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※1 「観覧車」

それは、世界が「水」に支配された世界。

それは、皆が「水」に慣れてしまった世界。

それは、全てが「水」を許してしまった世界。


それは、あまりに哀しい世界の話。


※1「観覧車」


率直に言います。

私は、観覧車が苦手です。

苦手というよりは、嫌い。乗りたい、乗りたくないの問題ではなく、乗らないのが私だったのですが。    「乗りたくないって言いましたよね?」

「ごめんね、安楽ちゃん」

「別にいいですけど」

本当は嫌ですが。

「にしても、観覧車って素晴らしいよね。」

と田幡さん。多分、この人は観覧車って素晴らしいよね、だから食事を一緒にしないか、というように観覧車からは外れた事を叩き付けてくるはずだ。だが、私は人に当たり障りない。とりあえず聴いてみた。

「何故ですか?」

「えー?そこ、聞いちゃう?」

持ったえぶるな、馬鹿。

「えっとね、僕、元々身長高いけど、観覧車に乗れば建物さえも上から見下ろせるから気分が良くならないかな?」

それを満面の笑みで言われるとこっちもどう反応してよいか判定できない。田幡 双作(たばた そうさく)が今、世界を揺るがす人物とかいっても誰も信じないだろう。ま、私は信じていますが。

「で。私は。その快楽行為に付き合ってるだけなんですか?」

「違うよ」

違うんかい。

「じゃあ、私は何のために、観覧車に」

そういうとにんまり微笑んで窓の外を指差した。田幡さんの色白い指から目を離して窓の外へ。

「変わってるよね」

「いつも通りです」

いや、多分、それがいつも通りなのは此処だけなんだろう。ちゃんと、それをちゃんと見たら、変わってるで正解なのだ。窓の外に広がるのは海。いや、大洪水の残骸だ。5年前に起こった大洪水なのだが、水は引かず、その代わりに異人が此処に入ってきた。規制という規制も発動せず、今は無人といっても大丈夫なくらい。

「変わって…ますね」

「だよね。これをどうにかしなきゃなんだろうけど無理にも程がある。銃に特化した僕でもそれはどうとも出来ない。」

確かに、田幡さんが銃に特化していたところで今のところ何も役立つ要素がない。

「だからなんだっていうんでしょうか?」

「君にはちょっとばかし」

「ぎゃっ…っ!

ぐるりと腕を捕まれ、窓に寄せられた。ギシギシと骨がなる。息苦しくて仕方ない。抗おうにも力の差が象とアリくらいだ。どうしようもない。

「というわけだ」

「どうっ!どういうわけですか!?」

そういい放ったが、右頬に風が当たるのがわかった。観覧車に窓はない。動けない体のまま、目を動かす。そこにはくっきりと丸く、分厚いガラスをつんざいた銃弾の跡があった。

「…あ、狙われてるんですか、田幡さん。」

「違うよ!僕じゃなくて君が!狙われているんだ!」

…。数秒フリーズして、咄嗟に馬鹿力を発揮し、観覧車の床にへばりつく。

「安楽…ちゃん?」

「……てめぇ…」

「ん?」

「てめぇっ!ふざけんじゃねーぞ?!そういう事、しってんなら観覧車なんか乗せんなって」

誰かに狙われてなければ今すぐ田幡 双作を捻り上げている所だった。ぐっと拳を握る。にしてもうざいったらしょうがない。見えないところからの攻撃なんてのは私が一番嫌いな戦法だった。しょうがないんでしょうがね、殺す専門の人は。ちょっとは殺される人の気持ちをしれってものだ。ま、無理なんでしょうが。

「で、私に何をしろと!?」

なげやりだった。

「あ、いや。だからね安楽ちゃん。君が命を狙われるということはこの地域に君しか居ないってことかもしれない」

そんなこと。知ってるっての。幼い時から育ててくれた祖母は居なくなったし、友達も何だかんだで死んだし。

「へー、そうなんですか。」

「だから、地域外の学校とかにいったらどうかなって」

そういって田幡さんは内ポケットから紙を取り出した。

「これが、この地域の権利書。これがあれば、この地域は安楽ちゃん、君のものだ。守りとおしなさい、いつかこの地に何かあった時。力になる」

ぎゅっと握った紙を私も内ポケットにしまった。なんて忍びないことを私の前なんかでいうか…。ファンタジーにも程があってアクションは1もなかった。ただ、私が言いたいことは。

「煩い、馬鹿。格好つけんな」

それだけだった。



それから79年。


「安楽婆さん、長生きしたな。」

俺、赤城 相馬がその運命を背負っていることをまだ、誰も知らないのだ。

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