三歌(1)
異能力なんてとんでもない、ただの病気よ、びょーき。
というのが、恋歌さんの主張だった。
「……」
「そんな目で見るな、照れる」
20代後半ぐらいの、爽やかな男性が僕の視線に照れていた。
場所は街中、久々に大学帰りに出勤する僕が、原付を止めて立ち寄ったコンビニで、適当なお菓子をチョイスし終えて店から出てきたその時。街道のベンチに座り込む男と目があった。
ジト目になりながら、彼を見る。
それはその人がイケメンだったからとか、微妙にセンスのずれた珍妙な私服姿だったからとか、そういうわけじゃない。
「どうした、俺の方をそんなに見つめて……。嬉しいじゃないか」
キモい。
そこはかとなく、キモい。
肌蹴た柄シャツ。ダメージつき過ぎで露出の多くなった、ジーンズ。
色々と余分な属性がつきまくっている人だけど、見つけてしまったからには仕方がないと、嘆息する。
「あなた、人を殺したことがありますね?」
「……」
今度は男の人が黙る番だった。
「まさかとは思ったが、ばれるとはね。そういう君も、似たようなもんみたいじゃないか」
「それはそうかもしれません。けど、なんだか一緒にされるのは気に食わない気がします」
久しぶりの、濃度の高い異常者。そんな空気が彼にはある。僕や恋歌さんと似た、一種の病人のような、違うような……。
雰囲気には似たようなものを感じてはいるが、根本的な部分は人それぞれ、事情も、現れ方も、違うというのが、オカルト現象の怖いところだ。
「何かお困りみたいですね?」
「あ、わかる。実は厄介ごとに巻き込まれててさー」
いたって深刻ではなさそうに、彼はヘラヘラと笑いながらそんなことを言う。
着ているシャツはしわくちゃで、かえり血こそないが、うっすらとした硝煙の臭いや、裏路地のゴミ溜めみたいな臭いが香水の奥にひっそりと残っている。服装のセンスだけじゃなく、まっとうな感じではない、直感的な感想を抱く。
「ついて来て下さい。事と次第によっては力になれるかもしれません。ま、お金とりますけど」
「お、ほんとに……。いやーこの辺りにその手の仕事してる輩がいるってんで探してたんだよね。君らも同業? だったらついでに紹介してくれない。なんでも凄腕の便利屋がいるとかって……」
残念。
きっとそれは、僕らのことです。恋歌さん的にいうならば、オカルト現象専門の便利やではなく、ただの人間研究が趣味のモノ好き、ってところだけど。
恋歌さんへの言い訳を考えながら、僕は男を事務所に案内するために原付を押して歩き出した。