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有恋歌  作者: 三木こう
人は浮いたりするものではない
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四歌(4)

「恋歌さん、お尻が痛いです」

「その台詞、なんだか誤解を招きそうで嫌だわ……」

 お尻をさすり、とぼとぼと歩く。

 場所は県境付近の片田舎。昼頃に事務所を飛び出し、鈍行電車に揺られること数時間、僕のお尻という高い代償を払い、なんとか目的の地に到着した。

 いつもなら車で移動するのだが、生憎と恋歌さんの愛車は先日蜂の巣にされており、ただいま修理中。曰く、パワーアップして返ってくるまでしばらくお休みだ。

 無人駅の改札をくぐり、うーうー唸りながら歩みを進める。

「いやー、自然が一杯ですね」

「夏っぽいわね。まあ今は仕事だけど」

 駅前は閑散としており、僕ら以外の客は帰省目的っぽい若者が一人だけ。

 居ても居なくても変わりなさそうなタクシーが一台だけ、ぽつんと止まっていた。

 立ち止まりあたりを眺めると、ロータリーの少し奥の道路は、両脇を田んぼに囲まれているし、ポツポツとした住宅街の奥には、大妖怪でも潜んでいそうな巨大な山々が続いている。

「社長に聞いた通り……、霊験あらたかな土地のようね」

 伊達メガネの奥に何を見ているのか、恋歌さんはメガネの縁を握りながら、そんなことを呟いた。

「しっかし、暑い暑い」

「軽装で来たんですけどね……」

 半ズボン的なものは、あまり好きじゃなかったけれど、暑さに負けて装備した和風ステテコから飛び出したスネに、涼しい風があたる。

「っく、有理君。女の私が嫉妬するほどのツルツルっぷりねぇ」

「だから半袖とか、半ズボンっぽい長さは嫌なんですよ。子供っぽく見られそうで」

 スネ毛に憧れるわけじゃないけど、体毛が薄いのはなんとなく、大人への成長を拒否されているようで、嫌だった。

 恋歌さんの格好は、いつもより少し長い黒のスカートに、涼し気な白のブラウス、ポリシーなのか黒ネクタイと袖際のもふもふも忘れない。

 いやいや、恋歌さんの生足だって、ツルツルじゃないですか、手入れしているんだろうけど。なんて、言えもしないことを、いつものニーソックスやストッキングから解放された生足を堪能しつつ思ってみたりする。

「さて、社長とクロネコさんの情報によると、問題の社屋はここを道なりに進んでいけばいいようね」

「もしかして……歩くん、ですか?」

「Yes!」

 親指を伸ばし、グットサインを返されてしまった。

 僕たちの目的とする、明里さんの手がかり。彼女の『結果的』な出張先となっている関連会社が、この片田舎にあるらしい。社内の情報には、隠蔽が入っていたらしく、社長やクロネコさんの力がなければ、この情報に達するのは厳しかっただろう。

「タクシーという選択肢は?」

「有理君。田舎って車が通ったり近づいてくるとすぐにわかるものよ。静かだから」

「これ、徒歩30分ぐらいかかりますよね?」

「Yes!」

 気に入ったのか、再びのグットサイン。

 相手は霊的なモノに興味津々な怪しげな企業で、近づくのに注意を払いたいという気持ちや、一般人を巻き込みたくないというのもわかるのだが……。

「まあ、夏っぽいですよね。田舎の散策なんて」

 お尻をさすり、もってくれよ……、なんて呟きながら、僕たちは目的地に向かい歩き始めた。

色々とズレ込み、久方ぶりの更新です。

お待たせしてしまい、申し訳ございません。

登場人物二人と同じく、田舎に帰省しておりました。


日曜日も更新の予定です。

空想科学祭用の話も公開しないと……ぐぬぬぬ。今週末、来週末あたりでぼちぼちと公開していきたいと思っとります。

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