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有恋歌  作者: 三木こう
恋は顔でするものではない
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一歌(1)

 超常現象なんてクソ喰らえというのが彼女の口癖だった。


 始まりはいつも突然に、例えば一本の電話からだったりする。

 よくいえばアンティーク、悪くいえば時代遅れの産物である黒い回転ダイヤル式の電話機がけたましく音をならした。

 時刻は夕時、いつものように縁側でのんびりとくつろいでいた僕は、小さくため息を吐き出しながら、受話器に向かって放たれる言葉の数々に聞き耳をたてる。

「――いつ? ああそうなんだ。それで? ほんとに? わかった、了解。それじゃあ」

 よく通る澄んだ声はこの古びた日本家屋では筒抜けのようなものだった。

 会話の内容はいつものような業務連絡で、特に変わった言葉は出てきていない。どうやら、我社……超常現象研究所としては珍しく、比較的まともな仕事にありつけるらしい。 

 もっとも、事務所の玄関の脇で忘れさられている看板に記載された長ったらしい名称なんて、僕たちもお客さんも誰も使ってはいないけど。

 縁側から日本庭園を眺めながらゆっくりと緑茶をすする。

 なんとも風流で心が落ち着いた。

 けれど、そんな安息の日々は長くは続かないことを、僕は経験から察知している。いうなれば今のは最後ののほほんタイムといったところだろう。

「有理君、出番よ、私たちのね」

「恋歌さん。いつもながら説明が適当ですね」

 恋歌さん。僕のバイト先の上司、あるいは先輩にあたる人だ。

 恋を歌うなんて乙女ちっくな名前をしてはいるが、それが本名かどうかは怪しいものだ。一軒の日本家屋を貸し切って、事務所兼自宅としているのがこの平屋で、僕は大学の近くにアパートがあるというのに、ここに入り浸るのが習慣化していた。

 まあ助手として、少なくないバイト代をもらってはいるのだけど。

「説明なんて後からついてくるのだから問題ないわね。さっさと車に乗り込む、現場は待ってはくれないのだからね」

「日が沈みましたね……」

 僕の最後の呟きが、暗がりに溶け込んでいく。時間も18時を回ったぐらい。春にしては随分今日は暗くなるのが早い気がした。

 長い黒髪の女性がすらりとのびた手足をばたつかせ、一階建ての平屋を走り回る。

 あわただしく身支度を整える恋歌さんを横目で見ながら、僕も足に力を入れ立ち上がった。けれど、男の身支度なんて簡単なもので上着を羽織り、携帯や財布を入れるための小さなショルダーバックを肩にかけるだけで準備は完了してしまった。

 最後に洗面台の鏡を覗き込むと、猫毛な髪と無表情な童顔が映りこんでいた。 

「先に出て車のエンジンかけておきますね」

 いつものことなので気にはしないが、恋歌さんは自室に閉じこもったまま出てくる気配はない。

 女性の身支度は色々と大変なのだろう。……僕も知識でしか知らないけれど。

 ガラガラと音をたてながら玄関を出て、日本庭園に侵入気味の駐車場まで足を運ぶ。これまた使い込まれた藍色の軽自動車にキーを差し込み、エンジンをかけた。

「まあ、僕の免許はAT限定だから運転はできないけどさ」

 誰もいないのに呟いてみたりした。

 我ながらカッコがつかないったらありゃしない。これは夏休み辺りにMT車への免許切り替えを考えるべきだろうか。

「お待たせ。どう、綺麗でしょ? 当たり前すぎて訊くまでもないほどに」

「そうですね。恋歌さんはいつも通りお綺麗ですよ」

「なんか有理君……。そっけなくない? お姉さん、傷つくよ」

「僕がそっけないのは昔っからですよ。嘘はつきませんけどね」

 恋歌さんにとっての仕事着というよりユニフォームなのかもしれない、白のワイシャツと黒のスカート、そしてストッキングと伊達メガネ。

 一見してできるOL風なチョイスだが、袖先や各所に存在するヒラヒラやふわふわがただの趣味だということを主張していた。

 ちなみに伊達メガネを要所要所で取り出すのが、最近の恋歌さんのお気に入りらしい。

 年上の綺麗なお姉さんたる恋歌さんの、着るもの付けるものが一々似合いすぎていて、僕は毎回心の中で、色んなフェチズムを開拓させている。最近は、少しばかりメガネ萌えに目覚めそうになっていた。

「見とれてる?」

「見とれてますよ。いつも」

「有理君。そういう台詞はもう少し恥じらいながら言ってくれないかな? せっかくの年下属性が台無しだと思わない?」

 恋歌さんがぼやきながら、右座席に乗り込む。

 そして車のギアを華麗な手さばきで操り緊急発進。

「さて行きましょうか」

「僕はどこに、なにをしに行くのかすらわからないんですけどね」

 ドライブに出かけるのも悪くない。

 もっとも、僕にとって恋歌さんとのドライブは毎回行き先不明で始まるのだった。

そんなわけで、始まりました、有恋歌。

簡単に説明しますと、有理君と恋歌さんがくっちゃべりながらオカルト現象に挑んでいくようなお話です。たまに戦ったり、推理のようなことをしたり、恋愛っぽいことをしたり……。

各話は短編程度の長さで完結し、連作形式として繋がって行きます。

話数が進むごとに伏線? っぽいものも回収していけたらなと思っています。


一話、一話はそれほど長くはなく、サクっと読めるかと思いますので、お目通しいただければ幸いです。

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