冬に。ドライブ
これは「僕」の冬の記憶の話。
夏、秋、と続いておりますが、
一番ほんわかしている感じではないかと
思っております。後、短編「ヴィオロン」に
少し(がっつり?)リンクしてる所もあるので
「ヴィオロン」を見てもらった方は、
この子は!と思って楽しんで頂けたなら。
しかしジャンルはBLに置いてます。
が、今回は《接吻》もありませんので、
この話だけでも…と、見ていただけたら幸いです。
カーテンを開けると、
そこには一面の雪景色が広がっていた。
ハァーと息を吐いてみる。
吐いた息はたちまち白くなり、
今日のこの寒さを物語る。
冬だ。冬がやってきた。そう思った。
そしてやっとまた君に逢える。
次に逢えるのは、雪が降る季節。
そう約束したんだ。
僕は、寒いのなんておかまいなしに、
パジャマの上から
カーディガンを羽織って外に出た。
もちろん、皆はまだ眠ってる。
外に出る時、
僕は階段を一段一段そっと下った。
静まり返った部屋の中。
君に会える嬉しさが高まって
まるでイタズラをした後のような
心地のいい罪悪感が階段を
一段ずつ下る度に降り注いできた。
僕はワクワクしてるんだ。
嬉しいんだ君にまた逢えるのが。
階段を下ると、扉を開ける。
そこには一面の雪景色が広がっていた。
「わぁー…!」
感動もそこそこに、
積もった雪にそっと足を着ける。
足跡が着いた。白い足跡。
皆はまだ眠っているから外には僕一人。
……君が居ない。
僕は君を探し歩き回った。
サク…サク…と、
雪の踏む足音だけが淋しく響く。
「…?だれもいないの…?」
いつもなら、ひょっこり現れるはずの
君の姿が見当たらない。
サク…サク…。
僕はしばらく歩いた。
早く逢いたい。そんな気持と、
もしかしたら逢えないんじゃないかという
焦燥感。
気が付くと、朝日が顔をだしていた。
ーーーーーー。
結局、君は現れず、
寒空の中ずっと外にいたせいか、
その夜、とうとう僕は熱を出して
寝込んでしまった。
嘘吐きーーーーー。
熱特有のダルさに頭痛も手伝って、
悲しい気持も通り越して
なんだか恨めしい気持になっていた。
僕には…俺を忘れないでって言ったくせに、
君が僕の事を忘れているじゃない。
僕はそんな気持を抱えたまま、
いつのまにか眠りについていた。
コチコチコチ……。
時計の音が静かに鳴り響いている。
お祖父様がお気に入りだった時計。
皆が寝静まった、夜中、
僕は静かに目を覚ました。
熱はもう下がったみたいで、
ダルさも頭痛もなくなっていた。
だけど寂しさだけは無くならない。
静かな部屋で時計が規則正しく
時を刻んでいる。
結局、逢えなかった…。
そう思った時…。
シャンシャンシャン……。
遠くからベルの音が
だんだんと近付いてくるのが分かった。
僕は急いで窓を開け、
逢いたくて逢いたくて
たまらなかった君を迎えた。
何故、君が来たのがわかったって?
それは僕にも分からないよ。
直感としか言いようがない。
だって君は僕にとって特別だから。
「…。遅いよ…。バカ…」
本当は逢えて嬉しいはずなのに、
照れ隠しに言ってみる。
「ごめん…。ちょっと、
手伝いをしてたら遅くなったんだ。」
「手伝い…?」
「ちょっとした配達のな。」
「配達…?…あぁ!!クリスマス!」
君の事ばかり考えてたから、
今日がクリスマスだってこと…、
すっかり忘れてた。
「実はまだ、終わってないんだ…。
よかったら、ドライブ代わりに
一緒にいかないか?」
彼はそう言って、手を差し出す。
断る理由なんてない。
僕は返事をする代わりに
差し伸べられた手を取り、
君が乗ってきたソリに乗る。
ソリには見た事のない、
大きなトナカイが二匹繋がれていた。
大きなソリを引く訳だから
羽とか生えているのかなと期待したけれど、
残念な事に羽は生えて無かった。
だけど、僕たち二人と大きな荷物くらい
軽々と運んでくれそうだ。
「さぁ、出発だ!」
君の掛け声を合図に、トナカイが走り出す。
今年のクリスマスは天気がよくて、
星も、月もきれいに輝いている。
空の上から見下ろす風景は
とても素敵で感動的だった。
そして、
僕はずっと思っていた気持を口にした。
「逢いたかったよ…」
「ん?」
君は照れているのか、
わざと聞こえないフリをした。
僕は悔しくなって、
「ずっっと逢いたかったよーーー!!」
と、大きな声で叫んでやった。
さすがにそれには君も慌てたみたいで、
「こら、皆起きちゃうだろ?」
少し照れながら、焦っている君が
僕は可愛いと思ってしまった。
そして、君は
悪戯っぽい笑顔を見せたかと思うと、
「俺も逢いたかったーーー!!」
と、大声で叫んだ。
次は僕が焦る番。
それから、二人して大笑い。
そして、
「…本当に、逢いたかったんだ」
彼は真面目な顔をして僕の耳元でそう囁いた。
真っ赤になった彼の顔は
まるでトナカイの鼻の様だった。
「そういえば、それは?」
恥ずかしさに耐えかねた君は
僕が部屋を出る時に持ち出した
ヴァイオリンについて尋ねてきた。
「うん…。今日がクリスマスって事、
忘れてて…
プレゼント用意してなかったから…」
「弾いてくれるのか?!」
「うん…プレゼントにはならないかも
しれないけど…」
「嬉しい」
僕は純粋に喜んでくれている君に
お祖父様が昔によく弾いてくれた
『トロイメライ』を選曲し君に贈った。
お祖父様みたいに綺麗な旋律を奏でる事は
まだ出来ないけれど、
ありったけの気持ちを込めて弾いた。
ーーーーーーーー。
弾き終ると、君からの拍手。
君の瞳に輝くものが見えた。
「こんなに綺麗な音を聴いたのは
久しぶりだ、ありがとう」
「そんな…大袈裟な」
僕は笑って言った。
お祖父様のトロイメライには
まだ、到底敵わないもの。
「あ…、俺…何も用意してない…」
「そんな、何もいらないよ」
「そういう訳には…あんなに良い音を
聴かせてもらったんだ、俺も何か
プレゼントしたい」
僕の演奏を気に入ってもらえただけで
嬉しいのに。君ときたら…。
「いいんだよ、本当に。それより……」
「それより…?」
「ううん。何でもないよ」
本当に何にもいらないんだ。
君が居てくれれば。
僕は、君が笑ってくれたり
喜んでくれたり、それだけでいいんだ。
「ずっと、好きだからな」
ふいにかけられた言葉。
「…うん」
トナカイが一瞬振り向いた。
僕は今どんな顔をしてるだろう。
多分、照れくさくて笑ってるんだろうな。
きっと、それはトナカイだけが知っている。
「おっと、配達急がないとな、
子ども達がお待ちかねだ」
ソリは僕たちを乗せて夜空を走る。
クリスマスにトナカイのソリに乗って
大好きな人とドライブ。
君の言葉が最高のプレゼントだった。
Next→Spring,
次回は予定として連載最終回となります。
次は春の「僕」の記憶の話。
よろしければ、次も是非。




