二歌(1)
二つ返事は君の悪いところだ。
というのが、彼女の口癖になりそうな勢いだった。
「はい、どうぞ恋歌さん」
「あ・り・が・と・う。有理君」
のどかな縁側、差し出した緑茶が乱暴に奪われる。
きつい視線な気分は終わったのか、今は妙に落ち着いた、感情のない視線が日本庭園の池の方に注がれる。どうやら恋歌さんはご機嫌斜めなようで、僕としては気が気でない。
「怒ってますか、恋歌さん?」
「……有理君、そんな質問は論外よ。女性の機嫌をさらに悪化させる意味しかないのだから」
どうやら僕のフォローは失敗だったらしく、恋歌さんの整った顔立ちがほんの少しばかり歪んで見えた。
ああ、またやってしまったと、ひそかにうな垂れる。できることなら今すぐベットに横になって、嫌なことはすべて忘れてしまいたい。そして夢の中でくらいは好きな女性とイチャイチャ幸せに過ごしたいものだ。
「だいだいだね、ユーリ君。君はお人好しなのかただのめんどくさがりなのか、人の話を安請け合いしすぎだよ」
「それはもう、返す言葉もございません」
縁側、恋歌さんの隣に腰掛けながら軽く頭を下げて謝罪する。
が、実のところあまり反省してなかったりするのだからタチが悪い。というよりも、この年になると自分のそういう部分を割りきってしまって、治そうにも治せないと決めつけてしまっているのが悪いところだ。
「……どうせ言っても無駄なんでしょうけど。所詮は人の長所も短所なんてのは同じ物なんだから」
「仰る通りでございます」
恋歌さんはそんな僕を一瞥してから、深い溜息をつくと、あきらめたように立ち上がった。
「わかりました、わかりました。そんなあなたと雇用契約してしまった私の負けでございます」
機嫌が治ったとは言い難いが、一応の及第点。
恋歌さんは仕事モードに入ったのか胸ポケットにしまっていた伊達メガネを取り出し、キリリと瞳を釣り上げる。
「さて、連れてってもらうわよ。依頼者の家までね」