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死ぬと花になる呪いをかけられています

作者: 虎依カケル
掲載日:2026/03/12


 私が死んだら、どんな花が咲くのだろう。シェリルは心の中でそう思った。


 ベッドから立ち上がり、窓の外を見る。豪華で大きな建物が並ぶ城の敷地内。ここはどの建物よりも高い。地面は遠くにある。ここから飛び降りれば、ひとたまりもないだろう。

 狭く、小さな部屋。生活ができるように整えられているが、扉は外から鍵をかけられている。この部屋を見て、誰がこの国のお姫様の部屋だと思うだろうか。


「呪いだなんて、バカバカしい」


 そう言ってみても、状況は変わらない。シェリルはベッドに座り込み、小さく息を吐いた。


「シェリル様」


 扉の外から声をかけられる。


「入ってもよろしいでしょうか?」

「私がだめだと言ったら、遠慮してくれるの?」

「いいえ。王命のため、入らせていただきます」


 鍵を開ける音がし、扉が開かれる。そこに立っていたのは、宰相だった。


「失礼します。シェリル様。大事なお話があります」


 部屋に備え付けられている小さなテーブルと椅子に目を向けられる。座って話がしたいということだろう。シェリルが立ち上がり、椅子に座ると、彼も目の前に座った。


「それで、話とは何かしら?」

「あなたの呪いについてです」


 呪い。それは、王家に代々伝わるものだった。


「あなたは死ぬと、花になる呪いにかかっています。」


 死ぬと花になる呪い。シェリルの伯母もその呪いにかかっていたという。王家の者なら、誰でもなる可能性のある呪いで、ある日突然発症するという。そのため、王家の血を継ぐ者は、定期的に魔術による検査をする必要があった。


「あなたの中に花の種があるのがわかったのは去年の暮れ。それからあなたはここから出ることが許されなくなりました」


 呪いは誰かにうつる可能性はない。だが、外で何かあった場合、誰かに花になるところを見られる可能性がある。王族がこんな呪いをかけられているだなんて、知られてはいけない。そのため、外との接触を防ぐために、呪いにかかった者を塔に閉じ込めるのだ。


「あなたはずっとここで生活するはずでした。……ですが、状況が変わりました」

「え?」

「あなたはある家に嫁いでもらうことになりました」


 その言葉にシェリルは思考が停止した。呪いにかかった者が嫁入り? なんて奇特な人間がいたものだろうか。


「……いったい、何が目的なの?」

「アクトン家はご存じでしょう? そこの新しい当主、アクトン伯爵があなたのことに興味があるとのことです」


 アクトン家は魔術に特化した家だ。魔術師団に多くの人間を出してくれている。研究者気質のものが多く、王族に呪いがかかっている者がいないか検査してくれるのもこの家だ。


「アクトン家が何のために?」

「……あなたのことに興味があるようです」


 同じ言葉を繰り返す。濁すような口ぶりになぜ、その話が通ったのかわかった。シェリルを実験体にして、呪いを解く方法を調べようとしているのだ。


「わかりました」


 この先、閉じ込められる運命なのは変わらないだろう。ならば、呪いを解く手がかりを得られるのであれば、そちらの方がいい。


「その申し出を受けましょう」


 そこからの話は早かった。シェリルがどのような返事をしていたとしても、話は決まっていたようで、嫁入りの準備が進められていた。シェリルが塔から出るのも、それから一か月も経たなかった。

 見送りには誰も来なかった。兄妹は多かったが、同じ母を持つ者はいなかった。だから、同じ父親を持っていても、関わることは多くなかった。そう考えれば、呪いを持った者を見送る者がいなくても仕方がないのだろう。

