四歌(1)
生者か死者か、人か人外か、そんなの些細な違いなのよ、きっとね。
「あのー、私ってやっぱり死んでるんですかね」
街を歩いていると、唐突にそんなことを尋ねられた。極々自然に、まるで人に道を尋ねるようなノリで。
なんとか期末試験を乗り越え、大学も夏休みに突入した8月の上旬。お盆は近いけど、まさかこんな質問をされるなんて。
「いやー、死んでないんじゃないですかねー。見えますし」
その問い掛けに、無責任かつ不透明な答え方をする。
20台前半の、誠実そうな長髪の女性。OL風のスーツとストッキングがよく似合う初々しい新入社員のような姿が見えていた。視覚で相手を認識できるというのが、生きているという定義に当てはまるならば、間違いなく彼女は生きている。
「はぁー、でもあなたには見えるんですよね。私の姿」
「それは、こうやって会話できてるわけですし」
イマイチ意図のわからない台詞だった。
最初は宗教か何かの勧誘かとも思ったが、彼女の初々しい、ホントに困ってますという表情を見るに、その手の輩ではないように思う。
「ちょっとびびっときて話しかけちゃって……。おかげでちょっと手がかりがつかめました! ありがとうございますね」
なんて、少し後ろが透けそうな存在感で、わざわざお辞儀までしてくれた。
「えっ……」
まぶたをこすり、思わず二度見する。
昨日は寝付きも良くて、明日は朝一番に恋歌さんのところに行ってイチャイチャしてやろうと妄想しながら、気持ちよく眠りについた。
だから、体調はすこぶる良いはずで、目の錯覚とは考えられない。
そう、確かに透けている。
去年の冬に恋歌さんに連れられ、テレビ番組よろしくな心霊現象に挑んだ記憶が蘇る。最近出会った、草薙さんの家にいたらしい、目視できないほどの空気のような概念ではなく、意思や表情を持った、より人間に近い幽霊という存在。
似ている、確かに似ている。
「ちょっと待ってください。なんだか、よくわからなくなってきました」
OLさんにお手上げのポーズでこちらの困惑を伝える。
さっきまで普通に会話していた人が、もしかすると幽霊か何かだなんて、信じられるほど僕は常識を逸脱してはない。そういうこともあると聞いて、そういうことも少しだけ経験しただけだ。
「もしかして、話しかけれたのって、僕だけですか?」
「ええそうですね。皆さんあたしの話を聞いてくれなくて、困ってたところだったんです」
見ると、通行人たちは僕の方を怪訝な表情で見ている気がする。
まるで、独り言をつぶやき続ける痛い人を見るかのようにだ。
「えーと、そうですね。ちょっと待ってください。多分、力になれますから。というか、一応仕事なんで、――なんというか、ご協力お願いします」
と、支離滅裂な言葉で彼女に待ってもらいながら、助けを求めて僕は携帯電話のダイヤルをプッシュするのだった。
今後の展開等を考えて、ジャンルを恋愛→ファンタジーに変更しました。
一~三歌は、ジャンル恋愛と言い張れないこともなかったのですが、今後の話しはさらにファンタジー色が強くなる予感です……。
主題の一つが『恋』だったりもするのですが、とりあえず暫定ジャンルとしてファンタジーへ。
伝奇とか現代ファンタジーが近いのかもしれません。ライトノベル、娯楽小説という位置付けで考えていただければ間違いありません。
が、結局は登場人物がイチャイチャとくっちゃべるだけの話でもあります。ジャンルの区分って難しいですね(笑)