、こないだ質に入れたじゃないですか、もうボケたんですか? ほら、新しい顔を投げてやるからそこに立ってください」
「意味分かんない事言いながら大きな黒パン持ち上げないで! それ硬いんだから、その大きさだと十分凶器だから!」
「分かってますよ、ボケは死ななきゃ治らないって言いますし、一度死んでみたらどうですか? あ、安心して下さい。痛いのは最初から最後までです」
「ずっと痛いんだ!?」
二人の仲の良さそうな漫才を無視して、もう一人の剣士が自己紹介を始める。
「レング・アレシウド、得意分野はかくれんぼだ」
「かくれんぼ……だって?」
「ねぇ、本当に大丈夫なんですか? この人達ってもしかして使えない人達として選ばれたんじゃ」
「言うな、俺だってそう思ってた所だ」
ヨトと二人して頭を抱えて、これからの策について思い悩む。
「なぁヨト、これからの作戦なんだが……お前は何か考えてるか?」
「そうですね、昨晩の様な大群襲撃が頻繁にあるようなら考えものですが」
「だいたい二月前から一週間毎に来ていたんです。最初の時は多くて五匹程で大して多くなかったから、剣士達だけで討伐出来ていたんですけど最近数が一気に増えたんですよ」
宿で女給をしているユラルファが、会議をしている面々に水を配りながら話に入って来た。現地の人間の意見は貴重なので、詳しく聴かせてもらう事にする。
「ユラルファ……だっけ? 最近の大群襲撃に何か感じ入る所はあるのか?」
「いえ、そう言う訳じゃないんですが……でも、そうですね。皆さんには話しておいた方が良いのかもしれません」
なにやら勿体ぶった態度だったが、腹を決めたのか普段の弱々しい顔からは創造出来ない様な強い顔に変わり話し出した。
「氷の精霊は、元々ユースノイス村の守り神でした。強く気高く、誇り高き山の神の使いと信じられていました。これまでは村人を襲うどころか、この街に襲いかかってくる山賊達と戦い護ってくれていました。小さい頃に何回か、そんな場面を見た事があります」
「しかし、それなら何故こんな事態に?」
「ええ、それをこれからお話します。ただ、これは私の推測なので……本当にそうなのかは分かりませんが」
深呼吸をして、場を仕切り直す。
「ある日、私の姉が行方不明になりました。二ヶ月半くらい前の事です、それまで優しかった家族達は急に怖い顔をしだして……あの日の夜、父は眠っていた私の身体を、服の内側に手を入れて撫で回し始めたんです。そしてこう言いました『恨むなら逃げた姉を恨め、お前らに飯を食わせてやってるんだからこれは当然の見返りだ』と」
「……………………」
俺達全員が息を呑んで、ユラルファの言葉に耳を傾ける。彼女が何をされたのか、姉は何をしていたのか、何故行方不明になったのか。彼女は逃げたのだ、自身を犯す父親から逃げたのだ。恐らく妹を人質に取られて無理矢理、耐え切れずに逃げたのだろう。しかしそれと氷の精霊の大量出現とどう絡むのか。
「けれど、その時に窓ガラスが割れる音がしたんです。侵入者を確かめる為に、父は手を離しました。私は怖くてそこから一歩も動けませんでしたが、父はドアに手をかけて開けようとしていました。でも、ドアが開く音はしなかったんです。ドアは打ち破られ、付近に居た父親は喉元に牙を立てられて……」
死んだーーユラルファは口をふるふると振るわせ、両肩を抱きながらではあったが立派に語り終えた。しかし分からないのは、急に彼ら氷の精霊が今まで護って来た筈の村人に牙を向けたかだ。それだけがどうしても分からない。
「きっとーー姉が私を助けてくれたんです。その為に氷の精霊の力を借りに行ったんだと思っています」
「つまりこう言う事か、今までお姉さんが父親の相手をしていたが耐え切れず逃走。両親を殺す為に氷の精霊の力を借りに行ったと。しかしその後の襲撃はどういう事だ? 親父さんが殺されたなら、もうとっくに目的を果たしている筈だろう?」
理不尽に対する復讐、彼女はそれを終えた筈だ。俺にもシギルという目的がある、護るべき人、マリーもいる。
「もしかしたら、まだ君に危険があるのかもしれない」
ユラルファは驚いた顔で俺を見る。しかしこの考えはおそらく正しい、俺がシギルを殺す事でマリーの安全を確保したとしても、他に狙う物がいるのならば近くに居続けるだろうから。
「最近、君に近づく男性や変な人物に心当たりは無いか?」
「さ、さぁ……最近は宿の女将さんとお客様、あと同僚のミーズィくらいかな」
「ミーズィはたしか女性だったな、女将さんも女性だし。だとすると他の危険があるのかもしれない」
