四基
駅前で暴力沙汰があった時もよしおは平然と塾に来た。なんでもサラリーマンが極道の風貌の人たちに路地裏へ連れ込まれそうになっていたとかで、そこにひとり仲裁に入って行ったのがよしおだった。
僕はこの話を翌日になってけんちゃんから聞いた。よしおの顔にはあざができていたが、それは体育の授業でのことだと彼は言っていたのだ。
一事が万事こんな感じで、彼は決して自分の弱い面や苦しいところを人に見せようとはしなかった。これは彼を信頼する人たちに、よりいっそうの確信を与える性質であった。そして僕もまた、そんな彼の魅力が好きであった。
そして初めのうちは彼の口裏に乗せられていた僕も、いつしか何かあったであろうことが彼の顔から読み取れたりするようになっていた。
僕の勘が役に立ったことが、一度だけあったのだ。
○
ある日僕がいつものように自習室に行くと、まだよしおは来ていなかった。僕は誰もあえてとろうとはしないよしおの半指定席の横の机でひとり勉強を始めた。
しかしいくら待ってもよしおは来なかった。僕はその頃携帯電話を持ってはいなかったので、彼に連絡を取るすべはなかった。
よしおもたまにはすっぽかすこともあろうかとも思ったが、その時は何となく違和感があった。人と同じ間違いを犯すことを彼自身許すような性格だったろうか?僕はそれとなく思いついたことがどうにも引っかかってしまい、その日は切り上げて帰ることにした。
よしおを探すなら繁華街か路地裏、そのころにはそんな冗談がささやかれていた。僕はぶらぶらと彼の寄りそうな道々をのぞきながら帰っていた。
このあたりが特別物騒であるわけではない。しかし夜にもなれば色濃い人たちが集まり始め、あまり油断はできないような雰囲気があった。
とはいえよしおがそのような人たちに、たとえひとりであってもひけを取ることはないと確信していたし、事が起これば彼の取り巻き連中と言うのはそこらじゅうから駆け付けるはずであった。
だからドラッグストアの裏でゴミ箱につっこまれたよしおを見つけたのは衝撃としかいいようがなかった。