 使用人たちが荷物を馬車に詰め込む。十五年も過ごしたはずなのに、あっけなく感じる。


「シェリル様。馬車にお乗りください」


 準備が完了し、馬車に乗せられる。ゆっくりと動き出し、一年ほど住んでいた塔から離れていく。

 外で仕事をしている使用人たち物珍しそうにシェリルの乗っている馬車を見ていた。きっと、嫁入りの話を知っているのだろう。

 シェリルは微笑みながら顔をまっすぐ前に向けていた。うつむいてしまえば、不幸な少女みたいになってしまう。それは許せなかった。

 胸の奥で、時折種が脈打つような、冷たい重みを感じる。シェリルは胸元でぎゅっと手を握りしめた。


 ……私は呪いを解きに行く。そして、嫁入り先で幸せになる。


 塔から出れたのだ。停滞した状態から脱せられたのだ。ならば、良い方向へ進むと信じたい。

 最後に見るであろう城の敷地内を眺める。綺麗で豪華であるはずなのに、庭にもどこにも一輪の花も咲いていなかった。




 アクトン領は城から一日かかって着くことができた。昔から王族に利益をもたらしてくれる家だから、そんなに遠くないのだろう。

 伯爵が住む城は大きかった。王族の住む城よりは大きくないが、お金がある家なのだろうというのが察せられる。

 あちらこちらで花が咲いている。花が咲き乱れる庭園もあり、ここの当主は花を大切にしていることがわかる。


「……不気味」


 王族の間では花は死を表すものだ。このようにたくさん咲いているものではない。

 シェリルはすぐに花から目を逸らした。


「ようこそ、いらっしゃいました。シェリル様」


 出迎えてくれたのは背の高い男性だった。肩まで伸ばした黒い髪に鋭い目つきがどうにも怖い。彼はシェリルの前に膝を付く。


「初めまして、私があなたの夫になるメルヴィンです。以後、お見知りおきを」


 微笑む様子を見て、シェリルはその顔に見覚えがあることに気が付いた。


「あなた、魔術師団にいた方ね?」


 メルヴィンは大きく目を開く。


「覚えていてくださったのですか?」

「何度か呪いの検査もしてくれたでしょう?」


 そう言うと、メルヴィンは目を細める。


「覚えていてくださり、嬉しいです」


 彼はそう言って、シェリルの手を取る。


「私はあなたの呪いを解く方法を調べたいと思います。あなたにはその協力をしてほしいのです。……もし、呪いを解く方法がわからなくても、あなたが花になるところを見たい」


 ぞわり、と背筋に冷たいものが走る。……何を言っているんだ、この人は。


 アクトン家は研究者気質の者が多いとは聞いている。けれど、本人を目の前にして、死んだところが見たいというのは、どういうつもりだろうか。

 だが、呪いを解く方法を調べてくれるのだ。彼は協力者だ。シェリルは何とかして笑う。


「よろしくお願いしますね」


 そう言って、彼の手から自分の手を引き抜いた。




 シェリルが用意してもらったのは夫婦用の部屋だ。その部屋でメルヴィンとの生活が始まるという。


「研究対象としてではなく、夫婦として扱ってはくれるのね」


 使用人が荷物を片付けてくれる。シェリルはそれを座って眺めていた。


「シェリル様」


 メルヴィンが部屋に顔を出す。その呼びかけに、シェリルは笑みを作って言う。


「もう夫婦になるのだから、シェリルでかまわないわ」

「では、シェリルと。今から街に出るのです。一緒に来ませんか?」

「……へ?」


 何を言っているのかわからなかった。シェリルは生涯幽閉の身のはずだ。それなのに、街に出る?


