四歌(5)
「わちきに道を訊ねるとは……。旅行客かぇ?」
「ええ、そうですけど」
目的地に向かい、歩いていた道の途中。田んぼの脇のバス停で、ぼーっと座っていた女の子に話しかけた。
高校生ぐらいのTシャツにホットパンツという軽装の女の子は、左右に結わえられた長めのツインテールを揺らしながら、ん? と小首をかしげる。
「ええっと、大体の場所はわかってるの、ほんとに、でも一応、確認というか、なんというかね、ほら」
恋歌さんが女々しく言い訳をしていた。
スマートフォンの地図にべったりと目を寄せてはいるが、どうやらあまりにまわりが殺風景すぎて、道順が不安になってきたようだ。
「ほうほう、ここに行くのか? そりゃまた珍しい」
「珍しい?」
「ん、文字通りの意味じゃよ。その建物に『行こうなんて思うやつ』は珍しいからな」
地図を見せ、簡単な説明をしてみると、女の子は八重歯をのぞかせ笑いながら、ニヤリと笑った。
「旅行者さんやものねぇ。ウチの土地じゃあ、そこに行こうなんてモンは誰もおらんのよ」
「でも一応、大きな企業の関連会社で、再生紙やらの工場なんですよね?」
「そうらしいね。まぁウチのモンで働いとるのはほとんどおらんで、皆さん外からこられたようやけど」
一呼吸ため、
「あんまりいい噂は聞かんの。やから、わきちらでそろそろどげんかせんといけんと思ってたところや」
なまった独特の口調で、女の子は溜息まじりにそんなことを言う。
どうやら近隣の住民さんとの関係はあまり良くないらしかった。こんな高校生ぐらいの子に、どげんかせんといけん、なんて言わせるのだから。
「どうも、ありがとうございました」
「ん。そちらも、気をつけてな」
屋根付きのバス停で、何をしていたのか、少女は再びぐてーっと座り込み、何をするでもなく空を見上げ始めた。
「そちらの女の方。ずいぶん、良いメガネやの」
「ええ、結構な値打ち品なんですよ。便利ですし」
去り際にそんな言葉を投げかける、時代錯誤な喋り方をする少女。手を左右に振り、別れの挨拶で送り出される。
「風神様の、ご加護でもありゃあいいの」
最後にそう呟いているのが、微かに聞こえた。
ぶわっと風がふき、背中を押されるような感覚がほんの少し心強かった。
次回更新は、水曜日の予定です。
空想科学祭用の小説も来週あたりに、数回にわけて投下予定。ぐぬぬぬ、土日は、カードゲームとルービックキューブと執筆で終了してしまいました。