01
電撃文庫大賞に応募した作品ですが、落選した小説。一次審査も通らない駄作。
正直途中から時間とページ数がヤバくなったので、強制的に終わらせたのでまあしゃーない。
さて、暇つぶしにでも読んでみて頂ければと思って流してみました。
走る、走る、走る。息が切れても、力尽きたとしても走らなければならない。
もう俺に帰る場所は無い。最も信頼していた仲間に裏切られ、肉体も崩壊を始めている。
幸いにも俺を追う足音は既に聞こえなくなっていた。しかし能力で強化した身体も崩れ始め、人の形を保てずに灰か砂の様にサラサラと輝く粒子を飛散させていく。
消え行く意識の中で、俺は本能的に何かの文字列を呟く。自分が何を口にしたのかも理解せぬまま、眼前に光り輝く門が現れ一人の少女が現界した。膝までの長さの艶やかな黒髪、白磁の様に透き通る様な白い肌、特徴的なのはひと際輝く黄金色の瞳の小柄で美しい少女だ。
光の粒子として散り消える俺の身体。
エリオ・エーテルライトの身体。
眼前の少女の頬に、そっと手を這わせる。
ひと際激しく光る俺の身体。『回光返照』燃え尽きる寸前の蝋燭は、その一瞬を激しく燃えるという。自分の死に方にそんな印象を抱きながら、虚空へと散った俺の身体。
俺は、その有様を少女の瞳を使って見ていた。
見た事の無い、知りもしない少女の肉体に己を宿して。
その事実を理解する前に、俺は意識を失い倒れた。
それから約半年が経ち、再びこの地に足を踏み入れる。
『マネツ国立グリンゴレット魔法学園』叶うならば元の身体に。出来ぬのならば、せめて事の真相を知りたかった。あと絶対にヤツはぶん殴る。
ただそれだけの儚い希望を抱いて、俺は学園の門をくぐる。
この世界には神と大悪神、そして人間が存在していました。
かつて神はシェイヴァゼル大陸を護るため、一人で大悪神と戦っていたのです。
しかし大悪神は神が作った人間の欲望を利用し、七柱の邪神を生み出し悪虐の限りを尽くしました。
それを悲しんだ神は、七人の心美しい人間を召し上げ神の使いに昇華させ”ルクス”という七つの神器を与え大悪神と邪神の討伐を命じました。
七人の神の使いは七人の王となり、人間を率いて戦いました。
ですが、欲望に負けた十人の王が結託し連合国を形成、神の使いに対抗したのです。
これを神代戦争と呼びます。
二百年続く戦争の後、ようやく平定した人間界は七人の王の後継者に統治を委ね、天へと帰って行きました。
それから千年ほどで現在に至り、周辺諸国からの侵攻が稀にありますが……概ね平和な時代が続いています。
このグリンゴレット魔法学園は、七つの国に数ある魔法教育機関の中でもトップクラスの成績を持つ者が集う事で有名な学園じゃ。
小等部から大学までエスカレートで行ける者もいれば、途中から受験で入ってくる者もいる。小等部からの生徒を純血派、受験組を混血と差別する輩もおる。
そして魔法に関わる講義から、政治や法律に関わる講義、果ては魔力の乏しい一般人用特設コースである薬学科が存在する。ちなみに薬学科は魔法教育協会の指針で一定数の人間しか入れず、また諸経費を含め一切を学園側が負担する事になっている。
そんな待遇が更なる差別を生み、他学科の生徒からは「ゼロ」等と揶揄されておる。
「だからと言って、ワシら教師はそれを認めておらんのじゃから、見つけ次第処罰するぞ、覚悟しておけ」
一見子供のように見える低身長の女性、いや幼女が新入生への挨拶を終えて自分の席へと戻る。 驚く事にその席は学園長席であり、彼女が学園長である事を示していた。
「あんなのが学園長だなんて……」
隣から聞こえてくる驚愕とも落胆とも取れる声、その声の主を見るとセミロングの茶髪を下に垂らしガックリと肩を落としている。
「どうした……?」
異様なまでの落ち込みっぷりを見て、つい声をかけてしまった。
その瞳はギロリと鋭く俺を睨みつけ、捲し立てる様に、しかし小声で俺に訴えてきた。
「だってあんな子供が学園長って嘘でしょ!? 私はあんな子供に教えを請う為に頑張ったんじゃないわよ! ああ、兄さんゴメンナサイ、私やっぱり無理かもです、あんなのにどうやって魔法を教えてもらえばいいのですか!?」
