表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
有恋歌  作者: 三木こう
人は浮いたりするものではない
39/71

四歌(8)

「そこを、『動くな』ってね」

 恋歌さんが異質な声色で、男に命令を下す。その一瞬だけ、こちらまで伝わるほどに、言葉に重みが加わっていた。

 直立したままぷるぷると筋肉を揺らすだけで、身動きがとれないスーツの男を知り目に、問題の『何か』が眠っている工場の奥へと急ぐ。

「今の、言霊ですよね?」

「まあ、そんなものね。言葉に霊的な概念を乗せて飛ばす、私なんかのは、ちんけな小細工だけどね」

「見るの……というか、聞くの、久しぶりです」

「そりゃそうよ、こんなの普通に生きている分には役に立たないし……」

 一呼吸置き、恋歌さんはあっけらかんとした口調で言葉を続ける。

「私のは混戦状況だったり、相手が一般人でも精神力で跳ね飛ばされたり、第一、動きまわってる相手を止めるほどの拘束力はないもの。使えるのはさっきみたいにビビって威圧された相手を縛る、とかね」

「世の中、それほど万能なものはないってことですよね」

「チートみたいな異常があるくせに、その台詞、有理君がいうかな……」

 拳を握り、こめかみのあたりをグリグリと小突かれた。

 僕としては、こんな欠陥だらけの能力、万能なんて程遠いと思っている。今だって、恋歌さんの吸血行為で封印されているわけだし、身体の成長どころか、心臓とか臓器の動きすら止めてるような力に、万能なんて言葉は似合わない。

「さて、これが問題起こしまくってくれた原因ってわけかしら」

 しばらく歩くと、見せかけの流通ラインは終わり、きっかりと研究施設の様相をなした空間が広がっていた。

「誰も、いませんね」

「大方逃げたんでしょ、こんな研究してたんじゃ、やましいことしかないはずだし。まぁ、後で社長にでも手伝ってもらって、責任はとってもらいましょう」

 施設には誰もいなかった。

 あたりには、巨大なコンピューターや、精密機械の山、無造作に積まれた資料が、置かれている。よく見ると、慌てて逃げ去ったのか、投げ出された白衣や、床に転がるノートパソコンの姿が確認できた。

「で、まさかこれが」

「魂、ってところなのかしらね」

 施設の中心地点にでかでかとそびえた巨大な機械。用途不明、冗談みたいな科学チックな管やパイプで繋がれ、外付けのパソコンへと何やらデータを吐き出している様子が見て取れる。

 その機械群の中でも、極めて異質さを放っているのは、管やパイプが集約し、『何か』を輸送したのだろう終着点として存在する巨大な、フラスコのような入れ物だった。

 楕円に近い透明な入れ物の中では、もやもやとした霧のような何かが、今も動きまわっている。

「信じれません。けど……、霊体っていうのは、実体がないのに、人間の形をなしてますから、イメージとしては近いかもしれませんね」

「私だって、こんなもん、見の初めてよ……。まったく、どんな技術かは知らないけど、とんでもないもんを作ってくれたみたいね」

 眼の前のそれが、魂とか霊体とか、そんなオカルトチックなものだとすぐには納得できなかった。普段、不条理な世界や環境、現状や問題に首を突っ込み廻ってはいても、これほどのものだと、さすがに開いた口が塞がらないってところか。

 所詮、自分の知らないものには、驚き、脅えるしかなくて、僕らもまだまだ、この世には知らないことがあるちょっと踏み込んだだけの人間なのだと再認識する。

「れ、恋歌さん! ここ……、管が繋がってる先に、人が……」

 巨大な装置の奥に隠れるように、人が並んで眠るスペースがあった。

 皆が一様に、病院の患者が着るような簡素な白色の服で並んでいるその様子は、なんだか本当に人を実験道具としか見ていないようで、物哀しいものがあった。

「大丈夫、大丈夫ですか!」

 検査用につながれた細い線を外しながら、なんどか彼らの頬や、肩を叩いてみたが、反応はない。そして、ざっと見る限り、ここに並ぶ五人の中に明里さんの姿はなかった……。

「なるほど、この機械のせいっぽいわよね。魂は基本的に、本来の入れ物に戻る性質があるからして……」

 ぶつぶつと何かを呟き、恋歌さんは顎に手をあて考えながら、うろうろと歩きまわる。やがて、足取りは自然な感じで、メインモニタっぽい機械中央のコンピュータのところで止まった。

「れ、恋歌、さん?」

 思えば、今日の恋歌さんは機嫌が悪い。

 一年ぐらいの付き合いで、その上、いつも彼女に首ったけな僕が言うんだから、間違いない。だから、僕が悪い予感を感じてしまったのも仕方がないってもんだ。

「つまり、こうしろってことよね! てぃ!」

 見事な、かかと落とし。

 体術の得意な、恋歌さんらしい強烈な一撃だった。

みなさんこんにちは、木曜日の朝にごめんなさい(汗


というわけで、更新です。次回は土日の週末の予定。


ノッテきたのか、最近筆が軽いです。そのせいか、描写が増えて行っている予感。

私自身、先が気になり、はやく先のストーリーに進んでほしい! ってな人なので、ストーリーの進みはテンポよく行きたいなと思ってます。有恋歌も、ここからスピードアップしていきますよ、展開的な意味で。


さて、宣伝です。

まずブログ「ものかきがたり」http://mitukou.exblog.jp/

最近自分のブログ内で、私がおっ立てたゲームサークルスタッフ内でのしりとり日記をやってます。ムチャぶりと下ネタ満載ですので、よろしければ


次に、空想科学祭 http://sffesta2011.tuzikaze.com/index.htm

参加しました。私の参加作は、作者トップページからどうぞ。

現在投票期間中でして、投票数が少ないとたいへん困るそうです。よろしければ公式サイトから、数多ある素敵な参加作品を巡っていただければと。


それでは、長くなりましたが、今日はこのあたりで

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