異国間恋愛
作品をすり替えておきました。
あいつは平然とそれを食べた。……私の前で。
「ほんっとうに信じらんない! 何なのよ!」
「ま、まあ落ち着いて……」
私は大声で、ある男の酷評をしていた。それをみんなが集まる学校の食堂内で。
学生の時にはいざこざが起きやすい。それは、大人よりも社会的な上下関係などの束縛が無いため、何をするにでも制約が少ないからだと思う。……もちろん、人に関する好き嫌いでもだ。
私の友達であるアンネがなだめようとしてきたが、ダメだ治まりそうにない。次から次へと、私の口からあいつへの悪口が零れてくる。
「だって、美味しそうなポテトを……ポテトをグシャグシャ潰して食べるのよ!? あんなことしたら、せっかくの食感が台無しじゃない!」
「でも、案外食べたらおいしいんじゃないの?」
アンネと、私はそりが合わないようだ。
「いいかしら、アンネ? 良く考えなさい。あそこまで潰してしまうのは、口の中で咀嚼しかけたポテトを吐き出してそれをもう一度口に含むことと同義だと思うの」
ポテトの神様が居たら憤慨して彼の脳天に雷を落としているに決まってる、と私は思った。
「そうかなー……」
「ほう」
私の目が座ったことに気が付いて、アンネはびくりと肩を震わせた。笑みを浮かべながら、アンネの両頬を円を描くようにつねってやった。
それは、本気の事じゃなくて普段のじゃれ合いだった。そこに――
「おい、やめないか」
私はアンネの柔らかく白い肌から指を離した。件のあいつが現れた。
「アラ、マルジーニさん、どうしたのですか?」
「どうした、ではない。彼女を苛めるのはよしたまえ」
「いじめ? いいえ、これは遊んでいるだけですよ。ねえ、アンネ」
「は、はい」
「ほら、そんなことも気が付かないなんて、あなたの目が節穴だと証明するのは、サルでもできそうですね」
私は、マルジーニの一挙手一投足のすべてが気に食わなかった。こんなにも他人に嫌悪を抱いたのは彼が初めてだ。
「……先程から、俺の悪口ばかり言っているようだが」
「そう聞こえました?」
「……何か、君の気に障る事でもしたか? もしそうなら、謝りたい」
それを私に聞かれても、分からない。これが俗にいう生理的に無理、という奴なのだろうか。
「特に理由はありません……が、私はあなたが大嫌いです」
「そうか、俺は君が好きだよ。ミリア」
視界が大きくぶれた――それが眩暈だと気が付いたのは私が倒れてからだった。
『あぶないッ!』
アンネとマルジーニが駆けてくるのが揺れる視界に映った。
私は地面に叩きつけられる衝撃を頭の中で描きながら、目を瞑った。
「……あ、れ?」
痛みは来なかった。
「……大丈夫か?」
だだだだだだ大丈夫じゃないわよ!
私は、彼にお姫様抱っこされていた。周りからはヒューヒューと口笛の甲高い音が聞こえてきた。
「うっさいわね、黙りなさい外野! それとあんたもいつまで私を抱えてるつもり!?」
「おっと、失礼した。……しかしまあ、待ってほしい」
「ハァ!? 離さないと両目失うわよ」
「それは困るが……俺はまだ答えを聞いてない」
答え。それはつまり…………」
「あ、あんたのことが、す、す、好きかどうか、ってこと?」
「そうだ」
好き――こいつを? いいや、ないないない。顔はシャープでいいし、目は切れ長で綺麗な青眼をしてるし、前にのぞ……ちょっと見えちゃったとき、腹筋は割れてていい体つきだったけど……。
好き。好き。スキ。すき。…………マルジーニの方を見る。私は彼を直視できなかった。
好き、スキ、すき――――――隙があった。
「ウォォォオオラァァァァ!!」
わたしを離さなかったこいつが悪い! マルジーニに神速の目突きを放つ。
決まった、と思った。けれども、当たった感触はなく、そこには何もなかった。
そして、私の唇はマルジーニの唇で塞がれていた。
「ッーーー!?」
私の顔は火傷しそうなほど熱く、心臓は飛び出そうなほどに激しい鼓動を打ち鳴らしてた。
マルジーニは、私の唇をゆっくりと離した。
「もう一度、言う。ミリア、君が好きだ」
「……わ、わたしなんかでいいの?」
私は今まで暴力女のレッテルを張られていて、恋とかそういったものは無縁だった。
「君が駄目な理由が無い」
「どうして……どうして私が良いの?」
「ふむ、気が強そうに見えて実はそうではなく虚勢を張っていて臆病なのだが、何かあると手が出てしまう……。それでも君は友達が困っているときには絶対に引かない」
……人に好かれたことが無いだけに、マルジーニにどう対処して良いか分からなかった。
「……後悔……しないでよね」
「後悔? 何に対して?」
ぐっと噛み締めて、私は大きく息を吸い込んだ。
「私を好きになったことに後悔したら許さないんだから!」
そう言って、今度は私から、マルジーニの唇を奪った――
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