「そんなことしていいの?」

「そんなこととは?」

「私みたいな呪いのかかった者が街に出るなど……」

「人にうつるものでもないでしょう?」

「それは、そうだけど……」

「あなたはここに嫁入りに来たのです。夫婦なのだから、一緒に出掛けることもあるでしょう。何が不思議なことがあるんです?」


 メルヴィンの言い分はもっともだ。だが、それは普通の結婚の場合だ。シェリルは実験体として、ここに来た。普通の自由を得るべきではないだろう。

 シェリルはどうしたらいいか悩んでいると、メルヴィンがこちらに手を差し出してきた。


「我が街に興味はありませんか、姫様」


 ……街には興味があった。ずっと閉じ込められた生活をしてきたのだ。外の、街の雰囲気を味わいたい。


「……一緒に連れていってくれる?」


 メルヴィンの手に自分の手を重ねると、メルヴィンは優しく微笑んだ。


「もちろん」




 アクトン伯爵領の街は城下町ほど大きくはなかった。だが、街の中は活気ついており、いろんな店が出ている。


「どこに行くの?」

「さあ、どこに行きましょう」


 メルヴィンの言葉にシェリルは首をかしげる。


「用事があって、街に出たんじゃないの?」

「そうですよ。あなたに街を楽しんでもらうという用事です。あなたの好きなところに行きましょう。あなたはどこに行きたいですか?」


 シェリルの頬が思わず緩む。自分の好きなところに、好きなように行ける。こんな幸せはあるだろうか。


「……この街で美味しいものを食べたいわ」


 恥ずかしさのあまり、メルヴィンの方を向けなかった。彼はくすりと笑う。


「では参りましょうか。シェリル」


 メルヴィンの連れて来てくれたのは、串焼きのお店だった。肉や野菜、キノコなどが差された状態で焼かれ、旨そうなタレにつけられている。


「美味しそう……」

「城で美味しい料理はいっぱい食べていたでしょう。ならば、庶民が食べるようなものがいいと思ったのです」

「ええ、こういうの。こういうのが食べたかったの」


 一本手に取り、端からかぶりつく。甘辛いタレが口の中で広がっていく。


「おいひぃ~」


 触感を楽しみながら食べていると、メルヴィンが微笑ましそうな顔でこちらを見ていた。


「あなたは食べないの?」

「食べますよ」


 彼はそう言って、やっと目の前の串焼きに手を付ける。一口食べると、満足そうにうなずいた。


「やはり、ここのは美味しいですね」

「伯爵様にそう言ってもらえて、嬉しいよ」


 二人で食べていると、店の人が声をかけてくれる。


「伯爵様、その方は?」


 シェリルは食べる手を止め、上品に振る舞う。それ見て、メルヴィンはふふっと笑うと、紹介してくれた。


「私の妻になるシェリルだ。一人で街に出ることもあるだろう。その時は優しくしてやってくれ」


 ……一人で街に出る。 そんな自由を許してくれるのだろうか。シェリルはメルヴィンの横顔を見上げる。メルヴィンが何を考えているのかわからなかった。


「伯爵様、見てくれよ。この前もらった花が咲いたんだよ」


 店主はカウンターの上に置かれている鉢に目を向けた。そこには白い花が咲いている。


「綺麗に咲いてよかったよ」


 メルヴィンが嬉しそうに微笑む。店主もにこにこしながら花を見ていた。

 シェリルには花を綺麗と思う気持ちがわからなかった。これが綺麗というものだろうか。


「シェリル」


 花をじっと見ていたシェリルに対し、メルヴィンが声をかける。


「もしよろしければ、次は服屋に行きませんか?」

「いいけれど……どうして?」

「街に出るための、簡素な服も必要でしょう? それに、綺麗で立派なドレスだけでは疲れてしまいますからね。部屋で過ごす服もあればいいと思っているのですが……」

「ちょっと待って」

「あ、疲れましたか? それなら、それは次回でもいいのですが……」

「そうじゃなくて。どうして、私を自由にしてくれるの?」


 メルヴィンは目を瞬かせる。そして、腕を組んで考える素振りを見せた。


「……どう伝えたらいいでしょうね。大切にしたい、と言えば伝わるでしょうか」


 ああ、そういうこと。つまり、研究対象の精神状態が悪いのも良くないということなのだろう。魔術は何に作用するかわからない。ならば、精神が安定していた方が良い結果を得られる可能性が高いということだ。


