表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続・信長戦記 〜第六天魔王は異世界に召喚されました〜  作者: 夜長月虹
第弐章【森の民】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/21

その拾参【予感する魔王】

『――さあ、目覚めよ。目覚めるのだ……選ばれし者よ』


 大仰な言葉で眠りを妨げる声。

 なんとなく覚えのあるそれに、儂は思わず目を覚ました。


「……なにをしておるのだお前は……」


 呆れた調子で言いながら顔を向けた先には、


「てへっ。いや〜、一回やってみたかったんだよね。こういうの」


 見知った神――マクネロの明るい笑顔がそこにあった。


「やっ! どうだい調子は? ミレイちゃんとは上手くやれてる?」

「どう、と言われてもな……」


 返答に困る。

 今の所、嫌い合っているようなことはないが……ミレイ……あれのことは読めん。


「ふむふむ……まあ、問題はなさそうだね。よかったよかった! ……そうそう! 僕からのプレゼントには気付いてもらえた?」

「魔術のことか? お前、儂になにをした?」

「いやいや、そんな大したことはしてないよ? 僕が調合した特製の“霊薬エーテリオン”を、ほんの数滴お茶に混ぜただけで……」


 やっぱり盛ってやがったかこの野郎!

 儂は額に手を当てて溜め息を吐いた。


「まあまあ。でも便利でしょ?」

「それは……まあ、そうだが」

「ね? そりゃあ、もし才能がなかったら体が弾け飛んだりしたかもしれないけど……」

「おい!?」

「いや冗談! 冗談だよ? そもそも才能があるから呼んだんだし!」


 まったく、どこまでもふざけた奴よのう。

 まあ、よい。茶番はここまでだ。


「それで? ここは……なんだ? 夢か?」


 そこは――星空の中、としか言えないような空間だった。

 上下左右が曖昧で、見えない足場の上に立っている。奇妙な感覚だ。正直、気持ちが悪い。


「あははっ、気持ち悪いは酷いなー! せっかく夢を通して僕の領域に連れて来てあげたのにー!」


 マクネロは神らしからぬ軽い口調で笑い、突然現れた椅子に腰を下ろした。

 というかさらっと心を読みおった。やはり気持ち悪い。


「傷付く! 神に傷を付けるなんて……やるねぇ君」

「戯れるな。用件はなんだ?」


 わざわざ夢の中にまで出てきおったのだ。

 用もなくそんなことをする訳がない。


「うん、お察しの通り、ちょっと大事な話があるんだ」

「ほう?」


 その言葉に思わず眉をひそめる。

 相手は神だ。此奴の言う“ちょっと”が、はてさてどれ程のものか。

 儂は耳を傾け、次の言葉を待った。


「――いるよ」

「む?」


 なにがだ? とは聞くまでもない。


「君のすぐ近く、間違いない――“魔族バイス”がいる」

魔族バイス……とはなんぞ?」

「魔王に仕える種族……分かりやすく言うなら、敵だよ。詳しい居場所までは分からないけどさ……存在は感じる。なにか企んでるかも……だから、気を付けてね」


 神よりの警告。

 それを咀嚼して飲み込んでいる間に、


「おっと残念。時間切れだね……」

「ぬぉッ!?」


 突如、違和感。

 己の体が透き通り、消え始めているのが目に入った。


「こ、これは……!?」

「大丈夫だよ。ここにいる君は精神体。多分、現実の肉体が目覚めようとしてるんだね」


 つま先から急速に体が消えていく。それに伴って意識も軽薄になってきた。


「おい、待て! もう少し、詳しく――」


 儂の叫びも虚しく、星空はぐにゃりと歪む。


「――頑張ってね! ミレイちゃんによろしく!」


 そんな声と共に、視界は全て、黒に染まった。



***



 意識が引き戻される感覚。

 重たかった瞼を、ゆっくりと持ち上げる。


「……っ……」


 小さく欠伸を漏らしながら身を起こす。


「……おはよう……」

「ミレイか……お前、ずっとそこに?」

「……ん……」


 平然と言うミレイ。

 やれやれ、大した奴だ。

 儂は少し呆れ顔になりながら、部屋を見渡した。窓から差し込む柔らかな光が、部屋を仄かに照らしている。

 今は……黄昏時か?

