五歌(6)
「さて、捜査開始と行きましょうか」
風見は何処かへ一人旅、高梨先生とはいくつかの資料をもらい今は仕事に戻ってもらっている。僕と恋歌さんの二人だけのほうが動きやすとの判断だ。
「女子高と言っても、夏休み中となると結構静かなもんですね」
「男にありがちな幻想は捨てるもんね。女子高なんてね……女子高なんてね……」
ぶつぶつと、忌々しげに呟く恋歌さんの様子から一つの疑問が浮かぶ。
「ずいぶん女子高に詳しいみたいですね、恋歌さん」
「そりゃそうよ。私の最終学歴も女子しかいない学校だったから」
思い出したくないと頭の押さえながら、唇を噛む恋歌さん。どうやらよほど大変な目にあってきたようだ。
「それにそもそも、女というのは陰か陽で言えば陰。オカルト的に言っても、女子高ってのは色々惹きつけたりもするらしいわよ。ま、そんなのよりも先に疑うものがあるとは思うけど」
意味深な笑を浮かべ、恋歌さんがある一室を指す。
「というわけで、さっさと行きましょう。まずは音楽室ってことで」
通常授業が行われる教室が並ぶ棟の隣側、音楽室や美術室文化部用の部室等が並ぶ特別棟の三階。高梨先生からもらった見取り図通りの位置に音楽室という札が確認できた。
「ベートベンの絵画の目がキョロキョロと動き出すなんて、えらく古典的な怪談ですよね」
「古典的だからこそ普遍なのよ。まあ時代が育んだ様式美ってところかしら」
教室の前で耳を澄ますと、細々とした声が聞こえてくる。時折、管楽器特有の音色が響いてくるところを見ると、吹奏楽部の部員たちが、本格的な活動の前に駄弁っているというところだろう。
「というわけで早速お邪魔しましょうか」
「なんか面倒臭そうなので、設定は恋歌さんにお任せします」
ニッコリと、笑いかけられてしまった。楽しそうに……。
「お邪魔します、吹奏楽部のみなさん。OBの山宮麗華といいます。こっちは弟の雄輔といって……」
ドアを開け、がやがやとした音楽室に突撃する。案の定設定は僕が弟、偽名なんかを使って適当に誤魔化すつもりらしい。
キョトンとする女子生徒に軽く会釈して音楽室の中央へと進んでいく。
この先は恋歌さんの話術頼り、まあ女の子をたらし込むのに定評のある恋歌さんのことだ、きっと上手くやってくれるだろう。
「これ雄輔っていうんですけど、どうです、可愛いでしょ。これでも大学生なんだけど」
僕としては自分に火の粉が飛んでこないことを祈るばかりだった。
なんかもう手遅れっぽいけど。
今日は祝日です。
なんでも文化の日とかいう日らしい……。
主に寝てるだけの休日でしたが何か。
と意地をはってみる。