ある魔術師の物語 四話 第一章
今回は解説多めで、戦闘描写は二章からですm(_ _)m
「ぐ、痛っ」
…俺は全力で戦線を離脱した後、門からファロを出ようかとも思ったのだが、門をこんな状態で飛び出ても、その後どうするかのまでは考えつかなかった為、戦闘現場より少し離れた場所にあった廃工場へと身を潜ませた。
「ぎっ!ぐっ…」
右手の痛みは止まるわけもない。
魔力で腕の傷に栓をして血は止めたが、このまま放っとけば腕が壊死する。
…あの緋天血界は、正確には魔術ではない。
魔術とは空気中に漂う魔力を凝縮、それを行使するのが魔術である。
ちなみに日常生活に使う魔術は凝縮しておらず、魔力をそのまま、火を使うときは火の魔力を、明るくしたいなら光の魔力を空気中から引っ張ってきて行使する
だが先ほどの緋天血界の場合は、魔力を空気中から肉体を通し、自らの血肉を拡散して行使する。
この技法を用いる術は詳しくは魔術、では無くー禁術ーとされており、代償が大きい為、行使する者はおろか、術の行使方を学ぶ者すらまず居ない。
だがー禁術ーには一つだけ、多大なる代償と引き換えの決定的な利点があった。
それは、どんなに強力な力を行使しようとしても、詠唱が一言で済む事だ。
攻撃する為の魔術とは
①空気中の魔力を、破壊力を持った形へと変化させる
②自分自身の心を魔術の行使者へと無意識下で切り替える。この2段階によりこの世界の魔術は完成する。この中で魔術の詠唱は
①魔力を破壊力を持った形へと変化させる
事に必要だ。
②は詠唱する中で切り替わるように、自然と身につく為に詠唱は関係無い。
だがー禁術ーの場合、この形を変化させる過程を丸々すっ飛ばせる。
そして血肉を介す為、自分の体の一部のように強力な力を行使出来、一瞬で強力な力を具現出来る。
あの場合は強力な防御力が必須だった。
それにより緋天血界という盾を組み上げたのだった。…緋天血界ならば殆どの攻撃魔術は防ぎ切れる力がある。
その力がダガー三十本など防げない訳がなかった。
閑話休題
「っ痛、多分、追ってく、んだろう、な。あい、つ」
呼吸が乱れて治らない。
左に抱えてきたこの人も、意識が混濁しているようで時々呻くだけ。
手詰まり。
言葉が頭によぎった。
一応、策はある。
ただそれは、倒す為の方法では無く、殺す為の手段だった。
依頼の為以外には殺人はしない。
心に決めている訳ではないが、必要外の犠牲者は出したくなかった。
なぜなら、俺はまだ依頼書に書いてあった依頼人にあってはいないから。
俺が威力の高い攻撃魔術を使って戦って、ファロで大きな被害をだすようなことがあれば、後々ファロで動きずらくなる上に依頼の達成も難しくなる。
それに下手すりゃ衛兵なんか足下にも及ばない、王国御用達の魔術騎士団が俺を王国の敵と見なして制圧にくる。
いくら奇策策略を練っても勝ち目はゼロだ。
門を無理やりに突破したのも本当はマズい。
…いや、当たり前か。
あの依頼書には合流すべき人物の名前や住所などが記載されておらず、合流地点も記載されていない。
つまりは向こうから俺を見つけてくれる手筈だったのだろう。
だがこんな状況では俺一人だけこの場から抜け出すわけにはいかない。抱えている人物を俺が庇った時点でダガーの使いにマークされている事だろうし。
何より
「いや、だ。助けて!」
こんな譫言を力なく叫ぶ状態の人を置いて行くような事はしたくない。
となれば…
「こちらから、迎え討って、堂々、と依頼を果たし、に行、こう…!」
まあ、俺もこんな状態では合流出来たとしても、どの道、不都合が発生するだろうし
「と、す、れば。」
行使出来る策を練る。
俺の使用出来る魔術…
腕の損壊状態…
体術…
禁術…
それらの、体のコンディションと自分に打てる手を考慮した結果、殺さずに済む方法を思いついた。
「うし、なら…」
乱れた呼吸を整える。
右手は使えないが止血のおかげで失血死する事は無い。
痛みも神経がイかれたのか殆どない。
問題無し!
…本当はやばいが、生きて帰れれば腕の良い治癒魔術師を知っているため問題はない…はず。
「じゃあ、いっちょ派手にやりますか」
俺は準備を整え始めた。
俺が居る廃工場を俺の絶対に勝てる場とするために。
楽しんでいただけましたでしょうか?
出来ればまた次回お会いいたしましょうm(_ _)m