早口で言われたせいであまり頭に入って来なかったが、一つだけ訂正することがある。
「ちょっといいか? あの学園長はさ、見た目じゃ分からないけど"原初の魔法使い"の末裔なんだよ。だからあんな姿でも、実は数百年の時間を生きてるんだ。しかも一時期は婆になった癖に時の魔術であの姿に固定してるんだ。だから、お前が後悔するような低レベルな学園じゃ無いって事は理解しといてくれ」
慣れないスカートに気を回さず足を組み替えたせいで、露わになった太腿に周りの男子の目が集中する。
それに気がついた愚痴少女は赤い顔をして膝掛けを俺の足にかけてくれた。
「馬鹿、見えてるわよ……」
「え? あ、すまん……」
この時、以前は尊敬していた学園長のフォローに気を取られすっかり忘れていたのだ、今の俺は小柄な少女である事に。まさしく学園長のそれと大差なかったのだ。
「さっきは助かったよ、有り難う」
入学式終了後、隣の席の愚痴少女と学園備え付けのカフェでお茶の真っ最中、勿論助けてくれた彼女の分は俺持ちだ。
ズズッと紅茶を軽く一口飲み、呆れる様な視線を向けて力の抜けた声で俺に問いかける。
「あなた、言葉も行動も男っぽいけど庶民ってそういうものなの?」
どうやらこの口ぶりからすると彼女は貴族らしい、更に庶民との交流がない箱入り娘とのようだった。
「んー、まぁ俺が特別なんじゃないか? 俺には家族が無いから分からんし」
紅茶を口に含む。何気なく言った言葉だったが一瞬気不味い雰囲気になる二人。彼女は謝ろうとしてくれているのか口をぱくぱくと動かすが、タイミングを逃したらしく紅茶のカップが行き場の無い口を塞いだ。
このままではマズい方向に勘違いさせてしまうので、ちゃんと訂正しておく事にする。
「いや、でも死んじゃいないし何処にいるかも分かってるんだよ。ただ、俺の実の親が分からないって話で、義理の親って言ってもかなり良くしてくれたと思ってるよ」
「な、何よ! 別に心配なんかしてないんだから、どんな理由かなんて知らないけど私には関係ないわよ!」
またしても早口で捲し立てる愚痴少女。顔が赤くなっているのは照れからだろうか、案外可愛い所が有る様だった。
「えーっと、これもさっきのお礼って事でどーぞ?」
自分の分のチョコブラウニーをスッと彼女に差し出す。
「むぅ……」
ズズ と紅茶を啜つつ差し出したケーキを受け入れる愚痴少女、っとそうだ、彼女の名前を聞き忘れていた。
「なぁ、お茶に誘っといて何だが……俺、まだ君の名前を聞いてなかった」
愚痴少女は不審そうだった顔を一気に破顔させ、くっくっくと堪える様に笑っている。
「そうね、私……名前も知らない誰かとお茶を飲んだのは始めてよ」
尚も笑いを堪えつつ、しかし先程のしかめっ面よりは数倍魅力的な笑顔だった。
「じゃあ俺から先に、俺はエリス・ブラックライト。地方の山から出てきた田舎者だ、君は?」
「それを自分で言う? 私は”エミリー・ローズ・フォン・ガーランド” ガーランド家の四女よ。本当は持ち妖精のヒメもいるんだけど、今は儀式とかで国に帰ってるの。また今度紹介するわね」
へぇ、妖精使いか……と考えていたが、俺は彼女の名前を反芻してピンと来た。
何せ俺はその名を過去に聞いた事があったから、俺がこの身体に堕ちた間接的な原因。
「ああ、やっぱり貴族だったのか。しかもガーランド家って言ったら、マリーって姉がいるだろ?」
さっきまでの笑顔が急に消え、目線を逸らして応答するエミリー。しかし俺はそれに気付かず続けた。
「そうだけど……?」
「やっぱりか、道理で似てる訳だよ」
つい懐かしさが先に出て、マリーとエミリーを見比べる。
しかし、エミリーは怪訝な表情を浮かべたまま質問を始めた。
「ねぇ、さっきの学園長の件と言い……詳しすぎるんじゃないかしら。あなた、純血派じゃ無いのよね?」
「へ? えーっと、ほら! やっぱり憧れてこの学園に入ってる訳だからさ、学園長と五大元素唯一の女性で水の元素師ならやっぱり調べちゃうよね!」
持ち前の少女声で捲し立てて誤摩化す作戦に出る。
「本当に〜?」
「本当だって!」
そう言いつつも、目線を逸らしてしまう自分の正直さが恨めしい。
