二基
そのころ僕は割と成績が良くて、模試でもあまり苦労なく点数が取れた。成績優秀者として掲示ことも多々あり、もやし少年の僕の唯一の強みと言えた。
とはいえ塾には成績優秀な者は僕のほかにもいくらか居て、僕がさほど特別な存在でなかったことは確かだ。だからよしおが僕に勉強を教えてほしいと頼んできたのは意外なことだった。
「僕が?」
というと彼はうなずいた。彼と会話したのはその時が初めてだった。同じ塾とは言え彼とはクラスが違ったし、何しろ無口な彼と話す機会などなかったのだ。
初めて近くで見る彼は思っていた以上に大きかった。僕の目線は彼の胸板くらいにあり、今彼がパンチを繰り出せば僕は5メートルは吹っ飛ぶだろうと思われた。
僕はゴクンと生唾を飲み込んだ。
彼はその時奇妙なキャラクター柄のTシャツを着ていて、おそらくそれは3人いる彼の彼女のうち誰かの趣味だと思われるが、そのシャツは彼の肉体を覆うには小さすぎた。彼が力を入れればそのシャツは正面からバリッと破け去るだろうと思われた。
ふとそんな想像をして僕は思わずにやりとしてしまった。その瞬間彼の腕が僕の肩にまわり、恥ずかしながらとっさに「ごめんなさい」と言ってしまった。
しかし彼はただ僕を自習室へ呼びいれただけのことだった。その時はあまりよく知らなかったが、彼は紳士であるのでその程度のことで激するほどの俗物ではなかったのだ。
とにかくそのころから僕と彼との勉強は始まった。週に二度ほどであったが僕が自習室に行くと彼はすでに座っていて、その体は椅子一つにおさまってはいなかった。
なぜ彼が僕を選んだのかはわからない。僕より成績優秀で風采のある生徒はほかにもいたし、その人たちより特別なものが僕にあったとも思えない。
あるいは僕のようなもやしに頼む方が、そういった生徒に頼むよりプライドが傷つかないと考えたのかもしれない。
いずれにせよ、そうして僕は彼と知りうことになった。