「そんな……」
不安そうな弱々しい表情に変わり、どんどんと青ざめて行くユラルファ。
「ちょっとエリス、不安をかき立てる様な事は言わないで頂戴。それに今はどうやって次の大群襲撃を凌ぐかが争点でしょう?」
「ああ、それなんだけどな、考える必要は無いよ」
「どういう事ですか? エリスくんには何か作戦があるの?」
今まで聴くに徹していたアクアが、不思議そうな顔をして頭をかしげる。他の面々も何を考えているのか分からない様子だった。ただ一人、ヨトを除いて。
「氷の精霊が根城としている巣に攻撃をしかけ、これを殲滅する。そうですね?」
「流石はヨト、ちゃんと理解していてくれたな」
「ですが問題の巣が分からないから、今まで手を拱いていたのでしょう?」
まさしくその通りである。そもそも奴らの巣が分かっているのなら、防衛等する前に攻撃を仕掛けている筈だ。
「実は朝方に撤退する氷の精霊の一匹に、雷の紋章玉を一個撃ち込んだんだ。勿論起爆はしていないが、微弱な電波を発生させる様に調整した。貯蔵魔力から考えても三日は持つ筈だ」
「もしかして、それで敵の巣が分かるんですか? けど、そんな魔術聞いた事無いですよね……? エリスさん、でしたよね。貴女、何者なんですか……」
アヤクが値踏みをする様に、鋭い目つきで見つめているーーつもりなのだろうが、何だか眠そうにしか見えないあたり、この娘はアクアと似た性格なのかも知れない。
「アヤクさんそんなに訝しんだら失礼ですよ、それ以上見つめたら臨場感を出す為に顎を外しますからね」
「そんな臨場感いらないよ! あとごめんなさい!」
謝罪はついでかよ。
「コレは古代魔術の一つで紋章術っていう分野だ。使おうと思えば誰でも修得出来るライトな魔術だよ」
「そうなの?」
現状非戦闘員のアイリスが、瞳を輝かせてキラキラとした視線を俺に向けてくる。うわあああ、そんな眼で俺を見るな! 教えてくれって顔で見ないで下さい! だってこれ、あくまで魔力を持つ者しか使えない魔術なんだよぅ。
「あ、えーと。また今度な?」
「ん、約束した」
ああ、後で怒りそうだなぁ。けど今は話を進めたいから、もうこれでいいや。
はっ、もしかして忙しさにかまけてマリーを構わなかったから鞍替えされただけだったのかな? 俺って実は捨てられてたのかな!?
自己嫌悪に陥り始めたが、ヨトの一言で救い上げられる。
「それで、その紋章玉を氷狼に埋め込んだ事で相手の巣が分かるんですか?」
「巣と確定は出来ない。けれど、間違いなく奴らが帰る場所は分かる筈だ。とは言え、大まかな方向だけだけどな」
腰のシルンポーチから、雷の紋章玉を一つ摘み出す。すると、何処かにあるもう一つの紋章玉の方向へパチパチと火花が散り、ググッと引き寄せられる感覚があった。
「北西一時の方向だな。ユラルファ、この方向に何か隠れられる洞穴とか知らないか?」
「はいっ、えっと……この方向なら2マイル程行った所に、昔の炭坑があったと思います。もう廃坑してますけど、穴は地中深くまで彫ってあるそうです」
「そこかもな、2マイルくらいなら今から行けば遅くても二時間くらいで着く筈だ。もし外れても夜までには帰って来れるだろう。すまないがユラルファ、道案内を頼む」
「は、はいっ! 任せて下さいっ」
「そうは言いましても、万が一の時に村を護る為の戦力は置いておくべきです。その坑道が敵の巣だと確定した訳ではありませんし」
「ああ、ヨトの言う通りだ。出来れば四人位はここに残して行きたいけど……そうだな、アクアのパーティはここで結界を張って待機してくれ、それを剣士のうち誰かに護ってもらいたいんだが」
「よかろう、ならば我が請け負う」
今まで自己紹介の時以外一切口を開かなかったレングが、率先して意見した事に対して皆が驚きの表情を隠せずにいた。いや、レングは特技をかくれんぼだって言うくらいお茶目野郎だ、これくらいは普通なのかも知れない。しかし寡黙そうなイメージと合わず、未だに調子が狂う。
「わかった、それじゃアクアパーティとレングに村の護衛を任せる。昨日大群が来たから、来たとしても多く無いと思うけどな」
「油断は禁物」
「あ、ああ。アイリスもアクア達を手伝ってやってくれ、頼むな」
「油断は禁物」
「ん? 何で二回言ったのか……まぁいいか。気をつけるよ」
二回も注意勧告してくれたアイリスとしては、やはり心配なのだろうか。そんなおめでたい話を頭に巡らせていた事を、数十分後の俺は後悔するのだった。