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第一章【1-4】

「着きました」話している内に到着した駐車場で、志賀が目の前の車をにっこりと指し示した。

「さ、乗って下さい」


言いながら志賀がキーでロックを解除した車は、

ファミリー向けにCMもされている大きめのワンボックスカーだった。

三列シートの、奥行のある車体は人も荷物もたっぷり入りそうだ。


「…ちなみに、これのローンは何年でしたっけ?」

「モノを買うのにローンなんて組みません」

「……秘密の組織の人は、高給取りでもあるんですねえ…」


千尋はしみじみとそんな事を呟きながら助手席に座った。

「そりゃあね、高給でもくれなきゃ、こんな仕事やってられませんよ」

志賀は笑いながらエンジンのキーを回した。


シートベルトを巻きながら、千尋裕也は

「志賀さんの車がこのワンボックスカーというのはちょっと驚きです」

と素直な感想を述べた。


「どうして?」志賀がきょとんとする。

「志賀さんは独身だし、ファミリー向けよりは

2シータ―のスポーツタイプとか好きそうかなと思ってたんですけど」


「ああ、スポーツタイプも、もちろん好きだよ。

でも、これに関しては実務も兼ねてるから」

「実務?」


「そう。大は小を兼ねる、だね。

自分の車を『業務』に使う事もないわけじゃないから、

そういう時、2シーターじゃ使えないでしょ? 機材も人も運べない」

「なるほど…」

志賀の手馴れたハンドル捌きで、車は静かに、そして軽快に走り出して駐車場を後にした。


その車の振動に身をまかせながら、

千尋はこんなとんでもない組織を創始したというオーナーの事に再び思いを至らせた。


「…目も眩むような金持ちが、

どうしてそんな組織なんて作らなきゃならなかったんだろう…?」

「金持ちだからじゃない?」

千尋の独り言に近い、呟きのような問い掛けに志賀はあっけらかんと答えを返した。

「え?」


「目も眩むようなお金持ち。時に世界も動かせるような金持ちだからこそ、逆に、

そういう組織を自前で持つ必要に迫られる事もあるんじゃないのかな…?

下々の俺には分からない事だけど…」


「……!」

そういう考えのなかった千尋は返答に詰まり、そしてハンドルを握る男の横顔を改めて見た。


この男、志賀諒介――

年は自分より一つ二つ位、下だろうか?

知りあって三年ほどになるだろうか。


手足も長く、バランスの取れた四肢の持ち主で、

すっきりと整った顔立ちは、精悍で見目も良い。


湿り気のない性格も、人なつこさを感じさせて悪い印象を人に与えない。

だが、それに騙されてはいけないのだろう、と千尋は思った。


彼は自分などが想像もつかないような様々な出来事を、

ずっと沢山『経験値』として積んできているはずだ、と。


「志賀さんは『A・S』に入ってどの位でしたっけ?」訊ねていた。

「そうだね。高校在学中に入ったから、もう、7~8年…経つかな…?」

「そんな頃から…」千尋は驚く。


三年間前、志賀と知り合う機会があり、『A・S』の事も知ってはいたが

立ち入った事はあえて訊かなかったし、その必要もないと思っていた。避けてもいた。


1ヶ月程前から『A・S』に協力する、という形と立場で力を貸し始め、

組織の仕事を間近に、目にする事となった。


また、今までの"協力"では顔をあわせる事も無かった志賀の、

仕事に関わる姿を、今晩は改めて間近に見た。


ターゲットを追う志賀の険しい顔つきや、

その機敏な動作をまじまじと目の当たりにすると、

自分が関わったこの組織も、この友人も、

やはりとんでもない相手だったのだなと、やっと知ったような気がした。


今まで、気さくな性格の志賀と普段に付き合う分には、

何も問題は感じなかったが、その日常の中での友人の姿とは全く違う、

見慣れない姿と表情に戸惑った。

そういった事は、今まではあえて考えなくても良いだろうと思っていたが、

やはり、そうもいかないらしい、と千尋は思い、自分の考えの足りなさを恥じた。


続く

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