六歌(1)
吸血鬼なんかじゃない、それはもう殺人鬼でしかないのよ。
夏休みが終わった。
というのは高校生たちの話で、僕にとっては関係のないことだった。女子高生デビューを果たした風見が毎日楽しそうに登校するのを見るのが最近の日課だ。最近は文化祭が近いらしく、喫茶店とかいうベタな出し物の準備に追われているそうだ。
自分にもあんな時代があったんだろうなぁと回想すると、ついつい自分が年をとったような錯覚を覚える。まだまだ子供みたいな容姿と体内構造をしている僕が年を感じるなんて、皮肉なものだ。
8月が過ぎ、日差しの軽くなった並木道を淡々と進んでいく。気楽な大学生の夏休みは9月一杯まで、しかしそのタイムリミットも残り一週間程というところまで迫っている。
残りの大学生活は2年ちょっと、さっさと卒業して恋歌さんのところに転がり込む未来というのもいいかもしれない。生活としては今とあまり変わらないかもしれないが……。
「あら、また出たらしいわよ。通り魔事件」
「最近物騒ねぇー」
道中、人たがりから噂話が耳に入る。警察が道の一部を関係者以外立入禁止にし、その周りを数人の近隣住民が取り囲んでいるようだ。
「夜中歩いてたら、いきなりぶっさり」
「やぁねぇー、子供たちにも気をつけさせないと」
歩道を飛び出て、車道を通り人集りを迂回する。時々聴こえる話し声から、事件の概要を想像した。
夜一人で歩いていたタカシ君。彼は至って普通の青年だった、ただその日はたまたま夜中にコンビニに行きたくなった。どうしてもポテチが食べたくなったのだ。兄弟の多い彼の家庭ではお菓子は希少品。買い置きなど存在するはずもなく、必然的に彼はコンビニへと歩いて向かうことにした。彼はもう高校生、夜の一人歩きを怖がる理由もなく、ケータイの小さな灯りで照らしながら街灯の下を歩いて行く。どこにでもある光景、誰にでも起こりえる状況。
ただ、その日、彼はぶっさりと素知らぬ人間によってナイフを挿し込まれた。
「ばからしい、運が悪かったってところかな」
なんとも虚無感に襲われるような出来事だった。
人間なんていうのはほんとうに簡単に死んでしまう。それを防ぐ手段は多くない、けれどそれらを防げないのも自己責任。死の原因が運が悪かっただけだろうが、たまたま偶然が重なっただけだろうが、本来生き残るためにはそれ相応の『能力』や『覚悟』が必要になる。
みんなそれを平和すぎる生活の中で忘れてしまっているだけなのだ。
殺した相手が一番悪いことには変わらないが、運悪く死んだ人間のことを一々気に止めるというのはいかがなものか。こんなのは、身近な人間が死んでいないから言えることなんだろうけど。
「ご愁傷様」
だから、僕はどこかで死んだ人を見下しているのかもしれない。
僕のように見苦しい形になって、生にすがっている人間だっているんだから。
ついに六歌目。
私はプロットとかやんわーり決めて、あとはキャラが勝手に動いてくれるのを待つてきなことをよくします。
七歌目含めて、色んな伏線やら設定やら、拾っていければいいなぁ……。と肉の塊を煮込みつつ、休日の早朝に投稿。