 それなりに寝ていたようだな。


「あれは……夢……?」


 いや、違うか。

 あの空間、あの声。マクネロの軽薄な笑い。全てが鮮明で、現実の出来事として脳裏に刻まれている。


 そして、


『――“魔族バイス”がいる』


 耳に残った、不穏な言葉。魔王の手先。


「……近くに、か」


 呟くと同時に、扉の向こうから軽快な足音が聞こえてきた。

 次の瞬間、コンコンと控えめな音が響く。


「お休みのところすみません! ノブナガさん、起きてますか?」


 明るい声。フィオレだ。


「うむ。待て、今行く」


 返事をして立ち上がる。

 扉を開けるとそこには、心做しか興奮気味のフィオレの姿があった。


「ノブナガさん! ……と、ミレイさんも居たんですね! ちょうどよかった! お二人に伝えたいことがっ!」

「分かった分かった。少し落ち着け。どうしたのだ?」


 息を整えるフィオレ。それでも興奮を抑えきれない様子で、彼女は言葉を続けた。


「グラスが……グラスが、目を覚ましたんです!」


 グラス――森で出会って以降、眠り続けていた少年の名。

 そうか、目覚めたか。


「それは良かったな」

「はい! 良かったです、本当に……」


 朗報。

 安堵の顔を浮かべるフィオレに、儂もまた一時の安心を得る。


「それで、グラスが是非二人にお会いしたいと……お礼を言いたいそうです」

「クハハ、それは殊勝なことだ。よかろう、案内せい」


 フィオレが頷いて「こちらです」と一言。儂らはその後に続いて歩き始める。

 それから程なく、


「この部屋です」


 指し示されたのは、小ぢんまりとした客間だった。

 ゆっくりと扉を開けるフィオレ。


「グラス、連れて来たよ」

「うん、ありがとう。フィー」


 幼い男子の声。

 部屋の中を見ると、窓際に設けられた簡素な寝具、その上に、一人の少年が座っていた。

 それと、もう一人――


「やあ、御三方。お揃いで」


 少年の傍らに佇む男――薬師アラクの姿もあった。


「……それじゃ、診察も終わったんでアッシはこれで……グラス坊っちゃん、大丈夫だとは思いますが、くれぐれもご安静に」

「はい、ありがとうございます」


 ゆっくり立ち上がり、用は済んだとばかりに部屋を去るアラク。

 そのすれ違いざま、


「本当に良い薬をお持ちで。傷口は勿論、瘴気まで完全に消えてやすぜ。後遺症の心配もいりません。安心してくだせぇ」

「で、あるか」


 それならば、助けた甲斐があるというものだ。


 扉が静かに閉まり、部屋に残ったのは儂とミレイ、フィオレ、そしてグラスの四人だけとなった。


「改めて……グラス・エルフォーゼです。皆さんのことは、そこのフィオレとアラク先生から聞きました。危ない所を救っていただき、本当にありがとうございます!」


 グラスの目はしっかりと儂らを捉えていた。少し前まで意識を失っていたとは思えぬ程、澄んだ瞳をする少年だ。


「よいよい。たまたま居合わせただけのことよ。お前こそ、その手で一人の命を救ったのだ。誇れ」

「僕が……?」


 グラスは驚いたように目を瞬かせる。


「そうだ……のう、フィオレよ?」

「うん……グラス、あの時はありがとう。守ってくれて」

「そ、そんな……僕はただ必死だっただけで……結局、なにもできなかったし……」


 頭を下げるフィオレに対し、赤面しながら応対するグラス。

 そのやり取りだけで、二人の関係性がなんとなく見えるようだった。

 儂は思わず口元を緩める。


「仲良きことは尊きなり、だな」

「えへへ。実は、生まれた日が同じなんです。私達」

「ほう……で、あるか」


 面白い偶然だ。それならば二人の繋がりの強さも知れるというもの。


(幼馴染か……)


 そういえば、又左(※前田利家)らは今頃どうしているのか……?

 気にはなるが、知る由もない。


「是非に及ばず…………さて、用件はもう終いか? なにもなければ、儂らはそろそろ……」

「あ、すみません! 実は一つ、お願いが……」


 改まって言うグラス。儂は眉を顰めながら視線を向けた。


「なんだ? 言ってみろ」

「明日の調査……僕も、同行させてもらえませんか?」

「グラス!?」


 突然の提案に目を見開くフィオレ。一方で、少年の表情は真剣そのものだった。


「迷惑はかけません! 邪魔と思えば、遠慮なく見捨ててください! だから、お願いします!」


 どうしたものか?