「ええ、伝わったわ」

「それはよかった」


 メルヴィンはホッと息を吐くと、するりとシェリルの手を取った。温かく大きな手がシェリルの手を包み込む。


「何を……」

「行きましょうか」


 メルヴィンはシェリルの手を引いて歩き出す。その手の感触は慣れなかったが、不思議と抵抗を感じなかった。

 また街の中に出る。よく見れば、街のあちらこちらに花が咲いていた。住民たちは花に水をあげながら、大切に育てている。


 ……城とは大違い。


 なんだか、あの花たちは愛されて、羨ましく感じた。



「この服なんて、いかがでしょう?」


 服屋に着いて、シェリルは着せ替え人形になっていた。

 シェリルが選ぶよりも先に、メルヴィンがあれが似合いそうだ、あれも素敵だ、と提案してきて、シェリルはそれを着まくっている。

 メルヴィンの見立ては良く、着た中でシェリルも気に入ったものはいくつか見つけた。


「メルヴィンは服の見立てもできるのね」

「シェリルが何でも似合うのですよ」


 メルヴィンはいくつかの服を選ぶと、会計に移った。その服はシェリルも気に入ったものばかりだった。

 シェリルは待っている間、店の中を見て回る。店には服だけでなく、アクセサリーも置かれていた。

 その中に指輪を見つけ、足を止める。そういえば、まだ指輪がない。

 この国では夫婦は結婚の証に指輪を贈り合う。シェリルは幽閉された状態からここまで来たので、何も用意していないのだ。

 ……どこかで用意しないと。そう思いながら、指輪から目を外す。すると、メルヴィンがこちらをじっと見ていることに気が付いた。


「メルヴィン、どうしたの?」


 シェリルが首をかしげると、彼はすぐに微笑んで首を横に振る。


「いいえ。帰りましょうか」


 用意された馬車に乗り込み、領地の城に帰る。帰り道は穏やかな時間が流れていた。


「うちの領地は食事が美味しいのですが、隣の領地も美味しくて……いつか、一緒に行きましょう」


 メルヴィンはきつい目つきをしているのに、出かけている間、ずっと目尻が下がっていた。楽しんでいるのが自分だけではなかったとホッとする。

 久しぶりのお出かけは楽しかった。外に出られたからというのもあるが、知らない街を歩くというのも新鮮で、いろんな店を見て回るだけでも心が踊った。ほかの領地にも連れて行ってもらえると聞いて、今からわくわくしてしまう。

