三歌(4)
「うわ、カプチーノじゃねぇか、これ。渋い趣味してんなー」
「くー、わかる、わかる! いいわよねこの車! 軽くて小さいのにすっごいのよー。しかも藍色が夜の闇に溶け込むさまといったら……」
恋歌さんと工藤がガレージ付近で盛り上がっていた。
社長に会いに行くため早速車での移動が必要だった。日が暮れ始めて、気温が下がってきたのはいいのだが、なんだか二人が勝手に盛り上がっているのが気に入らない。
「有理君は車に全然興味ないしさ……。カプチーノなんて、ただのコーヒーの飲み方だとしか理解してないのよね」
「はっはっは、そりゃあいただけないな少年。ま、そんな無垢な所も魅力だが」
二人はなにやら、カプチーノがどうのこうのと騒いでいる。僕には意味がわからないが、馬鹿にされたことだけはわかった。
「あー、てかさー。恋歌さん? カプチーノってことは二人乗りだよね、これ」
「そりゃそうだけど」
「それってさ、あそこの少年がはぶられるってこと?」
「あなたは一応依頼主ですから、私が送って行くつもりですが」
工藤がこちらをすまなさそうに見ている。
話をなんとなーく理解してきた。要するに今我が社にある車は二人乗りなわけで、今から移動するのは三人。なら単純な引き算で誰か一人が別の手段で移動しなければならない。
「有理君。確か今日原付だったわよね」
「そう……ですけど」
わかっている。一応工藤は依頼主なわけで、しかも僕は今日原付でここまで来てしまった。
どうするべきかはわかりきっている。けれど、なんとなく気に食わない。きっとそれは、僕がこの工藤って男を警戒しているからだろう。
もちろん、独占欲や嫉妬とかもあるかもしれないけど。
「じゃあ、悪いけど、原付でお願いねー。私達先に行ってるから」
「了解しました。おまかせください。これでも大学には原付で通ってるんです」
もっとも、その大学への通学は週1~3という残念な数字を残していた。
「悪いな、少年。でも安心しろ、俺は……俺はな……」
恋歌さんに催促され、工藤が無理やり助手席に座らされた。
工藤は車のドアが閉まる間際に僕に何か伝えようとしたみたいだけど、すべてを聞き取ることはできなかった。
「じゃ、有理君また後で! だいたい、この車についてくればいいからー。一度だけ行ったことのある場所だから大丈夫だと思うけど、わかんなくなったら電話してねー」
一人残される僕は、原付のエンジンを、虚しい気持ちを振り払うようにキックで、スタートさせたのだった。
一応イメージとしてカプチーノという実在の車を持ってきてます。
唐突に思い出したせいで、将来的に乗ってみたくなるという罠。