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美少女は邪教の教主様 -勇者が断罪にやってくる!?-  作者: 波留 六
瀬替えをしたら周辺の街が攻めてきた

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77.星屑の台座(前編)

 窓を開けると、思わず身をすくめたくなる冷たい風が部屋の中へと流れ込んでくる。

 自らの肩を抱いていた手を離し、窓のさんへと手を置く。そして身を乗り出して空を見上げた。

 澄んだ空気に街の明かりも乏しく、瞬く星々は無限に連なる河となって夜空を彩っていた。

 西の空には一際光り輝く宵の明星が浮かんでいる。

 リーセはその星に手を伸ばし掴もうとした。もちろん届くはずもなく、手は空を掴む。

 彼女は握った拳を胸元に寄せて開いてみる。暗く、たよりなく、小さな手のひら。小さなため息をついて視線を外に戻す。星の河の切れ目に黒くシルエットだけの山並みが見える。その麓にちらちらと光る赤い連なりが見えた。

 帝国軍が山を越え、ついに平野部に姿を現したのである。

 一気に街の包囲に取り掛かるかと思ったが、南下してくる様子はない。東の王国軍の合流を待っているのだろう。リーシの街に攻め込むと決め、連合軍を要請したのは東の王国だ。しかし、東の王国軍の足は鈍い。だが明日には合流を果たすとの情報を得ている。

 そうなると、総勢九万の連合軍がリーシの街に押し寄せてくるのだ。

 それに対してリーシの街は三万の兵士を徴兵し、曲輪部に集結させてある。主力は二万の人族の兵士である。街に籠らずに会戦に持ち込む。一万の魔族の兵士は予備兵として街の守備にあたる。一〇万人のリーシの街としては総力戦であった。

 リーセの取る戦略は総力戦研究所の判断した戦法の中でもっとも勝率の低い作戦である。リーシの街の敗北を予想する者は多かったが、街から逃れようとする者はいなかった。

 すでに転移石による人びとの往来を止め、敵軍の通過点になると思われる集落の人々の収容も終え、城門を閉ざしている。

 クレフト侯アドリックからの使者があり何度か交渉を行っている。しかし、帝国側からの使者はなかった。おそらく宣戦布告の使者も来ることはないだろう。邪教を信じ魔物と暮らすこの街は問答無用で討伐の対象だということなのだろう。


「不安ならば街に籠ればいい。小規模な戦闘はあるかもしれないが、この街を攻め落とすことは不可能だ。兵糧が尽きるとともに彼らは退却をすることになるだろう」


 ツヴィーリヒトが隣に並び、リーセと同じように山裾の灯りを眺めた。火を消そうとする様子はない。奇襲の心配などしていないのだろう。こちらを威嚇しているのだ。

 リーセは窓から離れ冷えた身体を暖めるように腕組みをした。ツヴィーリヒトは窓を閉めると彼女の背中を追う。


「そんなことをすれば、せっかく慣らした畑が軍靴で踏みしめられてしまう」


 リーセは壁に立てかけてあった錫杖を手にする。その隣には割れた姿見がある。嫌な思い出があるので、取り替えてほしいと思っているが、彼女の祖母から受け継がれたものらしい。

 ひび割れて映る自分の姿を少しだけ眺め、部屋を後にする。


「私とデンメルングがいれば勇者たちを抑えることができる。その間にエクセシュ率いる蜥蜴男リザードマンの部隊の突撃とウンエンドリヒがいれば、あの程度の集団は壊滅できる」


 二人は宮殿の長い廊下を歩く。魔法の電飾は頼りなく夜の闇を取り去ることはできない。人影はなく、二人の足音だけが響く。リーセはふと足を止める。そこは物置小屋で、ツヴィーリヒトが棺の中に閉じ込められていた部屋だ。この世界に来て何もわからないままリーセはツヴィーリヒトの封印を解いた。そこから長い旅を続けてきたような気がするが、こうしてその部屋の扉を眺めているとまた振出しに戻ったような気がする。


