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プロローグ、天使と会った日。前

同じような夢を見る事がある。その夢の中で、俺は巨大な幼虫のような怪物で、途方もなく暗いところから明るいところを目指して這い上がり、近くにある命を手当たり次第に食いちらかす。老いたものも、若いものも、健康なものも、不健康なものも見境なく、そこにあれば。痕跡を残さぬように、騒がれぬように丸呑みにする。そして、目が覚めた時は気味悪さだけが残っている。それでもむしろ、その夢を見る前よりも身体は充足している。


目覚ましアラームの音で目が覚めた。いつも通りの朝だ。いつも通りの…ろくでもない朝。昨日の夜も例の夢を見た。どんな人間を喰ったのだったか。基本的には嫌なくらい鮮明な夢なのに、毎回それだけはボヤけている。しかしもはや見慣れた夢だし、そもそも夢なのだから特に気に留めることもしなかった。

着替えるのを後回しにして、パンを焼く。ついでにスープを作る。暫くするとパンの焼ける香ばしい匂いと、コンソメの芳醇な香りが部屋の中に広がっていく。変わり映えのない毎日の繰り返しの中であろうと、この瞬間は俺自身は幸福だと思える。出来上がったパンとコンソメスープを一人用の机に運びテレビをつける。頭の中で予想していたのは聞き慣れたニュースキャスターが報道するどこかで聞いたことのあるような世界情勢や新作映画の話。

しかし、今日は少し違った。とある連続殺人犯のものと思われる犯行が昨晩に行われたという速報。そして現地での聞き込み。ネットニュースで見た情報によるとその連続殺人犯による犯行はいわゆるバラバラ死体なのだが、特異なことにパーツを切り分けるだけでなく大まかな筋肉に沿って身体を解体する()()()()()()()()()()()()なのだと言う。特に連続犯行を示すようなサインや物証を残しているわけではないが確かにそれなら同一人物によるものだと考えられるのは自然な流れだろう。

普通のニュースを想像してテレビをつけただけに俺は少し面食らってしまった。こんな猟奇的な犯行に関するニュースを見ながら飯が美味く食える気がしなかったから、静かにテレビをきる。

あんな事件を見たら飯がマズくなってしまう。俺は散歩にでも出掛けて少し経ってから用意した朝飯を食べることにした。覚めてしまうだろうがそれは仕方ない。普段なら少し猟奇的なだけのニュースとして流す事ができたかもしれないが、今日に限って何だか落ち着かない気持ちになってしまう。


外に出て、扉の鍵を閉めているところで、元気な声で話しかけられた。

「あ、管理人さん!おはようございます!」

彼女はこのアパートで数少ない学生である。どこの大学だったかは忘れたが、天文学部に所属しているらしい。ゴミ袋を持っているから、ゴミ出しに行くのだろう。

「ああ、鈴原さん、おはようございます。にしても俺と違って朝から元気っすねえ…。」

「何行ってるんですか!管理人さんだって私と同年代じゃないですかあ!」

「はは…年齢は近くても夢と希望のある人間とじゃ違うもんですよ。」

「またまたあ、管理人さんにもあるでしょ?夢とか…目標とか。」

痛い言葉だった。落ちこぼれて、家族からも見限られたような人間に対した夢などない。強いて言えば平穏で退屈な日常が続くことくらい。沈黙…。何か言葉返さなければと思うものの頭が濁って何も出てこない。

「ッつ…あ、も、もうそろそろゴミ収集車出ちゃうんじゃないですか…?早く行った方が…」

口をついて出てきたのが話を逸らす言葉だったことに罪悪感を覚えずにはいられない。

「え!?あ、ホントだ!ありがとうございます!」

彼女は腕時計をチラリと見て驚愕し、慌てて去っていく。ひとまず誤魔化せたことへの安堵、何も答えられなかった後悔、未来ある若者への羨望、それらに似た感情が自分の中でぐちゃぐちゃになっているのを感じる。

「ッ!いけないいけない!朝からこんなに沈んでどうする…」

そう言いながら頬を力を込めて2回叩く、強い刺激と、ヒリヒリとした痛みが俺の思考を現実へと引きずり戻す。そのまま俺は予定通り散歩に出かける。


普段のバイト先がある方とは別の方角。中心通り(メインストリート)と違って閑散とした路地裏。特に何もない場所だ。強いて言えば小さい公園と自販機くらい。

その小さな公園を通りかかった時、視界に違和感が映った。申し訳程度に設置されているベンチに一人の少女、いや少女と言うには少し大人だが、ともかく奇妙な服装をした、透明感のある少女が横たわっていた。

こんな朝っぱらから若い女性がこんなところで寝ているのは危ない。どう考えても危ない。俺が不審者になるリスクもあるが、俺は彼女を起こしてみることにした。

「あ、あの〜。大丈夫?ですか?」肩を叩きながら、それでも顔は一定の距離話して問いかける。

かける言葉を変えつつ1、2分続けていると、彼女が突然飛び起きた。その衝撃で後ろによろめいた俺に向かって彼女は睨みながら言い放った。


「気安く話しかけるな!ボクを誰だと思っているんだ!ボクは生命の創造を司る大天使だぞ!」

書く速度はそんなにはやくないので更新まで時間がかかると思います。また、誤字脱字とかありましたらおしえていただけるとありがたいです。

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