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晴天(3)

一日は早くも半分が過ぎた。

地面を暖めた続けた太陽のおかげか、朝よりは気温が高い。

それでも、時折(ときおり)抜けていく風が今の季節を告げている。

思い出したかのように、一拍遅れて藤袴(ふじばかま)の小さな花が一揺れした。

しかし、その寒さはこの少女には通用しない。

「みぃーーー」

猫とにらめっこでもしてるのだろうか。

ぐいぃ、と自分の口元を懸命に引き伸ばしている。

が、長くは持たなかった。

手を離し、じっと猫を見つめる。

「ていっ」

おもむろに手を伸ばし、猫のほっぺを伸ばそうとする。

猫のほっぺを持とうとしたところで、それができないことに気づいた。

「あー、つまむのは無理なんだな。つまらん」

それでも、未練がましくぐりぐりと手の平を押し当てる。

猫はくすぐったそうに頬掻く。

手を力一杯押し当てていたというのに、少女の手は簡単に振り払われた。

「何かと不便だ。猫パンチにも負けるんじゃないか。私・・・」

静かな失望が漂う。

ため息一つつきながら、猫の頭をなでる。

「みつあきの奴遅いよなぁ。たしか、今日は休みだとかで午前中から遊べるとかなんとか言ってた・・・はず」

お日様と一緒に寝起きする彼女にとって、すでに半日。

待つにくたびれた、といった感じだった。

「ワタルもいつの間にかいなくなってるし・・・」

ワタルはおまけでも、とりあえず楽しみにしていたというのに。

「ひま!ひま!!ひま!!!ひま!!!!」

届く人間など限られているのに、精一杯叫ぶ。

「あぁぁぁ、こんないい天気なのにぃぃーーー!!」

暇、を全身で表現する少女は、本来の業務を少し忘れかかっているのかもしれない。

それはそれで、良いことかもしれないが。

「お前も遊んではくれないんだな・・・」

必然、猫の方にその余ったエネルギーの矛先は向かう。

猫からすれば、遊ぶ遊ばないよりは遊べないと言いたかっただろうか。

猫の前にペタンと(ひざまず)く少女。

「幽霊って大変だな・・・」

猫を前にして落胆する姿は、滑稽であった。


「何してるの?」


待ち望んだ声は、待ち望んでいたタイミングとはかけ離れてやってきた。

「ひゃっ!!」

急ぎ猫の前から跳び退いて、泣き虫な少年を見据える。

「みつあき・・・来るなら来るって言ってくれ!!」

「えっと、言わなかったっけ?今日学校休みだから、早く来れるって」

「言ったよ!聞いたよ!でも、ちがーーう!!私の後ろから突然はなしかけるなーー!!」

どうも、余程恥ずかしかったらしく、顔を真っ赤にしている。

「どいつもこいつもれいぎってやつを知らんのか!」

「ご、ごめん」

反射神経のように謝る少年。あまりの剣幕にたじろいでもいた。

「でも・・・」

続きを言いかけて、やめた。

聞きすぎるのは良くないとでも思ったのだろうか。

さすがに怒鳴りすぎたと思ったのか少女は、大仰に言った。

「ふんっ。まあ、許してやる」

「あ、ありがと」

話しかけただけで、すごい体力を使った少年であった。





「今日は、こいつの飼い主を探すことにする」

さっきの騒ぎから一息ついたところであった。

「えっ」

パンを猫に与えていた光彰は、ワタルさんにパンは渡していないけれど大丈夫かと考えていたところだった。

少年の頭の中で、猫と坊さんの天秤が揺れている。

「飼い主だ、みつあき。いつまでもここにおいとくわけにはいかないし」

「いいの?」

言葉少なに問い返した言葉は、寂しくないのかという意味であったか。

「いいんだ。いつまでも面倒を見れるわけじゃない」

「本当に?」

「しつこい!いいんだ!探すと言ったら探す!!」

寂しいからといって、自分の近くにおいておくわけにはいかない。

幽霊であるのだから。

風が吹く。

「分かった。探そうか」

少女の決意を知った少年は、今日のこの晴天に相応しい微笑みで返した。

「じゃあ、行くか!!」

早速立ち上がり、先々に行こうとする少女。

対して少年は、残ったパンを全て猫の入ったダンボールに放り込んだ。

急いでダンボールを抱えて追いかける。

少年の着ているパーカーのひもを猫が必死にくわえようと暴れていた。


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