二歌(5)
「とは言ったものの、私たちは探偵じゃないから、ストーカーの考える事なんてわからないわけよ」
「それじゃあどうすればいいんですか?」
草薙さんの部屋を調査の名目で一通り確認した後、外に出てきた僕らはマンション外側の郵便受けを物色しつつ言葉を交わしていた。
「物が動いたり、なくなったり、ぶっちゃけ殆どの場合が気のせいではあるのだけど。曰く、ポルターガイストやら妖精さんのイタズラやらってね……」
「でもストーカーですよ、ストーカー。さすがに勘違いはないんじゃないんですかね?」
「まったく、有理君は乙女心がまるでわかっていないわね」
恋歌さんは郵便受けから適当な郵便物を手に取り、何かを確認すると、取り出したケータイでどこかに電話をかけ始めた。
「あ、どーも、クロネコさん? さっそくだけどちょっと調べてもらいたいことがあって、なーに、簡単よ、簡単。多分あなたのネットワークだけで終わる問題だから」
ああ、クロネコさん相手か……と嘆息する。
クロネコさんというのは、変な名前の変人だ。ただおまけや趣味程度に情報屋のような仕事をしている関係で、僕らも世話になることが多い。
「ええ、ええ、住所は――。私達の事務所からちょっと歩いた所ね。えっ、直接会いに来ないのかですって? いえいえ、そちらも忙しいでしょうし、今回の案件ぐらいメールで充分……わかりました、わかりました行けばいいんでしょ」
あの恋歌さんが、若干焦ったように対処する。
そんな相手は僕の知る限りで二人だった。一人は僕らの社長さんで、もう一人が情報屋のクロネコさんというわけだ。
「ふー、疲れた。有理君、クロネコさん。あなたに会いたがってるみたいよ」
「それは勘弁願いたいものです。あの人苦手なんで」
もっとも、あの人を得意とする人なんていそうにもないけれど。
恋歌さんがこちらに詰め寄り、がちりと僕の肩をつかむ。まあ、こんな事になるんじゃないかと思ってたけど。
「お・ね・が・い・ね。ユーリ君!」
「はっはっはっは、恋歌さん、顔が怖いですよ」
有無を言わせぬ、命令だった。
まあ今回の事件は僕が持ち込んだようなものだし、気は進まないが、仕方がない。草薙さんのアパートも、僕らの事務所やクロネコさんの根城と地味に近いというのもタイムリーだ。
帰りに、クロネコさんのトコに歩きで寄って行こう……。どうせ、恋歌さんは付いて来てくれないだろうけど。
「にしても、これはこれは、予想外に楽しめそうだわね。今回ばかりは乙女の味方にはなれそうもないけれど」
恋歌さんがにやりと笑い、楽しそうにスマートフォンを操作する。
「うん、目処もたった、これで研究者としての活動ができそうで私は満足よ」
そしてスタスタと早足で歩き出す。
よほど楽しい発見があったのか、どう見ても『ただの』ストーカーに対応するテンションではない。僕らの研究対象はいわゆるオカルトなんて呼ばれるものだからして、今回もやはり平凡無事には終わってくれそうもなかった。