表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

学校(2)

古ぼけた廊下。

壁も床も天井も、それ相応の時間を感じさせる。

その壁には絵が張ってあった。

多くもないが、少なくもない量の絵。

それぞれの絵の下に学年クラス名前が書いてある。

風景画だろうか。

それぞれの絵には山があったり、川があったり、それに架かる橋などがある。

決して上手とは言えないような絵でも、確かな暖かさを感じ取れる。

自分の心の中に沸く感情に戸惑いつつも、少女は歩を進める。

幽霊である少女にとって、人と同じ感情を持つことが不思議だった。

暖かくて寂しくて悲しくて楽しくて。

そんな感情を幽霊である自分が持てることが不思議だった。

自分は人とは違う。

けれど、限りなく人に近いと思っている。

橋の下で感じた孤独と、みつあきやワタルとの楽しい時間。

このどちらも、偽物であるはずがないと思っている。

そう思いたい。

でも、幽霊とは一体なんなんだろう?

自分は何故こうしているのだろう?

さっき会ったみつあきは、驚いた顔をしていた。

そのときの事を思い出し、少女は笑みを浮かべる。

でも、いつまでもこうはいかないだろう。

自分はいつしか消えてしまうのだ。

音も無く、何も残さず。

展示してあった最後の絵は、真っ赤な夕日だった。

夕日が赤く赤く地面を染め上げる。

その絵には、今までの絵で感じた暖かさは無くただ苦しかった。

世界の終わりを描いているように見えてしまう。

見れば見るほどに自分を焼かれてしまうような気がした。

苦しいのに、しかし、少女は目を離すこともできずにずっと立ち尽くしていた。


「ねぇ、そんなにその絵が気に入った?」


突然の声に驚く。

今までに聞いたことのない女の声だ。

ゆっくりと振り向くと、自分より年上であろう少女がいた。

ただ、この学校の生徒には見えない。

小学生というより中学生に見える。

実際、服は私服ではなく制服を着ていた。

そして、身長も高い。

長い髪が印象的だった。

「あれ? そんなに驚かなくても」

相手はそう言うと、ユーの隣まで移動し、絵を覗き込む。

「夕日? きれいね。ただ、ちょっと雑かしら」

そして、ユーの方に向き直る。

ユーは言葉が出なかった。

なぜなら、その少女も透明だったのだから。

太陽の光は少女を通り抜けて、廊下を照らす。

少女はクスッと笑った。

無邪気な笑顔だった。

「初めまして、奈津美といいます。よろしくね、ユーちゃん」

ユーはやっとのことで声をだす。

「・・・ああ、よろしく」

「そんなに怖がらないで。何もしないから。まだ何もしないといった方が正しいかしら」

奈津美はまた笑う。

「今日はね、ちょっと忠告にきたの」

ユーは本能的な恐怖を感じ、一歩後ろに引いた。

「何か文句あんのか?」

怯えた声には、いつもの覇気はない。

「そう。文句を言いにきたの。まあ、その前に一つ聞きたいのだけれど、あなたいつからこの世にいるの?」

いつ?

ユーは記憶はおろか名前すら覚えていない。

何も覚えていないのだ。

だから、いつ幽霊になったかなんて分かるわけがない。

「しらない」

はねつけるように短く答える。

「そう、ならいいわ。あっ、そうそう。もう一つ聞きたいことがあったわ。あれ、あなたの知り合い?」

言って、少女は窓の外を指さした。

その先には相変わらずの麦藁帽をかぶったワタルがいた。

「そうだ」

ユーはこれにも短く答える。

「やっぱり。余計なことしなくていいのに・・・。まったく」

どこか剣呑な雰囲気を漂わせる少女。

ユーにとって、この少女は恐怖の対象でしかなかった。

自分と同じ幽霊のはずなのに。

けれど、自分と同じとは思えなかった。

何かが違う。そして、どこか怖い。

もう一度窓の外を見れば、ワタルがこちらを睨んでいた。

「邪魔される前に言うこと言っとかないとね」

奈津美はコホンと咳払いを一つ、さっきまでとは違う脅すような声音で言った。

「あなた、あんまり出歩かないでくれる。邪魔よ。というかさっさと消えてちょうだい」

ユーの顔がピシリと固まる。

同時に奈津美の姿がスーッと薄くなっていく。

「あなたが原因で皆が騒ぐの。言うこと聞かないなら、無理やりにでも還すから。覚えといて」

言い終えると、奈津美の姿は消えた。

そして、ユーはまた一人になる。

窓の向こうでは、ワタルが走って逃げていた。

どうも誰かに見つかったらしい。

それを見て思う。

自分もどうやら追われる立場になったらしい、と。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