 断るのは簡単だ。

 傷が癒えたとはいえ、まだ本調子ではないだろう子供。戦闘経験も、おそらく乏しい。間違いなく、足手まといになる。

 だが、


「……何故だ?」


 戯れ言と斬り捨てるには早い。儂は静かにグラスへ問い掛けた。


「強く……なりたいんです」

「強く?」


 短く返した儂の声に、少年は揺らぐことなく頷いた。


「嫌なんです。弱いままの自分が。あの時も、フィーを守れたのはただの偶然で……もし二人が助けに来なかったら、きっと今頃……」


 言葉を詰まらせながらも、グラスは拳を固く握る。


「だから……戦う力が欲しい。強くなって、大切な人を守れるように」

「グラス……」


 フィオレが小さく呼び掛ける。

 儂は、しばし無言で少年を見つめた。

 その眼差しに、嘘はない。ただ真っ直ぐで、純粋な願いが滲んで見える。


「成る程……心意気は分かった」


 儂は腕を組み、静かに言葉を紡いだ。


「だが……それだけで連れて行くことはできん」


 その言葉に、グラスの肩がびくりと震える。


「強くなりたい。そう欲するなら、まずは与えよ。ただで足手まといを庇う程、儂はお人好しではない」

「……っ……!」


 グラスは悔しげに唇を噛む。

 だが、儂は構わずに続けた。


「問おう。お前には、なにがある? お前を連れて行って、儂らにどんな利があるのだ?」

「利……?」

「そうだ。ただ熱意のみでは無価値。故に……知識でも、技でも、なんでも構わぬ。お前を連れて行くに足る利を、この場で示してみせろ」


 グラスは俯き、唇を震わせながら言葉を探す。


「利を……僕が、与えられる……もの……」


 その横でフィオレが心配そうに彼を見守るが、やがて――


「……魔法なら、少し」


 その一言に、儂は眉を動かす。


「ほう? どんな魔法だ?」

「防御と、支援です。まだ下級しか使えませんけど……」

「で、あるか……」


 儂は顎を撫で、少年を見据えた。


「見せてみろ」

「……い、今ですか?」

「うむ、口先だけでは信用できん。お前が本気であるなら、この場で示せ」

「……分かりました」


 頷くグラス。

 彼は、深呼吸して目の前の椅子に手をかざすと、


「護れ――《レジストレイト》!」


 唱える。

 同時に、椅子の周囲を淡い膜のような光が覆った。


「ほう、これが……」


 儂は試しに拳を軽く当ててみる。コンコンと硬そうな音が響き、光の膜が波紋のように揺れた。


「どれ……」


 儂は腰の刀を抜き、椅子に向けて一撃。斬るつもりで振り下ろした。

 しかし、通らない。

 バチッと音を立てて、刃は光に遮られ、止まった。


「ふむ……なかなか」


 儂の評価に、グラスの顔がぱっと明るくなった。


「まだです!」


 更に少年は両手をかざし、呟く。


「失礼します、ノブナガさん……上がれ――《ブーステッド》」


 直後、己の体が軽くなったような気がした。力が、どこからか湧き上がる。


「むっ、これは……!?」

「身体機能を一時的に引き上げる術です……どうでしょうか……?」


 言い終えると、グラスは肩で息をしていた。

 やはり、まだ本調子ではないのだろう。だが、その瞳に宿る光は先程よりも強い。


「……どれ」


 試しに、儂は再び刀を振り上げ、光の膜に向けて斬撃を放った。

 すると、どうだ。その刃は容易く光を通り抜け、跡形もなく消し去ったではないか。


「なるほど、利は示したな」

「……じゃ、じゃあ!」


 グラスが顔を上げる。


「よかろう……が、勘違いするなよ? 戦い方を教えるつもりはない。それは、お前自身が考え、戦場で見つけるものだ」

「僕が……?」

「まあ、危ない時は守ってやる。せいぜい励めよ? 好いたおなごに良い所を見せたいならな」


 そう言った瞬間のグラスとフィオレ。二人共顔を真っ赤にして、


「い、いや、そんなつもりじゃ……」

「そ、そうですよノブナガさん! アタシ達は、べ、別に……!」


 などと言う。

 実に分かりやすい奴らだ。

 その姿に、儂は思わず頬を緩めた。


「クハハ、まあなんでもよい! とにかく、明日だ。グラス、お前はまず体力を回復しておけ。族長らへの話は、儂らが通しておく」

「はい、ありがとうございます!」

「すみません、皆さん。無理を言って……グラスのこと、よろしくお願いします!」

「……ん……任せて……」


 部屋に満ちるのは、少年の決意と少女の微笑み。

 だが、その裏で、儂の胸には神の言葉が澱のように残っていた。


 ――“魔族バイス”がいる。


 明日という日が、平穏無事なもので済むか、誰にも分からない。


「……楽しいのう」


 なにかが起きる。

 その予感に人知れず笑みを浮かべながら、儂はミレイを促し、その場を後にした。

こっちもよろしく!

「インバース・クロニクル ~職業料理人ですが、とっとと帰りたいので異世界救ってきます~」

https://ncode.syosetu.com/n4866ir/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