六歌(6)
「現代の殺人鬼、あるいは現代の吸血鬼」
どちらにしても大して変わらない、彼らが招くのは結果的に多くの人の死だ。
「まあ、なんでもかんでも『鬼』なんてつけてたら、本物の鬼さんに怒られそうだけど」
嘆息しながら、夜の街を歩く。時刻は日付が変わった直後。クロネコさんと会い、その後アパートに戻って仮眠をとったので目は冴えている。
熱帯夜ばかりで寝苦しかった時期をすぎて、秋の近づくこの季節の風は少し肌寒い。
新調した秋物ジャケットをかけ直しながら、辺りを見回した。
「クロネコさんの言伝通りなら、この辺りにでるらしいけど。そんな簡単に出会ってくれるもんなのかなぁ」
眉唾ものの話だったけれど、今はそれを信じるしかない。
クロネコさんからもらった資料は目を通した後で家に置いてきた。そんなことにはなりたくないが、場合によっては殺人鬼あいてに『殺し合い』を演じないといけなくなるかもしれないからだ。
等間隔に設置された街灯。
それが照らすのはウチのアパートから徒歩で20分程しか離れていない、河川敷沿いのサイクリングロード。車も通らず、たまに自転車や人がわずかに通るだけの場所だ。
「たしかに、ここなら誰も来ないだろうな。僕なら、ここが一番いいと思うけど」
もちろん犯人がここに来てくれるという保証はない。いくつかある予測ポイントの一つがこの場所というだけ。
「結局、なんの武装もなく来ちゃったけど、自分の身ぐらいは守れるかな」
相手がただの殺人鬼なら問題はないだろう。
けれど、『本物』の殺人鬼だったら……話は別だ。相手を殺すつもりはないにしても、ナイフの一本ぐらいは持ち歩くべきだったかもしれない。
「どうとも思ってはないけど、無闇矢鱈にっていうの、気に食わないし、それに……」
殺してまで救ってくれることを恋歌さんは望んではいないだろうから。
感覚を研ぎ澄ます。夜の空気は気持ちがいい。
思い出すのは初めて人を殴った感覚。一度では足りなくて何度も何度も拳を打ち付け、急所を狙い、試行錯誤を繰り返した一瞬、もしくは時間の止まった中で行われた行為。
ぎゅっと拳を握り締めたまま、とことこと街灯の下を歩く。
「あ、どうも」
「……どうも」
ふと、すれ違い様にスーツ姿の若い女性に会釈をする。通り魔事件への注意が促されているせいか、今までほとんど人とすれ違うこともなかった。
そんな時期に、女性の独り歩きは危ないだろうに、とは思ったが過剰に反応するのもどうかと、軽くスルー……してしまった。
「えっ?」
直後、ドサっと重たい音が響き、咄嗟に振り向く。
見ると、先ほどまで普通に歩いて、会釈した相手が地面に寝転がり、ぴくりとも動かない。
「どうも、こんばんわって感じかな」
その傍に、ニット某を目深に被った男が立ち竦んでいた。
感情の読めない平坦な口調。身長も思ったより大きくはない、せいぜい170ちょっとという感じだろうか。
「あれ、違った? てっきりオレのこと探してるのかと」
目の前で女の人を一人襲っておきながら、知り合いに話しかけるような気軽さで話しかけられる。
「うんうん、その目、その雰囲気は間違いない。君みたいなの来ると思ってたんだ」
突然の遭遇に噴き出す汗を拭いながら目を凝らす。
運良く出会えればいいやと思っていたが、まさか初日から出会えるなんて、僕は運が良いのかもしれない。いや、『あんな』のとの遭遇が幸運であるはずがない。
「あ、オレ? 本名はさすがに、ね。ジンとでも名乗っとこうかな。あ、これ殺人鬼の略ね、オレ、鬼とか神とか目指してるんで」
自称殺人鬼はニコリと笑いながら、ジンと名乗りを上げたのだった。
更新の間隔があいてしまいました。
申し訳ございません。その間なにをしていたかというと、ノベルゲームをつくっていました。
クリスマスイブ、なにそれ? 家でずっと作業でしたよ、ええ。
とは言うものの、ゲームの内容はいたって普通にクリスマスもの。簡単に説明しますと、ヤクザなサンタがあれやこれやと頑張る話です。……なんだこれ。
詳細はこちらまで↓
(http://blog.livedoor.jp/orugore/archives/3837702.html)
宜しければ遊んでやってください。