純血派というのは、小等部からこの魔法学園に通っている、いわばエリート集団のことを言う。俺は前も高等部からの入学だからそんな連中とは無縁なのだが、わざわざ言う様な事情でもない。
「……まぁいいわ、あなたみたいなバカ正直な人がスパイなんて出来そうにないし」
はぁ〜と溜め息をつきながら、そんな馬鹿にする様な言葉を投げかける。
「そ、そりゃどうも……」
怒りたいところだが、秘密のある身としてはそこから先は言えなかった。 そう言えば、昔マリーにも同じような事を言われた気がする。
懐かしさに浸りたいところだが、意外な繋がりを見つけてしまった事に軽く後悔してしまう。せっかく友達になれそうだったのだが、エミリーとは距離を置くべきなのだから。
「さて、そろそろお開きにしましょうか。寮の整理がまだ出来てないのよ」
荷物を片手に立ち上がり、給仕を呼んで片付けさせる。
そう言えば、この学園は全寮制なのだった。以前は特別待遇の身なので個室だったが、今は最底辺の新入生。当然四人部屋に振り分けられるのだ。
しかも個室は無くパーティションも無い、唯一あるのはベッドを区切るカーテン位のものだった。俺の状況を考えると個室が望ましいのだが、誰が敵か解らない以上能力をひけらかす事は出来ない。幸い薬学科は落ちぶれ魔法使い御用達学科なので、エリートである貴族のエミリーと同室に成る事は無い。そこだけは安心だった。
「そういえば、エリスは何号室なのかしら?」
エミリーが何気無く聞いてくる。遊びに来る気満々な気配を漂わせながら、期待に満ちた瞳で見つめている様子がひしひしと感じられる。
「さ、三○五号室だけど……」
まぁ遊びに来る程度なら問題ないだろうと思い、素直に教えたのだが……エミリーの驚いた表情で、もしやと悟ってしまった。
「三◯五号室って、西棟?」
「う、うん」
お互いに怪訝な表情を付き合わせていたが、エミリーの一言で俺の懸念は確定した現実として理解せざるを得なくなった。
「同じ部屋なのね……」
「ねぇエリス、そろそろ食事に行かない?」
あれから数時間、一緒に部屋へと戻った俺達は荷物の整理を続けていたが、落ち着いた様子のエミリーが夕食のお誘いをしてきた。
貴族のお嬢さんにしては使用人も無く、自分で荷解きをしていた事を意外に思っていたのだが、てきぱきとこなす姿を見ていると何故か安心感すら感じた。
「ああ、ちょっと待っててくれ、今行くから」
俺は着替え以外に荷物もなく、手持ち無沙汰に任せてベッドで寝転んでいた所だったので断る理由は皆無だった。快諾した後で最低限の身なりを整え、エミリーと一緒に部屋を出た。
「そう言えば、もう一人は良いのか?」
食堂へと向かう道中、話題と思い不思議に感じていたことを聞いてみる。
俺たちの部屋は四人部屋なのだが、一人分が空いている状況なので後一人がいる筈なのだ。
「アイリスって娘みたいなんだけど、私も話したこと無いのよ。いつ見ても寝てて挨拶できないのよ、あの娘」
「はぁ、飯食わなくても大丈夫なのかね?」
「…………………………………………」
無言で俺を見つめているエミリー、しかしその視線に情は無く、酷く冷たい視線だった。
「な、何だ?」
「貴女ね、まがりなりにも貴族学園の女生徒なんだから、もう少し女性らしい話し方は出来ないの?」
「んな事言われてもなぁ……」
頭をぽりぽりと掻き、顔を背けて誤摩化そうとする。
「分かった、分かりました。それなら、今日から私が淑女の礼節をその身に叩き込んであげます!」
「いや、いらな……」
「い い か ら! や る のっ!!」
何故かエミリーの瞳には炎が揺らめいて見え、彼女のヤル気が本気だと如実に語っていた。
だから俺はこう答えるしかなかった。
「……はい……」と。
総文字数、約8万。
すくなっ!
でも頑張った、がんばったんだよぉぉぉぉぉぉっ。
これ処女作なんだ、ノリとテンションを上げる為にPSO2の採掘基地防衛戦の曲をループして聞きながら書いてたんだ。それでも途中で色々現界が来たから俺達の戦いはこれからだ! エンドなんだ。
こっちでは続き書こうかな……。読みたいという方が居れば、書きます。