「ツヴィーリヒトは勇者一行の半分の力だって言ってなかったっけ? デンメルングと二人がかりなら勝てるということ? ん? 勇者『たち』……?」


 リーセの言葉にツヴィーリヒトは頷きながら立ち止まらずに通り過ぎていく。リーセは彼の背中を追いかけた。


「あの軍団に勇者は三人いる」

「なっ、なっ、何ですって! ヴィルトみたいな人が三人もっ?」

「そのうちの一人はヴィルト本人だ。だからみたいな男は二人だ」

「……」


 リーセががっくりと肩を落とす。確かに勇者は一人とは限らない。


「それだとツヴィーリヒトとデンメルングの二人じゃ倒せないでしょ?」

「リーセは魔法の能力に目覚めた。眷属である我々もその力は増大している」


 リーセは先回りしてツヴィーリヒトの前に立った。そして彼の容姿を改めて眺める。リーセが見上げなければならない長身。闇に溶け込むような黒く長い髪と身にまとう黒の外套。そして対照的な白く端正な顔立ち。長いまつげの下の黒い瞳が静かにリーセを見下ろしている。その眼差しを見ているだけで彼女の頬は火照ってくるので視線を逸らす。


「出会った時と全く変わっていないように見えるけど?」

「外見の問題ではない。お前も変わっていないだろ?」


 その言葉にリーセは白の法衣カソックに包まれた自分の身体を眺め下ろした。視線の高さは変わっていないように思う。胸元は相変わらずすっとんとんだ。お尻も軽くしか盛り上がっていない。


「私はツヴィーリヒトと違って成長しているからっ。ご飯もいっぱい食べているし、山羊のミルクも、いっぱい、ごくごく飲んでいるからっ!」


 ツヴィーリヒトの手が伸びて軽く顎を持ち上げられた。そして、肩を軽く叩かれる。


「元のリーセに戻らない限り、お前が何かをしてもその体は成長しない」

「え? そうなの?」


 その言葉に軽く頷くツヴィーリヒトを見て、リーセはがっくりと肩を落とした。


「早く言ってよぉ……、すっごい美少女だから、どんな人になるのか楽しみにしていたのに!」


 つまりは自分が立ち退くまでリーセの身体は成長しない。一生、この少女の成長を見ることができないのである。それは寂しいことではあったが、彼女がいるあいだ、本来の持ち主であるリーセちゃんの時間は止まっているので、時間を奪っているのではないかという罪の意識も和らいだ。


「自らのことを美少女とは自信過剰だな」

「これは私の身体じゃないし、ツヴィーリヒトだって自分の顔立ちには自信があるでしょ!」


 二人は他愛ない会話を続けながら聖堂に入る。

 巨大な円柱に支えられた高い天井。広大な空間を照らし出す幾重にも連ねられたランプと、中央の篝火。神聖な空気を感じ取るようにリーセは胸いっぱいにその空気を吸い込んだ。

 リーセは三枚の絵画の前で立ち止まる。

 中心部に近い老婆は相変わらず厳めしい眼差しを投げかけてくる。


「お祖母様も笑うことはあったのかな?」

「リースがお前を産んだときには優しい顔をして、お前たちを見ていた……」

「その絵を見てみたいな」


 その表情を知っているツヴィーリヒトをうらやましく思い、絵を見つめ直してみるが、その表情は変わらなかった。

 リーセは中央の祭壇に向かって歩き始める。

 明日は彼女の祖母リーシがルセロ教を立ち上げた日である。それを記念して教主であるリーセは朝まで聖堂に一人で籠りルセロ神に祈りを捧げるという決まりがあった。

 街の各家庭でも静かに祈りが捧げられているはずである。そして昨年は翌日に盛大な祭りが執り行われた。しかし、今年は連合軍の侵攻によりその規模は縮小されることになる。

 信仰心を持たない彼女にとって、その時間は退屈でしかなかった。しかし、誰も見ていないのである。去年はこっそり眠っていてもバレないだろうと思いぐっすりと眠ったが、翌朝、教会を訪れた信者たちが、リーセが病気か何かで倒れていると大騒ぎになった。

 それで今年はこの時間をツヴィーリヒトとのデートの時間にあてることにした。

 彼はリーセの眷属だから、人数としてカウントされないし、母や祖母の眷属でもあった。母や祖母の話を聞くのも悪くないと考えていた。

 円頂塔キューポラの真下でルセロ神に形式上の祈りを捧げたあと、ツヴィーリヒトに語りかける。


「そういえば、ノノが私をルセロ様だと言っていたけど、ツヴィーリヒトはどう思う?」

読んでいただきありがとうございます。

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