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有恋歌  作者: 三木こう
人は浮いたりするものではない
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四歌(玄関)

「ほんとーに、ありがとうございました」

 最大限お辞儀され、感謝の言葉を送られた。

「いえいえ、無事で何よりでした、本当に」

 事務所の玄関、僕と恋歌さんがあれやこれやのゴタゴタを収束させ、なんとか帰ってくると、待っていたのは無事普通の人間に戻った明里さんだった。

 工場の資料にも残っていた通り、明里さんの身体はなんと工場での変な実験から逃げ出し、幽体離脱しかけの身体で本社のある市内の方まで戻ってきたいたのだ。

 その後身元を確認できるものもなく、身体一つで意識を失い倒れていた所を、近くの病院に搬送され、意識が戻らない日々を送っていた。けれど、僕らがあの機械を壊したおかげで、中途半端に被害を受け浮遊霊として縛られていた霊体が、本来の身体に戻れたようだ。

「それより大丈夫なんですか? 病院も無理やり飛び出してきたんですよね」

「いえいえ、確かに意識を失っていた期間は長かったですが、身体は健康そのものです。どうしても助けていただいたお二人に早くお礼がしたいと思いまして。それに、霊体でなんとかこうにかプレイしたゲームも大変面白かったんですよ」

 ニコリと笑いかけられ、思わず照れてしまう。

 そういえば、客間の据え置きゲームで時間をつぶしてもらったっけ。あれをプレイしてもらうのはとても骨がおれた。なんとか頑張って、コントローラーを揺らしたりするだけの簡単なやつなら、霊体でも干渉できると発見して二人で喜びあったりしたのは、なんだか不思議な体験だった。

「お金はきちんと払います。今日はお礼だけになりますが……本当にお二人ともありがとうございました」

 玄関で三人が立ちっぱなしのまましばらく雑談を交わした後、最後に明里さんが改めて頭を下げる。

「明里さん、会社のことは大変だと思いますが、今後同じことが起こらないよう、私の上司が対応しています。明里さんは気にせず働いて、ついでに私たちへの報酬でも払ってやってください」

 恋歌さんが冗談を交えて、明里さんを送り出した。

 その言葉に明里さんは嬉しそうな、柔らかい表情を浮かべ、綺麗に背筋を伸ばし、頭を下げ玄関を出ていく。誠心誠意、感謝の気持ちをぶつけられたようで、なんだかこちらまで暖かい気持ちになれたような気がした。

「さって、私たちはゆっくり休みましょうか」

「長旅でしたもんね。ついでに寝てませんし」

 工場での一悶着があったその日の夜、恋歌さんからの連絡を受け、颯爽と現れた社長が事態を収拾させたのが、翌日の午後。

 それから電車に揺られ、日も暮れたころに徹夜明けの僕らはなんとか事務所へと帰ってこれたというわけだ。

「はやく、車戻ってくるといいですね」

「もう後少しで完成らしいわよ。お盆終わりには終わってるんじゃないかしら」

 この身体にずっしりと残る重たい疲れの理由の一つは、移動手段が車ではなく田舎の鈍行電車だったことにもある。

「社長以外にも、なんだか色んな人が来てましたね」

「さすがに事が大きくなっちゃったからね。お国の『組織』も来てはいたけど……まあ迂闊に手を出せない分野なんでしょうね。あんなのほんとにイレギュラー中のイレギュラーよ。社長の焦った顔、久しぶりに見たわねぇ」

 焦点の合っていない瞳で虚空を見上げながら、恋歌さんが達観した溜息を吐く。

 今回の事件は僕らの思っていた以上に大きくなってしまった。霊体に手を出した組織、その会社の一部分は完全に国の力で『なかったこと』にされる。さすがに企業すべてが、あの事業に関与していたわけではないし、不要な部分だけの抹消はスムーズに進んでいるんだろう。

 たまたま巻き込まれただけの、明里さんのような本社の人間には、それほど影響はないはずだ。

 霊体の商業的利用なんていう馬鹿げた技術や知識は、これでまた闇に葬られたわけだ。あの主犯格っぽいサラリーマンの男の末路は、あまり考えたくないような事になっているだろう。

「とにもかくにも、一件落着ですね」

「……だといいけど」

 ひどく疲れた表情で恋歌さんが再びの溜息。その気持ちはわからなくもなかった。

「とりあえず、休みましょう。僕も恋歌さんも社長の手伝いで色々走り回されましたからね」

「そうね、昨日は寝てないし、とりあえずベットで横になりたいわ」

 タイミングよく現れた明里さんとの話も終わったし、今日は他に用事はないはずだ。なので、今から明日の昼過ぎまでぐっすりと爆睡することに障害はない。

「何か食べます? 簡単なものなら作りますけど」

「うーん、いいや、それより寝たい」

「そりゃそうですよね」

 恋歌さんと二人、玄関での会話を終了し、寝室へ向かうため、戸に背を向け方向転換する。

 さって、寝るぞーなんて、妙なことにヤル気を出していると、ガラガラと古めかしい音をたて、開けられた引き戸。

「ぷっはぁー。ほうほう、それなりに都会やの、この辺りは、ひとっ飛びでやってきたかったが、人間の使う電車とかいうのも中々楽しかったわ」

 まるで、当たり前のように、旅路の感想を喋りながら、今帰ってきましたというふうに現れた少女。

「親父の用意したこのキャリーケースとやらも便利じゃな。ついつい転がすのが楽しくなってしまう」

 まるで、旅行用の荷物を大量に抱え、これから外泊しますよという装備を見せつける栗色の髪の少女。

「お、久しぶりじゃの、若いの。約束通り世話になる。なーに、わちきは偉いからの、そんなには迷惑はかけんですむと思うぞ」

 玄関の塀に腰をかけ、靴置き場で靴を脱ぎ始めたTシャツホットパンツの少女。

「そういや、ちゃんとした自己紹介がまだじゃったな。聞いとるかもしれんが、わちきは東雲風見しののめふみ。これからしばらく世話になるぞ」

 満面の笑みが眩しい、風見と名乗る少女。

 突然のことに思考停止し、ぽかんと口を開け放心する僕と恋歌さん。

 ゴタゴタの中聞いた情報を、僅かに動く頭の片隅で思い出すに、彼女、風見は、俗にいう、風神とか、天狗とか、そう呼ばれる極めて希少価値の高い、『人外』に分類される少女だった。

これにてなんとか四歌も終了です。

今から広島→関西→広島の旅へと出かけます。帰りは月曜日に……


執筆中にミスを発見したり(明里さんを一部で明理と書いてたというミスが……。旅から戻ったらなおします 汗)

キャラクターの名前が定まってなかったり(ふみ という読みは決定していたのですが、史→風美→風見 という流れで変化。実際地の文内に突っ込んでみると、わかりにくかったり映えない名前ってのはある気がします……)


色々ありましたが、なんとかここまで。

さて、新しい話を考えないと……。

やっぱりあれですね、行き当たりばったりはきついですねw


風見さんの詳しい話は五歌へと持ち越しです。更新は来週末あたりを予定しています。

今後ともよろしければお付き合いのほどよろしくお願いします。


追伸:

空想科学祭の投票〆切りがすぐ間近です。投票の数が大変重要で、まだ足りていないようです。よろしければ公式ページ(http://sffesta2011.tuzikaze.com/)にて投票のほど、宜しくお願いします。


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