表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/14

第一章 【1】

BL風味を目指してます。

息をきらせて男は逃げている。

年の頃は30代半ばのその男は、つんのめり、よろけながらも必死に逃げていた。

ゴミ箱を蹴倒し、酔客を突き飛ばしながら、真夜中の繁華街の裏路地を彼は逃げる。

人目を気にする余裕もない。

無精髭の目立ち始めた口元を喘がせ、

時折、後ろを気にしながら狭い路地を必死に走る。

繁華街の光から更に遠い、闇の勝る雑居ビルの狭間の、暗い細路地を、

男は手を擦り傷だらけらにし、ふうふう言いながら通り抜けると、少し広い道に出た。

男は辺りをキョロキョロと見回して、その道を今度は右の方向に駆け出した。



「……路地を出て右に走り出しました…」

膝の上に広げられた一枚の地図。その地図上に指を辿らせながら発せられた声は、

暗闇の中ながら、若い男性のものだと分かる。

その指は、そこからは決して見えないはずの、離れた場所にいる、

逃げる三十路男の辿る道を、地図上に正確にトレースし、

息をきらせて逃げる男のその姿を、その瞳に正確に捉えて、追っていた。

「…今度は左の、細い路地に入りました」地図を辿る指が、地図の一点を指し示した。

「…駐車場が近いですね。そこに行くつもりでしょうか…」

あえてルームランプはつけずに、ペンライトで手元の地図を照らし出す男の面差しが、

ほのかな灯りの中に浮かび上がる。


20代後半と思しき、若い、優しい顔立ちが地図に視線を落としている。

そんな彼と、彼の手元の地図を、前部運転席の男が、

座席越しに振り向いたまま見詰めている。

こちらは口元に刻まれたしわも、やや目立ち始める年代の男で、

セダンの後部座席に座っている若い男の言葉に真剣に耳を傾けていたが、

耳元に装着しているヘッドセット型の通信用インターカムを通じて、

男から伝えられた内容と、正確な地図情報を、仲間へと伝えた。


ハアハアハア…。

逃げる男は息を切らせながらもしきりに後ろを気にしていたが、

追ってくる気配がない事にホッとしながら、口元を悔しげに歪めた。

ボティガードとして雇っていた男たちは二人とも

最初の襲撃を受けた時に『ヤツら』にあっさりと地に沈められた。

素人ではなかったのに。『この仕事』を十分に心得ている連中だったのに。

ヤツらは一体何者だ?


返答の期待できない疑問が浮かぶ。ライバルの同業者だろうか。

それとも、どこかの抗争に知らず関わってしまっていたのだろうか…?

…とにかく逃げよう、と男は思った。

大丈夫だ。自分は襲撃をかわして今、逃げている。

そして自分に言い聞かせる。

ここは自分がよく知る地域で土地勘がある。逃げ切れる。大丈夫。

そんな事を考えながら男は道を進み駐車場にたどり着き、ホッと息を吐いた。


――よし、大丈夫だ。自分の運はまだまだ尽きていない…。

ポケットからキーを出しながら自分の車に近づく。

キーでロックを解除し、ドアを開けようとした時だった。

「うわっ…!?」

不意に後ろから伸びてきた腕が男の腕をねじり上げた。

抗う間もなく、気がついた時には、男は右腕を後ろ手に取られ、地面に膝をついていた。

「何…」男が首をひねって後ろを見ると、精悍な顔立ちの若い男がいた。

その男に抑えられた腕はガッチリと固められてビクとも動かなかった。


「き…きさま…!」

「残念だったな。うちには"高性能レーダー"があるんだ。逃げ切れやしないよ」

「クッ…!」

若い男は薄笑いを浮かべながら手際よく男に手錠をはめた。

「ああ、あるぞ。合成麻薬」


その声に、手錠をはめられた男がハッとして振り向くと、

そこには更にもう二人の男が居て、車のダッシュボードや座席の裏等を調べて、

彼の『売り物』を見つけ出していた。

見つけた男は手のひらの上で一辺が15センチ程のその包みの重さを感じながら

「大した分量だ。荒稼ぎだな」とコメントした。

「…お前ら、警察か…?」


捕まった男の、相手を伺うような目線に、手錠をはめた男はニッと笑って答えた。

「ざーんねん。その方が簡単だったかもねえ…」

「何…?じゃあ…」

「知ってる?『A・S』って組織」

「『A・S』…? クスリを売っているわけでもないのに、

あちこちの売買組織をつぶしにかかってる…っていう…あの…?」

「そう、その『A・S』なんだな、うちら」

完結目指して頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