 昼間は晴れていたのに、外は雨が降っていた。少しずつ本降りになっていく。

 行きとは道を変えたのか、山の方を走っていた。雨が降っているため、近道をしているのだろうか。


「シェリル、明日は近くの農地に行きましょうか。少しずつこの領地のことを知っていきましょう。それで……」


 馬のいななきが聞こえる。ふわりと体が浮く感覚がした。


「シェリル!」


 大きな音がした。それが地面の崩れた音だとわかった。馬車がひっくり返り、 落ちていく。

 メルヴィンがこちらに手を伸ばし、抱き寄せてくれる。メルヴィンの大きな体に包まれる。地面にたたきつけられる感覚がした。横腹に鋭い痛みが走る。


「シェリル、大丈夫ですか。シェリル!」

「い、痛い……」


 痛みのあまり、体が動かせなかった。横腹に鋭い痛みを感じる。


「横腹に木の破片が……」


 横目で横腹を見ると、そこには大きな木の破片が刺さっていた。血も多く流れている。


「シェリル、しっかりして。目を閉じないようにしてください!」


 メルヴィンは杖を取り出し、横腹に魔術をかける。杖の先は光を発し、その光は横腹を包み込む。治療の魔術だろうか。その光は温かった。

 血が多く流れ、意識が朦朧としはじめる。シェリルはその頭でぼんやりと考えた。


「……このまま私が死ねば、花が咲くわ」

「は?」

「花が咲くところを見たかったんでしょう?」


 メルヴィンはそう言っていた。花になるところを見てみたいと。ここでシェリルが死ねば、それは叶う。

 まだ死にたくはないが、もし死んでしまったとしても、今日という一日を楽しませてもらったお礼になるだろうと考えていた。

 だが、メルヴィンの目は鋭くなる。


「……何を言っているんですか!」


 彼はシェリルの手を取る。彼の手は先ほどより温かかった。シェリルの手の冷たさに彼は少し戸惑うと、温めるように包み込んだ。


「あなたは死んではいけない。死なせてたまるもんか」

「あなたの実験体だから?」

「私の妻だからだ! 大切にしたいと言ったでしょう!」


 シェリルは大きく目を開く。メルヴィンは強く手を握り締めた。


「あなたが好きだから、結婚を希望したのです! これからもずっと一緒にいたいから呪いを解くのです! なのに、こんなところで死んではいけない!」

「あなた、花になるところが見たいのでしょう?」

「呪いが解けなかったとしても、最期の時まで一緒にいるという意味ですよ!」


 ……何それ。


 血が少ないはずなのに、顔が赤くなっていく。胸が大きな音を立てていた。


「ああ! 血の流れが速くなってます! シェリル、落ち着いてくれ。ゆっくり息を吸って」


 そう言ったって、気恥ずかしさが止められない。頭が冷たくなり、意識が遠のいていく。


「花が……」


 横腹の傷口から、緑の芽が顔を出していた。それは血を吸うように伸び、ゆっくりと蕾を膨らませる。雨に濡れた空気の中で、赤い花が静かに開いた。まるで、血を吸ったような赤色だった。

 メルヴィンはそれを見て顔をゆがめる。


「……咲くな。咲くんじゃない!」


 彼はそう言いながら、治療を続けてくれる。その優しい温かさに気づけば、意識を手放していた。




「シェリル。目を覚ましましたか?」


 気づけば、ベッドの上にいた。横腹の痛みもなく、触っても何も違和感がない。

 ゆっくり起き上がれば、メルヴィンが慌てた様子で肩を抑えた。


「無理しないでください。あなたは怪我人です。完治したとしても、まだ動かないでください」


 どうやら、怪我は完治しているらしい。メルヴィンが魔術で治してくれたのだろう。それなのに、動かないでというのは過保護すぎるのではないだろうか。


「あなたは一日中眠っていたのです。まだ本調子ではありません。ゆっくりしていてください」

「メルヴィンは怪我をしてない?」

「私は大丈夫です。怪我がひどかったのは、シェリルだけです」


 メルヴィンはこちらに手を差し出す。


「あなたに私の思いが伝わっていないことがわかりました。もう一度、伝えてもよろしいですか?」


 その言葉に、シェリルは背筋を伸ばしてしまう。メルヴィンはくすりと笑うとこちらを向いた。


「私は城であなたと出会い、あなたに恋をしました。……初めて会ったときのことを覚えていますか?」


 シェリルは首を振る。会ったことがあるのは覚えていたが、どのようにして会ったかまでは覚えていなかった。


「私はあなたの呪いの検査役でした。けれど、私は領主の息子にも関わらず、魔術が得意ではなかった。だから、ほかの魔術師が、あなたの前で私の悪口を言って、検査役から外そうとしたのです。けれど、あなたは言ったのです。この人を外す権限は自分にあると」


 全然覚えていなかった。けれど、自分なら言いそうだった。


「一生懸命やってる人を外す理由はないものね」


 メルヴィンは嬉しそうに目を細める。


「そう。あなたはそうおっしゃってくださったのです。私はとても感動しました。だから、私はあなたの検査役として見合うように魔術の訓練を必死にしました。……けれど、気づけば、どうやったらあなたの隣に立てるかと考えるようになったのです」


 メルヴィンはそれから努力し、魔術師団長候補にまで上りつめたという。もっとも、伯爵家を継ぐ話が出たため、辞退したそうだが。


「領地に住むようになり、あなたに会うことはなくなりました。もう会えないだろうと思っていました。けれど、あなたは呪いにかかった。それを救えるのは自分しかいないと考えたのです」


 メルヴィンはまっすぐこちらを見ている。その視線は熱くて、どうにも落ち着かない。


「あなたの呪いは私が解きます。だから、一緒にいてくれませんか?」


 シェリルはメルヴィンの手の上に、自分の手を乗せる。


「ありがとう、メルヴィン。私を閉じ込めるのではなく、呪いを解くと言ってくれたのはあなただけよ」


 メルヴィンは顔を赤らめ、目を細める。


「また私と一緒に出掛けてくれますか?」

「もちろん」


 メルヴィンはポケットから何かを取り出すと、シェリルの指に通した。それは小さな石のついた指輪だった。


「たとえ、花になったとしても、あなたを一人にしません」


 そう言って、彼はその石に唇を落とした。

 窓の外には色とりどりの花が咲いている。その花たちを自分も愛せるだろうか。

 目を閉じて思い浮かべる。花を眺めながら、メルヴィンと一緒に笑っている姿を。



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