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友達(2)

「ゆ、ゆ、ゆーーーーー!!??」

少年は慌てていた。驚いていた。

それはもう少年の短い人生の中でも一番といっていいほどの衝撃だった。

「おーーーー、もしかしておまえも幽霊か?」

ペチペチと少女は少年のおでこを叩く。

「でも、カバンしょってるしな」

今度は頭から肩、腕と順番に確かめるように叩いていく。

「それに透けてないし。ん?んー、変な奴。えいっ」

掛け声とともに少年の肩を押した。

少年はバランスを崩して後ろに倒れる。

その間も少年はあわあわとしていただけだった。

心ここにあらずという感じだ。

「すげぇ!!押せるじゃん。さっきのやつらは全然だったのに!!」

少女の目は輝いていた。

遊び相手という最大のおもちゃを見つけたのだから無理もない。

「おい!!おまえ、名前は?」

そこで、やっと少年のターンになる。

「み、みつあき」

「みつあきか。みつあき、よく聞けよ。私は幽霊だ。名前は覚えてないし、歳もわからん。なんでここにいるのかもわからんし、一体いつまでここにいるかもわからん」

少年はガクガクと壊れたように頷く。

「わからんことばかりで悪いが、一つお願いがある」

「・・・なに?」


「友達になってくれ!!」


少女は少年に向かって頭を下げる。

「このとーりだ」

この瞬間、少年の頭の中にどれだけの選択肢があっただろう。

そして少年は一つの選択をする。

断ったらどうなるのか。受け入れたらどうなるのか。

これから先どうなるのか?どうするべきなのか?

本来あるべきでない存在に関わること。

これが一体どういう意味なのか。

でも、そんな事は関係なく、ただ純粋に、ただ単純にうなずいた。

「いいよ」

ぎこちない笑みを浮かべる。

「ほんとか!!私は幽霊だぞ?それでもいいのか?」

少女は飛び上がらんばかりの勢いで喜んだ。

ソニに対し、今度は自然な笑顔をむけて言う。

「いいよ。幽霊でもここにいるんでしょ。ここにいて、しゃべってるだもん。じゃあ、友達になれるよ」

少女の笑顔を受けて、少年の気分は軽くなる。

「えっと、よろしく?かな」

「ああ!!よろしく!!」

この時、少年と少女はお互いにお互いを認めた。

少女は嬉しくてたまらないといった様子だ。

少年は戸惑いながらも笑っていた。

「なあ、またお願いしていいか?」

「なに?」

「こいつを向こうの橋の下まで運んでほしいんだ」

そう言って、ダンボールに手を添える。

「うん、わかった。けど、なんで?」

少年は何故自分で運ばないのか疑問に思い、少女は正確にその問いの意味を汲み取った。

「私は自分で運べないんだ。押しても引いても動かないし、持ち上げようとしてもびくともしない」

「そうなんだ。でも、さわれるだけでびっくりなんだけど。幽霊って何でもかんでもすり抜けるもんだと思ってたから」

「そういやそうか。私もなってみるまで知らなかったけど、これが普通じゃないのか?それとも私が変なのかな」

少女が真剣に悩みはじめたため、少年もダンボールを持ち上げながら一緒に考える。

「このへんに他の幽霊っているの? いれば、それで分かるんじゃない?」

「いや、会ったこともないし聞いたこともないぞ。私はずっと一人だったからな」

しゅんと落ち込む少女。

少年はことさら明るい声を出す。

「大丈夫。僕が友達になったんだから」

一人じゃないよ。

その言葉は少女に元気を与える。

「そうだな」

二人は歩き出した。

傍から見れば、それは少年が一人で歩いていただけだろう。

けれど、確かに二人は並んで歩いていた。

暖かく涼やかな太陽はしっかりと二人を照らしていた。

少年は気になったことがあった。

「ねえ、そのかご何?」

「かご? ああ、かごか。私はここでゴミ拾いをしているのだ」

「ゴミ拾い? 幽霊がゴミ拾いなんて聞いたことないや」

少年は素直に笑う。

「むぅ。神さまに言われたんだから仕方ないじゃないか」

ふくれっ面で答える少女。

「神さまに会ったことあるの!?」

「あーー、ない。気づいたらここにいて、気づいたらゴミ拾いをしてた。けど、こんなことさせてるのは神さまだと思う。なんとなく。そう思わない?」

「そうかも。でも、いじわるな神さまだね。ゴミ拾いだなんて」

「いいさ。あの橋の下でずっと立ってるだけってのは嫌だしな。それにゴミ拾いしてたおかげで、こいつにもおまえにも会えた。むしろ、感謝してるぐらいだ」

「そっか。じゃあ、お礼言わないとね」

「そうだな」

二人分の笑い声が響く。

こうして異なる二人の異なる世界は、ある一点でつながった。

孤独な少女が孤独ではなくなった瞬間だった。

運命が決まっているとすれば、これは決まっていたことなのかもしれない。

そして、これからも。





少し離れた場所で二人を見る人影がいた。

黒の法衣を纏い麦わら帽をかぶった金髪の男。

「やれやれ、奇抜な事もあったもんだ」

その声は幾分の楽しみを含んでいた。

「しかし、へんなやつらだな。小学生と幽霊少女が友達同士か。笑い事か笑い事じゃないのか。放っておくわけにもいかんだろうしな。・・・だが、すぐにどうにかなるわけでもない、か」

そう言って、こんどこそ踵を返す。

「喜劇となるか悲劇となるか、神のみぞ知る。せいぜい遠くから暖かく見守ってやるさ」

だいぶ日が落ちてきた。

夕暮れまであまり時間もないだろう。

「それよりも早いとこ宿確保しないとな」

ぶつぶつと独り言を言いながら歩いていく。

その姿はどこからどうみても不審者だった。


一段落です。

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