学校
霧島小学校。
少年が通う学校。
左右を山に囲まれた小さな町の小さな学校。
生徒児童数およそ200人たらず。
年々少なくなる児童数に頭を抱えているのはどこも一緒だ。
八代光彰、小学5年生である彼のクラスは一組。
しかし、5年生が一クラスしか存在しないため番号に意味はない。
今は休み時間。
授業の間のつかの間の休息。
わきあいあいとした雰囲気の中、光彰の周りは少し浮いていた。
「しってるか?幽霊がでたんだって」
話かけてきたのは隣の席のやつだ。
名前は毅。
分類するならお調子者といったところか。
「幽霊?」
「そう、幽霊!!幽霊だぜ!!憧れるよなー!!」
もう一つ付け加えるとすれば、少し変かもしれない。
しかし、毅の妙な発言を気にする余裕はなかった。
光彰の心は幽霊という一言で大いに慌てふためいていたのだ。
毅は光彰の顔に出た動揺の色をどう読み取ったのか、意気揚々と話を続ける。
「学校の裏に小さな神社みたいなやつあるだろ。そこで見たってやつがいるんだよ。そいつも最初は幽霊だなんて思わなかったらしいんだが、近づいてみたら向こう側が透けて見えたんだって。しかも、こっちを見たと思ったらふっと消えていなくなったらしいぜ。ついでに言うと、幽霊見たやつは今日は休んでるらしい」
今日休んでるのにどうやってそれを知ったのかは分からないが、既に光彰にとって幽霊とは実在する存在となっているため、あまり驚きはしなかった。
「怖いね・・・」
そう言うと毅は得意げに笑った。
「なぁ、今日見に行かないか?幽霊」
「ごめん。今日はちょっと・・・」
「だろうな。泣き虫のお前にゃ無理だよな?」
明らかな挑発の言葉だが、光彰は取り合わなかった。
「ごめんね。今日は無理なんだ・・・」
そう言うと、毅はそっかと話を切り上げ別の席に移動する。
どうも、幽霊を見るために仲間を集めているらしかった。
一人になった席で光彰は考える。
幽霊の話なんて、今まで聞いたことがなかった。
だが、ここ最近になって急に幽霊がどうのという話がでてきた。
実際に幽霊に会ってるし、なぜか友達にまでなっている。
すっきりとしない心の中でさらに気になることもあった。
それはワタルとか言う坊さんのことだ。
まるで、タイミングを計ったように出てきた。
一体何をしようというのだろう?
この小さな町で。
「おい!!」
急に聞こえた声に驚き振り向くと、そこに例の幽霊少女がいた。
ガタンと椅子を揺らす音が響く。
クラスの何割かが何事かと振り向いた。
どうもユーの事は見えていないらしい。
光彰は愛想笑いを浮かべて、椅子をなおした。
振り向いた皆は、また自分たちの会話、世界へと入り込む。
「何びっくりしてんだ?ああ、こいつらは私のこと見えないらしいぞ」
平然と机の前、光彰の正面まで移動する。
「開いた口が開いたままって言うのはこういう事なんだな」
得心といった感じで、手を伸ばし光彰の口を閉じた。
やっとの事で、光彰は小さな声で聞いた。
「どうしてここにいるの?」
「暇だから」
「ゴミ拾いは?」
「今日は天気悪いからな。こういう日は何もしないんだ。いつもなら、橋の下にいるんだがな。ワタルに暇だ暇だといったら、学校に行ってみるかって言うことになってな。連れてきてもらった」
へへと胸張りながら満面の笑みで答える少女。
なるほどなーと思いながら、一つだけ問題点があるように思った。
「ワタルさんと来たの?」
「そうだぞ。校門前で別れたけどな。それからは学校中を歩きまわったぞ。最初に行ったのは音楽室だったかな。歌が聞こえて覗きにいったんだ。こんくらいのちびっこい奴らが歌ってた」
それからも、次々にどこに行った何があったとしゃべり続けた。
光彰はそれよりもワタルの事が気になってしょうがなかった。
この学校にとってワタルは不審人物である。
そんな人物が白昼堂々学校内を歩いていたら、大騒ぎになってもおかしくはない。
まさかいないよね、と思いつつ内心は冷や汗だらけだった。
「どうした?みつあき、顔色悪いぞ?」
「そう?ちょっと心配事があって、でも大丈夫だよ」
「そうか。私はもう少し学校を見てくる。じゃ、また後でくるからな。勝手に帰ったりするなよ。泣き虫さん」
そういって、少女は教室を出て行った。
その頃には、教室中が幽霊の話で持ち切りになっていた。