ある魔術師の物語 四話 第三章
戦闘、続行中です!
光が工場内を包み込んだのと同時に。
「身体能力制御!」
光は使用術者の俺には通じない。
作戦は、身体能力を跳ね上げ(右手は使えないながらも、そこは速度でカバー)
接近して頸動脈に強烈な一撃を叩きつける。
相手が体に硬化を張る可能性もあるが、その場合は打ち込む寸前にー硬化ーの効果を打ち消せる
軟化
の魔術を叩き込む。
スペルはー軟化ーの一言の為、十分間に合う。
作戦はシンプルイズベスト。
殺さずに済む方法であり、しかも勝機は相手が殺しや戦いのプロなら跳ね上がる。
なぜなら、これまでの俺の経験上、優れた能力を持つもの程、いつしか簡単な戦い方を止めてしまうものだと気づいたからだ。
そして、終いには相手の簡単な策にも引っかかる。しかしこのダガー使いは、俺と同じような、暗殺者の戦い方を好むゆえに相性は悪いが、光で見えねばダガーは使えまいと踏んだ。
まあその読みは、見事に外れてしまったが。
「ふむ、光で視覚を塞ぎ、接近戦にて仕留めるか。確かにいい手だが…」
ぬるいわい
距離的にはいまだ遠いのに、しっかりと聞こえたその言葉と共に。
有り得ない角度からダガーが飛来した。
「上だと!?」
直滑降。
確かにダガー使いは目の前に居るのに、俺の真上から飛来したそのダガーは、俺の急所に直撃…
しなかった。すんでのところで切り抜ける筈だったが、前からもダガーが飛来していた為に無理やり左へかっ飛んだからだ。
ダガーは回避出来たが、魔力の光は収まってしまい、場の光度が元に戻る。
そして、白髪の青年は目を開け、ニヤニヤした目でこちらを見た。
「かっか!ぬるいのぉ魔術師。まさかその程度ではあるまいな?」
「…」
ヤバい。
場の空気的に、俺が段々と後手に回りつつある。
「今の魔術か」
「ああ、ワシは器用なのでな。魔術にも生かしておるのだ」
…さっきのは、多分
「あんた、この廃工場の至る所にダガーを仕込んであるな。多分、相当数」
そう。あれは多分、ダガーを空中に固定し、何らかの形で不可視にしておいて、接近した獲物に叩きつけるという、魔術では無かった物が魔術へと昇華された、ー業ー。
どうやら仕込んでおいたものを発射した時にはダガーは姿を現すようだが
「…いつ仕込んだ?全く気づかなかったがな?」
「かっか!いつも何も、お主が光を放った瞬間じゃよ。あの瞬間に空中にダガーを工場中にばらまいて固定しただけじゃ。そうじゃな、たしか七十本くらいかの?」
…その話が本当なら状況はかなりマズい。
もはや接近戦に持ち込める訳が無いだろうし、全弾一斉掃射されれば回避出来ないだろう。
「しかし、お主から殺気を感じん所を見ると、さては手加減しておらんか?」
「…手加減はしてねぇよ。殺す気が無いだけだ」
「ワシもなめられたものじゃな。こちらも何時までも遊んではおれんのだ。一応、仕事なのでな」
…こいつはどうやら私情で動いていた訳じゃないらしい。
「…本当はこんな事を言う気は無かったんだけどな」
「かっか!なんじゃ?命ごいか?もう面白い策は無いのかのぉ?」
手はまだあるが、内容を纏めるのに時間がかかりそうだった為、俺は時間稼ぎの会話をし始める
「なんで、あの人を狙うんだ?」
「まぁ、仕事じゃな」
まあ、話すわけがないよな。
ついでに情報が聞き出せないかと思ったが虫が良すぎか。
「理由は?」
「話す義理は無いの」
答えないのを知りつつ、もう一度問いかける。
…よし、策はまとまった。
時間稼ぎは切り上げようとして…
「まぁ、よいか。久々に楽しいのでな」
「なんだ、理由でも話てくれんのかよ?」
話す気になったらしい
マジか。
100%言わないと踏んでたのに。
「あの小僧、お主が庇っておる者じゃがな。フレアス固有の禁術を外へリークしようとしたのじゃ。」
「リーク?」
「ああ。なんでも、黒い月、とかいうギルドにの」
…え?
「え?」
なんていうか。どう言ったらいいのか分からなかった
「1人でポケーと涙目で広場に突っ立っておったのでな。阿呆かと思ったわい」
つまり、俺の到着が遅いからじれてたと。
セリアに焼かれかけてた時間遅れていたから
「まあ、そんな所じゃよ。ワシからも質問してもよいよな?」
…つまり、今の俺は殺さないように、騒ぎを大きくしないように、とか気にする必要が
「お主の名は?気分がよいのでな。お主が死してからも覚えておくとするぞ」
無くなったな
「…ゼロだ。あんたは?」
「かっか!ジーク・ゾルディアじゃ」
ではの…
と、予備動作無し、360度から飛来し、襲いかかる七十のダガーを
「汝求めしは確固たる盾、清廉なる剣」
「具現せよ」
「白光」
具現した、魔力の剣を一振りし、全てのダガーと、ジークと名乗ったダガー使いを、工場外へ吹き飛ばした。
楽しんでいただけましたでしょうか?
では、出来ればまた次回お会い致しましょうm(_ _)m