四歌(7)
「ちょいとそこのお兄さん、そこ、通してくれる?」
入り口でタバコを吹かす強面のお兄さんに近づくと、恋歌さんは満面の笑みで話しかけた。
「ああん、なんや姉ちゃん! ココはあんたみたいなのが来るとこや……って、ひでぶっ!」
そして、珍妙な叫び声をあげて、宙を舞う成人男性。
「あ……あでぇ……」
くるりと一回転し、背中をもろにうったのか、コーホーコーホーと苦しげに息を漏らし続けるその姿は、中々滑稽だった。ありていに言えば、ザマアミロってところだ。
「さーて、今日はお姉さん、頑張っちゃうんだから」
工場の正面入口から正々堂々と侵入する。さっきまでの潜入がどうやら、という前振りは、どうやらゲームに影響された恋歌さんの戯言だったようだ。
「恋歌さん、気をつけてくださいよ」
「大丈夫、大丈夫、相手は素人みたいなもんみたいだしね、私らにとっちゃあ!」
慌てて駆けつけてくる工員たち。
思った通り、相手は素人みたいで、訳もわからず手伝わされているだけの作業員もいるかもしれない。実際、事の異常さを感じ取った社員の中には、腰を抜かして逃げ出した人もいた。
これで、警察なんかでも呼ばれたら、僕らは傷害罪で捕まったりするのかもしれない。
もっとも、そうはならない。
「おい、お前ら、取り押さえろ」
そうさせないように、キチンと彼らの上司は、対応しているはずだから。
稼動していないベルトコンベアーの奥から、スーツ姿の男がガタイの良い男を連れてやってくる。最近使われた形跡のない、食品加工用のオートメーション工場はフェイクで、本丸はこの奥にあるってことなんだろう。
「ってめぇら! おとなしくつかまれ!」
「あら、ごめんなさい。今日は私、機嫌が悪いんです」
さらりと拳を避わし、恋歌さんが足をちょいっと男にかけ、掬い上げる。
それだけでバランスを崩した男は、宙を舞い、受け身を取れずに地面に叩きつけられた。合気道……僕もちょっと教わったが、恋歌さんレベルになると、あまり参考になりそうにない。
型とか、パターンとか、そういうものじゃない。手を添える、肩を押し付ける、足をはらう、そんな些細な行動だけで相手のバランスを崩してしまう。
とらえどころがないが故に、相手も対処に困るはずだ。
結果、恋歌さんはこの程度の相手なら、ちぎっては投げを、地で可能にしてしまう。
「てぃ! 恋歌サーン、ホントに今回、僕暇なんですけど」
実は隣にいるチッコイ男の方が弱いんじゃないかと気づいた一人が、僕の方に迫ってくる。その攻撃をなんとか崩しながら、合気道の体捌きで入身投げをかましてやった。
「いいじゃない、たまには。お姉さんにも暴れさせなさい」
背中合わせに、恋歌さんと頷き合う。こんなストリートファイト紛いなことをしたいわけじゃないが、相手が思いっきりぶん投げてもいい相手だと、結構やる気もでるってもんだ。
「ちぃ! 話が違うじゃないか! いいから全員、アイツらを抑えろ! こら、お前、逃げるな」
事情を知らない、純粋な一般人っぽい人たちだけでなく、ガタイの良い、戦闘要員として雇われたっぽい人たちまでもが逃げ出し始めた。
きっと、この仕事が、『何か』やばいということを知っているのだろう。
「さーって、種明かし、生者と死者を冒涜する、おたくの会社の商品、是非私たちにも見せていただけるかしら」
にっこりと、恋歌さんがスーツの男に笑いかける。
一方、管理職っぽいスーツ男は、青白い顔で、ひきつった笑いを浮かべるだけ。
まったく、美人の恋歌さんが笑いかけてくれてるってのに、そのリアクションはどうなんだ。僕ならきっと、喜ぶっていうのにさ。まぁ、いつも、無表情だからとかで、気づいてはくれないけど。
皆様、お久しぶりです。有恋歌、更新再開です。
次回更新予定は水曜日です。
ええ、ここ最近何をしていたかと、(言い訳)させていただきますと、空想科学祭2011に参加しておりました。
よろしければ、作者ページからそちらも拝読していただければと思います。
と共に、どうやらある程度の投票、アンケート結果が必要なようで、是非興味がございましたら、
企画サイト(http://sffesta2011.tuzikaze.com/)にのっております、作品群を拝読してみてください。面白い、驚かせる作品がたくさんありますので。
投票期間が終わるまでは、まだまだ祭りを盛り上げていきたいなーと思う今日この頃なのです。
ではでは、今日はこのあたりで