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有恋歌  作者: 三木こう
恋は口でするものではない
19/71

二歌(9)

「ばいばいユーリ君。ほんとにありがとう。また連絡するね」

「僕は何もしてないよ……。それじゃあ、おじゃましました」

 本当に今回は何もしてない。それがとても気持ちが悪い。

「ご依頼ありがとうございました。また何か御座いましたら、お気軽に、いつでもどうぞ。それでは、草薙さん、お・き・を・つ・け・て。特に部屋の窓際とか……ね」

 恋歌さんは去り際に、そんなことを言いながら、ふっと笑っていた。

 草薙さんに音符マークのつきそうな声援で送り出された僕らはとぼとぼと帰路についた。アパートの階段を、妙に機嫌の良い恋歌さんと並んで下りていく。

「ストーカーはいなかった。ならハッピーエンドですね」

「それで終わるとでも?」

 待っていましたとばかりに恋歌さんが意地悪な笑みを浮かべた。ほんとに、この人はこういう時が一番輝いている節がある。さらりと長い黒髪をかき上げながら、恋歌さんが自分のコメカミの辺りを指で差した。

「この伊達メガネ、実はただのメガネじゃないのよね」

「はい?」

「文字通りの意味。ただものではないものが、『見える』の」

 つい、ジト目になる。

 信じていいのか、疑っていいのか。あまりに胡散臭すぎる設定に半信半疑ながら、一応それが本物として話を進めることにした。

「人間……はいないですか?」

「少なくとも私たちのような『生身の人間』を、『人間』と定義するんならね」

 それは言葉遊びなんだろう。

 僕の目に、草薙さんの部屋には僕ら以外の知らない人は、誰も映らなかったことには変わりはしない。

「ちなみにこの郵便受けが荒らされてたのは事実。恐らく誰かの『イタズラ』と判断されるようなことしか起こっていなかったのも事実」

 アパートの入り口に並ぶ郵便受け。

 これが全部荒らされたというのはどういうことだろう。ターゲットが草薙さん一人なら、それは可笑しな話だ。可能性としてはイタズラと、何か得体の知れないもの、が今回の事件に同時に存在しているとか……。

「まったく、有理君は理屈で考えたがる。それは傲慢だよ、人の心なんてその節々で変わるんだから」

 恋歌さんのヒントは相変わらずヒントにならなかった。

「これ、クロネコさんに貰った資料なんだけど、面白いことが書いてるよ」

 渡された一枚のA4用紙に顔を近づける。

「成人男性の、交通事故死? すぐそこの交差点ですね」

「そうそう、それが今回の事件の真相」

 それが一体全体、何と関係があるというのか、僕は思考停止状態に陥って、ポカーンとアホのような顔をするしかなかった。

「私が見たのも多分その人の残り香みたいなのかな。……なんでも、生前に同棲していた彼女の家が現在の草薙さんの家らしいわよ」

「それはなんというか、草薙さんも物騒な物件を押し付けられたもんですね」

「そう? 死んでも愛した人の元に戻ろうとするなんて、立派なもんよ。もっとも、辿り着くまでには色々郵便受けを漁ったりして調べたり、思い出したり、試行錯誤してたみたいだけど」

「それが、今回のストーカー騒ぎの真相なんですか?」

「少なくとも、生きた人間のストーカーなんてのはいないでしょ? いるのは害のない立派な恋する男の子が一人だけ。窓際がお気に入りで、生前はよくそこで彼女と談笑していたらしいわよ」

 いまいち、釈然としなかった。

 けれど、恋歌さんが害がないというのだから、それは本当なのだろう。さすがに、草薙さんに何かがあれば、僕らの仕事の信用に関わる。

「妙な同棲生活ですね……」

 そう言葉にすると、少しだけ笑えてきた。

 もっとも、人事だから笑えるだけで、僕個人としては絶対に願い下げだった。

日曜日中? と言い張れない微妙な時間に投下……。お待たせしました。

二歌目、ネタばらし。残りは軽いエピローグで終了の予定です。

話の都合上、最後の方は一気に公開したくなりますねー。

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