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52万5600分  作者: 間内りおん
4/4

春で。さよなら、そして。

これは「僕」の春の記憶の話。そして、この物語の終わりであり、始まりである、位置づけのお話でもあります。これで「52万5600分」は完結となりますが、あくまで「僕」の記憶の中の一欠片の記憶です。なので短い話ではありましたが、話の中の彼らは幸せに思い出を重ねて行くでしょう。

ひらひらと桜舞う季節。


僕は家の近くにある桜の並木道で、

桜が舞うのを見つめ、春を感じ、涙した。


春は別れの季節。


君はいつものように桜の咲く季節にやって来たね。


……もう春なんだ。


あのね、逢いたかったよ。

本当に逢いたかった。


「きれいだな」と、隣で彼が言った。


「うん……」


僕はそっと君の手を握った。


……桜はきれい。だから好き。

だけど、春は嫌い。


だって、君はもうすぐ、

忘れてしまうもの。


僕たち人間が年を取り続けるように、

君は新しい風をこの大地に届ける為に、

新しく生まれ変わるんだ。


生まれ変わったら、忘れてしまう、

……僕のことも。


「桜もきれいだけどさ、

お前の涙はもっときれいなのな」


君はそっと僕のまぶたに口づけをした。


「バカ…泣いてな…んか…」


本当の春の訪れを告げるかのように

風の匂いが変わり、

君との別れの時間も迫ってきていた。


僕はとうとう我慢できなくなって

君にすがりつくように抱きついた。


「俺、またお前に恋をするよ」


「……忘れるのに?」


「何度忘れても忘れないさ」


「なにそれ……」


暖かな優しい微笑みが僕に向けられる。


「お前の…ヴァイオリンの音色、

最後に聴きたかったな」


君は僕が持ってきていた、

ヴァイオリンのケースを撫で、

それから、僕の頬を優しく包む。

優しい微笑みはそのままに。


僕は、また涙が流れそうなのを我慢して、

君の手にそっと手を重ねた。


そして、

静かに流れ去るこの数分を大切に心に刻み込む。


「最後じゃ無いでしょ?

また、僕に恋をしたら、

いくらでも聴かせてあげるから、

飽きるくらい、沢山…沢山…」


僕はそう言って微笑み返した。


ーーーーそして、君は、

桜の花びらが舞う中


消えてしまった。


君がどんな顔をしていたかなんて、

結局、涙が邪魔して分からなかった。


きっと、日だまりみたいな

暖かい笑顔だったんだろうな。


そういえば、

……次に逢う約束…できなかった…。


やっぱり、分かっていても

春の別れは慣れないや…。


こんなにも涙が止まらないなんて。




ーーーーーー。


ーーー。



“顔をあげて”


「……え?」


一瞬声が聞こえたような気がした。


顔を上げた先には、

雨のように降り注ぐ無数の桜の花びら。


僕の涙が、余計に花びらを揺らす。

まるで、万華鏡を見ている様だった。


これは、泣き虫な僕への

君からの贈り物だと思っていいのかな?


僕は一年…いや、

そう言ってしまうと短く感じてしまうから、

君と過ごした、52万5600分の思い出を

心の中で繰り返し思い出す。


春、夏、秋、冬。

とても幸せな思い出を。


“何度忘れても忘れない”

君の言った言葉が優しく心に染み入る。






あれから、どれくらい

時間が経っただろうか。


この桜が舞う風景を目に焼き付けておきたくて、

しばらく、桜の並木道でたたずんでいたら、

春の匂いと共に誰かの話しかける声がした。


「あんたの涙があまりにも綺麗なもんだったから、

桜たちが嫉妬してたぜ」


声の主はさっきまで一緒に居た

大好きな、君。


だけど、僕を忘れてしまった

新しい、君。


「なにそれ…」


「一応、口説いてるつもり」


「……変…なの」


「そうか?」


「…………ハハ」


真顔で言うものだから、

少し笑ってしまった。


そんな僕の様子に一瞬笑みを浮かべ、

君はふと、僕が持っている

ヴァイオリンのケースをじっと見つめた。


「お前、ヴァイオリン弾けるのか?」


「うん。一応。お祖父様みたいには、

まだまだ上手くは弾けないけどね」


「……トロイメライ」


「ん?」


「俺の一番好きな曲なんだ、

良かったら弾いてくれないか?

えっと…桜達も喜ぶから…さ」


そう言って、照れ隠しに

ハニカむ君をとても愛しく思う。


僕を忘れてしまっても、君の中に少しでも

僕の思い出の欠片が確かにあるんだと思うと、

やっと涙が止まったのに、 


嬉しくてまた泣きそうになる。


「……いいよ」


「…飽きるくらい沢山、弾いてくれるんだろ?」


「……!」


君と一緒に、

これからも沢山の思い出を作れば、

君の中に少しずつ降り積もって


いつか君が僕の事を忘れない、

春が訪れるだろうか?


これは結構な長期戦になりそうだ。

僕は君の事をきっと一生好きだろうから。


「あのさ…次は、いつ逢える?」


ヴァイオリンをケースから出しながら、

無意識にいつものように聞いてしまった。


「次は木々に緑が覆い繁、暑い季節かな」


君は優しく微笑んで、

僕の質問に

いつものように答えてくれた。


「うん。待ってる」


これから、また

僕と君と52万5600分…、

つまりは一年が始まる。


今年は君と、どんな思い出を作ろうか。


そんな事を思いながら、

弓を弾く。


君がリクエストした

「トロイメライ」が優しく

響きわたる。


優しい風が吹き、桜の花びらが舞う。



春は別れの季節。


そして、出会いの季節。


僕たちは再び出会う。


この先も、きっと、ずっと。


END.

だいぶお久しぶりになってしまいました。冬の話の後から、やっと完結する事が出来ました。とは言っても、作品自体は10年くらい前の物で最初から出来上がってはいたのですが、月日が経つと、色々自分の中で変わるものがあったり。全部の季節を加筆修正したら、ベースは同じなのですが当時の物と静かに変わってしまった事に、月日とは恐ろしやと思いました。連載中に先に投稿していた「ヴィオロン」という作品があるのですが、冬の話を加筆修正している時に“せっかくだからリンクさせてしまえ!”とリンクさせてしまったばっかりに、最終話の春の話は当初すごく短い予定が少しだけ長くなり、内容が少し(結構)変わってます。ここまで本当に有り難う御座いました!

間内りおん。

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