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第一章 【1-2】

BL風味を目指しています。

「…うむ、分かったご苦労さん。その男を連行しておいてくれ。

それで今日の仕事は終了だ」


通信用インターカムにそう返答した男は、しわのある口元を緩めながら

後ろの席で地図を畳む男に「終りましたよ」と声をかけ、

男の、その左手の薬指に、鈍く銀色に光る指輪があるのを視認した。


声をかけられた男は、捕物劇の情景が既に見えていたようで

「そうですね。今回は思ったより早く終りましたね」

と安堵の表情を浮かべた。


運転席の男は「千尋さんのご協力の賜物ですよ」と、

地図をたたみ終わった男に謝意を表した。

「あの男はこの辺りで合成麻薬を売買してる連中の一応トップでしてね。

まださほど大きな組織というわけでもないのですが、そろそろ組織ごと潰さないといけなくて。

今回、この組織の他の拠点やクスリの製造場所にも同時に奇襲をかけたのですが

叩き潰すと同時に組織のトップを抑える必要がありました。

『頭』に逃げられてしまっては、結局、作戦は失敗ですからね。

その大事な部分を今回は千尋さんにも手伝って頂いたわけです」


千尋と呼ばれた男は

「こういう仕事なら、僕も協力し易いです」

と、表情をいくらか柔らげた。


表情を緩めるとまだ学生っぽく見えるな、と運転席で男は、

千尋と、その左手の指輪をチラリと見比べながら、まだ若いが

結婚も早いタイプだったんだな、と考えた。


「もうしばらくしたら、志賀もこちらに合流してきます。

そうしたら彼に送らせますから」「いえ、一人で帰れますよ」

「千尋さん。あなたをきちんと送り返す事も今回の仕事の内ですから。

あなたは『A・S』とは基本、関係がない立場なのに、

こうして我々にご協力頂いている…。あなたの安全確保も仕事の内です」


「はあ…」

千尋が生返事を返していると男は視線を車の窓の外の暗闇に向けた。

「来たようですよ」

そのようだった。カッカッと地面を叩く靴の音が近づいてきたと思うと、

助手席のドアがバタンと開かれ、男がどすんとシートに体を放り込んできた。


「仕事すみました、係長っ!」

シートに体重を預けながら運転席を見るその男は、

やはりこれも若々しい声で報告を始めた。

「行動が先手先手で掴めたので短時間で作戦終了出来ました。

本部への護送も今、済ませた所です。以降の取調べは俺の仕事じゃない」


そう報告を行う男は先程、逃げる男に手錠をかけた男だった。

はつらつとした表情と、しっかりとした意志を感じさせる

その顔立ちを、短めの、ややはねたクセのある髪がふちどっている。

「おお、志賀くん、ご苦労さん」運転席の、係長と呼ばれた男は

口元を綻ばせて部下を労った。


志賀と呼ばれた男は、後部座席の千尋を振り返った。

「千尋さんのくれる情報は正確なので仕事が楽でした。

負傷者も出さずに"目標"のすみやかな確保も出来たし、

仕事も早く片付く。万々歳だ」


その乾いた物言いに千尋は小さく苦笑した。

「怪我人が出なくて良かったです」

「係長、俺、千尋さんを送っていきます。それで今日は仕事を上がりますから」

「うむ、分かった」

「さあ、千尋さん行きましょう」志賀は千尋を促し、二人は車を降りた。


セダンから離れて歩きながら志賀は千尋に言葉をかけた。

「俺の車は一区域先の駐車場に止めてあるんで、

ちょっとそこまで、付き合って下さい」

二人が車から離れ、歩き出した場所は繁華街の、とある古ぼけたビル裏の路上だった。

その場所は今夜捕まえられた男が拠点にしていたビルと

さほど離れてはいない場所だった。


千尋はそれは当然だな、と思った。

あの捕物劇のあった駐車場。

そして捕まった男が最初に居たビルの一室から半径にして、

約200メートル以内の位置に居なければ自分の『追跡』は及ばないのだから、

『能力』の及ぶ範囲を考えると当然の事だと千尋は思った。


千尋裕也は右手をそっと自分の目の辺りに当てた。

彼には、ちょっと風変わりな"能力"があった。

それは一般的には「透視能力」と呼ばれるものであった。

通常の視覚では見る事の出来ない遮蔽された場所や、

遠くの場所での出来事を『視る』事が出来た。


つづく

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