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古きモノ

雲がたなびく。

揃って歩いている二人は、(はた)から見れば一人だ。

普通に話していれば、ただの一人ごとになるのだろう。

「人のよさそうなのを捕まえないとな」

幽霊少女は元気な声で言った。

「よさそうな?」

静かに問い返したのは少年だ。

「そうだ。なるべく人当たりがよさそうで、優しそうで、こう……」

腕を精一杯拡げて、全身で大きさを表現する。

「がっしりした人だ」

「がっしり?」

「いや、ぐわっと……」

伸ばした手はひらひらと空をかき、やがて、下に落ちた。

「直感で行く。私が決めたやつに声をかけたらいい」

「うん。まかせるよ」

田畑を過ぎていく広い道は、車や自転車で通りすぎる人が大半だ。

今、正面に太陽を見据えている。

少女は、この太陽を追いかけていた。

まっすぐに、まっすぐに追いかけていく。

道を知らない少女の、唯一の道しるべであった。

「なんか、どんどん人のいる場所から遠ざかっている気がする」

「そんなに変わらないと思うよ。向こうもこっちも、たぶん」

「なんか自信なさそうだな。やっぱり、逆にしとけばよかった」

「一応、誰かに聞いてみてからでも遅くないと思うけど」

「聞く人がいないと聞けないぞ」

「それは、そうだけど……」

両者とも沈黙する。


それでも、歩き続けていれば、誰かはいる。

「決めた。あの人にしよう」

ユーがピッと指差した先には、大学生くらいの女の人がいた。

「人を指差しちゃ駄目だよ。ユー」

「そうか? そうだな。でも、見えてないし……とにかく、言ってこい!!」

少女は光彰の背中を強く叩いた。

本人はそれでも全力で叩いたことだろう。

ミツアキは背中に軽い感触を受けながら、見知らぬ人へと歩いていった。

「あの、すみません……この子の飼い主になってくれる人を探しているんですけど」

「あら、子猫? どうしたの? 捨てられていたの?」

矢継早に言葉をかけられ、うろたえる光彰。

戸惑っていると、背中に物理的な圧力を感じた。

「あの……ええと……橋の下で……」

「かわいそうに、こんなに可愛らしいのに……」

後ろから小さな声で、よし行け、そら来た、と騒いでいるのが聞こえる。

「その……この子、飼ってくれませんか?」

「んー、……ごめんなさい。私のアパートはペット禁止なの」

しばしの黙考の後、出てきたのは否定の言葉だった。

明らかに落胆するミツアキに、彼女は申し訳なさそうに去っていった。

「駄目か……」

腕組みしながら考えこむ幽霊。

「簡単にはいかないね。次の人を探そうか」

ことさら元気よく言ってみたものの、ちょっと自信のない光彰。


空が晴れていることが唯一の救いだった。

冷たくなった風を受けて稲穂は揺れる。

「ねえ。やっぱり……」

少年の言葉はそこで遮られた。

「よし、次がきた。ほらあの丸刈りの高校生」

見れば、頭をきれいに刈り込んだ高校生が歩いてくる。

部活にでも行くのだろうか。それとも帰りだろうか。大きな鞄を背負っていた。

光彰は少女の有無を言わせぬ瞳の輝きに、促されるように声をかけた。

「あの……すみません……」

先ほどよりも静かに投げられた言葉、返答は迅速だった。

「なんや、坊主。ああ、子猫かいな。里親でも探しとるんか? ええ、分かった。ちょっと待てよ」

光彰が話す隙なく、話が進む。何をするのかとおもいきや、高校生は、携帯で電話をかけ始めた。

後ろをちらりと見てみれば、いつも強気の幽霊少女もこのときばかりは唖然としていた。

「かあちゃん。……頼むわ。……ええやんか。……そこなんとか」

数分後、話がついたようで、彼とようやく会話ができそうだった。

「あの……」

「すまん!! 堪忍な!! うちのかあちゃん、猫はアカンゆーてきかんねん。やから、他みつけや」

そういって、あっという間に走り去っていった。

残された少年と少女は二人で顔を見合わせる。

「なんか、すごかったな」

「そうだね……僕、ほとんど何も言ってないんだけど」

うんうん、と何事かを考え始める少女。

少年は、なるようになるかと、少し気楽になり始めていた。


どうも少女は、2度の失敗で慎重になっているらしく、あれから何人かが通り過ぎた。

少年は舗装された道路を意味もなく眺めていた。

「決めた!!」

唐突に上がった声で、前を確認する少年。

今度は、猫を手押し車に乗せたおばさんが歩いていた。

「次こそは、間違いない!! 任せた!!」

威勢のいい言葉に送られながら、再三の言葉を口にする。

「すみません……」

おずおずとかけられた言葉に、おばさんはゆっくりと返事をした。

「こんにちは、どうしたの?」

「あの……この子を飼ってくれませんか?」

すると、おばさんは目をまるくして、子猫を見た。

「あー、そうねえ。ちょっと、無理かしら。ごめんなさいね? 白い猫ちゃんならよかったのだけど……」

確かに、手押し車に乗っているのは白猫である。しかし、それだけではなかった。

おばさんの身に着けているもの全てが、白を基調として整えられており、帽子から靴にかけてほとんどが白色だった。もちろん、手押し車も真っ白であった。

光彰は、自らの願いが聞き届けられないだろう事を;・悟った。

「そうですか……すみません、失礼します……」

「本当にごめんなさいねぇ」

そういって、白いおばさんは去っていった。

またも残された二人は、静かに悩む。

「なあ、もしかして私の人選ミスか?」

少女が重い口を開いた。

「そうでもないと思うよ。皆、そう簡単に飼えるわけじゃないんだよ、きっと」

「そうゆうものなのか」

「そういうものじゃないかなぁ」

箱の中から小さな鳴き声がした。






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