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有恋歌  作者: 三木こう
人は浮いたりするものではない
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四歌(3)

「行方不明、というやつらしいわね」

 クロネコさんからの電話を置き、恋歌さんが小さく息を吐き出す。

 客間で明里さんに待機してもらい、事務所から捜査を開始して早2時間ほど、普通の探偵や警察のような仕事は意外と簡単に済んでしまった。

「行方不明、ですか」

 それなら少しは希望がある。

 浮遊霊のようなものになってしまった、彼女の生死は未だわからずじまいではあるが、可能性がなくなってしまうよりは、十分マシな結果だといえるだろう。

「彼女の意識や、自我の度合いからいって、生きている可能性も否定できないわ。……もしくは」

「死んだことに気づいていないというやつですか?」

 そうそう、と恋歌さんは頷き、パソコン越しにクロネコさんの送ってくれた捜査資料を指で差した。

「彼女、会社の資料によると今出張中らしいわね。ありがちな、旅行中の事故ってこともあるかも」

「事故……ですか」

 よくある人が死ぬ理由。

 交通事故、旅行先の山や川、人と人の殺し合いが表では行われなくなっても、人が死に至る理由なんてのはそこら中に転がっているのだ。

「浮遊霊ってのも、難儀なネーミングですね」

「霊体を等しく定義しろなんて難しい話だけどね。使いやすいから、昔の人のネーミングセンスを借りてるわけ」

 ふらふらと行き先もなくさ迷うから浮遊霊。

 それは生前の記憶から、同棲していた彼女の家に縛られているわけでもなく、通り続けた道を毎日往復し続けるわけでもない。なんのしがらみもないから浮いているのだ。

「そういう意味では、最近出会った草薙さんとこのアレは地縛霊ってところですか」

「私としては、真実の愛をもった、いたいけな青年霊という説を押したいところだけどね」

 とかく、恋歌さんはそういうものの味方をしたいらしい。

「で、だね有理君。私は今結構怒り心頭してるわけだよ」

 声のトーンを落とし、恋歌さんが景気良い音を上げて、パソコンのキーを叩いた。

 画面に現れたのは、とある会社のプロフィール。注意深く見ると、どうやら明里さんの会社の関連企業のようだ。

「どうやらこの企業が、霊体やらに興味心身みたいでさ。商業利用? なんて馬鹿らしいこと考えてるみたいなのよ」

 霊体を自由自在に取り出す。

 なんてことが出来れば、世界が変わる。それを商売にしようものなら、金持ちが食いついてくるというのは十分に想像できる事だった。

「ったく人間の分際で死後の世界の真理に触れようだなんて、おこがましいにもほどがあるわよね」

 絶対のタブーという程ではない。

 人間は不可解なものがあれば、解を導き出したいと考える生き物だ。だから、過去未来、死後の世界を紐解きたいと願う探求者は現れ続けるのだろう。

「恋歌さんてきには、これも、わかりもしないものですか?」

「そりゃあそうよ。行けもしないところの情報なんてどうやって引き出すってのよ。死後の世界から帰ってこれた奴がいるなら、とっくに解は得られるはずなんだから」

 死後の世界は、死んだ人が行く所。だから、死んでもいない浮世の人間が、その境地に辿り着くというのは不可能な話だった。

「しかも、その方法が人の魂こねくり回そうだなんて、許せるはずもない話よね」

「明里さんのためにも、僕らの出番ってわけですか」

 客間で、僕が家から持ってきた据え置きゲーム機で遊んでもらっている明里さんを思い浮かべる。

 すると、ぎゅっとまっすぐに唇を結び、肩をわなわなと震わせてパソコン画面の方を見ていた恋歌さんが、僕の方を振り返った。

「気になってたんだけど、小早川さんのこと、明里さん、だなんて呼ぶのね。珍しい……」

「いえ、えーっと、これには深い理由はないんですよ。なんとなくです、なんとなく」

 急にこちらに飛び火する恋歌さんの怒りに戸惑いながら、言い訳の言葉を並べる。

 依頼人たる明里さんのことは、普段なら、小早川さんと呼ぶべきところだ。というか、そうするつもりだったのだけど……。しばし考えああっと、勝手に納得する。

 なんとなく、呼びやすかったのだ。

 年上だし、

 落ち着いたお姉さんみたいな人だし、

 ……どうやら僕は、お姉さん属性に目覚めきっている、らしかった。

次回更新は土曜日の予定です。

今週末には空想科学祭の方もあげたいなーと思う今日この頃。


・追記

次回更新は20日の予定です。お待たせしてしまい、申し訳ございません。

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