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美少女は邪教の教主様 -勇者が断罪にやってくる!?-  作者: 波留 六
瀬替えをしたら周辺の街が攻めてきた

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76.戦場に現れた二人のメイド(後編)

 コンラートとエクセシュから解放され、リーセはノノを連れて天幕を出た。

 天幕の外では兵士たちが各々の場所に腰を下ろして食事をとっていた。その脇を縫うようにして、二人は炊事場へと向かう。

 ふと、ノノが立ち止まり、兵士たちを見渡す。リーセも釣られるようにして立ち止まり視線を送る。円陣をつくり大声で語り合いながら食べる者。他の兵士から離れ静かに食事を摂る者。既に食べ終えて、寝そべったり、素振りをしたり、剣を合わせている者もいた。

 まもなく彼らは帝国の兵士たちと対峙することになる。それは彼らの意思ではなく、リーセの決断によるものである。


「リーセ様……」


 ふとノノがリーセに視線を投げた。


「デートとは……、何だったのでしょうか?」


 ノノの言葉に雷に打たれたようにリーセは動きを止める。


「い、いえ、それは……」


 何かを答えなくてはならない。しかし頭をフル回転させたがどのような言葉も出てこなかった。今回は特にノノの婿候補を探すと意気込んでいた彼女だったが、配給を始めてから、自分の作業をこなすだけで精一杯だった。さらには、コンラートに連れられて、ノノのことをそっちのけで話し込んでしまった。


「ノノ……、ごめっ」


 謝ろうとするリーセに彼女は両手を振って遮る。


「いいんです。私はリーセ様にお仕えできれば、それで幸せなんです」


 ノノはそう言って歩き始める。リーセはその背中を見つめる。カークたちをデートに誘おうとしたとき、ノノはついてくると息巻いていた。そして、自分の出番がないことを知り、仲間外れにされたことに怒り始めたのだった。

 だけど、ノノが好きなのはリーセの元の人格であるリーセちゃんであって、転移者の人格ではないのだ。リーセにはノノの気持ちを変えることはできない。

 どんどんと小さくなっていく彼女の背中に、リーセがデートのお誘いをしてもいいかと尋ねた時の笑顔が浮かぶ。

 ノノは兵士たちから離れ、炊事場に戻らずに街の方へと歩いて行く。

 リーセは慌てて追いかけ、彼女の腕を掴もうとした。しかし、強い力で振り払われる。


「リーセ様にはわからないんです! 私のことなんか少しもわからないんですっ!」

「なっ」


 リーセは驚いて後ずさる。彼女の反応にノノも驚いたように瞳を見開く。一歩二歩と後ずさり、そして背を向けると走りだす。リーセはその様子をぽかんと眺めていたが、我に変えるとノノを追いかけ始めた。



 彼女に追いつくのは簡単だった。リーセはノノの背中に飛びつき抱きついた。

 しかし、ノノは立ち止まることはなく、彼女を引きずって歩き始める。


「ノノ、どこに行くの!」

「今日のノノは変なんです。明日はいつものノノに戻ります」

「ノノが変なのは気にしてない! ノノはいっつも変じゃないっ」

「私は変ではありませんっ。いつも変なのはリーセ様です!」


 リーセは抱きしめる手に力を込める。そして思いっきり踏ん張ってノノを止めようとするが、ノノはずんずんと進んでいく。


「ノノ、こっちを向いて!」

「嫌です! リーセ様なんかっ、リーセ様なんか、少しもノノの気持ちをわかってくれません」

「そんなことないっ。私はノノのことを一番に思っている。今日はちょっと失敗しただけ。それに、ノノだって私の気持ちを分かってくれないじゃないっ」


 リーセの言葉にノノが立ち止まった。そして彼女を見ようと振り返る。その拍子にリーセの引き止めようとする力が勝り、しりもちをつくようにして倒れ、ノノもまた覆いかぶさるようにして、倒れてきた。


「いたいっ……」


 眉をしかめお尻をなでようとするリーセの頬に、ポタポタと雫が落ちた。見上げるとその雫はノノの頬を伝い流れ落ちてきていた。


「ノノ……」

「リーセ様。ノノには、ノノには分かりません……」


 ノノがきつく抱きしめてきた。リーセの頬がノノの胸に挟まれる。


「リーセ様……、いえ、ルセロ様。リーセ様をどうか……、このノノをずっとリーセ様のお側にいさせてくださいっ」

「いったいどうしたの?」

「ノノにはわかるんです。ルセロ様は私たちのもとから立ち去る準備をしています。ノノは、こんなデートが最後だなんて嫌です!」

「もしかして、ルセロ様って私のこと? 私はルセロ様じゃないって!」


 腕を張ってノノの抱きつき攻撃から逃れようとするが、リーセの力では振リほどくことができなかった。しかし、ノノの感情が落ち着いたのかその手が緩められて二人の間に空間ができた。ノノの熱い吐息がリーセにかかる。


「ルセロ様は教会を救うため、宵の明星の光りをかりてリーセ様の体内に降臨されましたね? リーセ様はお祖母様の血を引くお方です」


 明けの明星、宵の明星、それはただ唯一。

 リーセは祖母が残した言葉を思い出していた。


「待って、ノノ。私はルセロ様じゃない。私はたぶんこの世界じゃない別の世界から来た。それは神様と言う意味じゃない。そこには私のような、そしてノノのような人がたくさん暮らしていて、私はその世界の中のただの一人だった」


 リーセの言葉にノノがぽかんと口をあけた。


「元の世界の私がどういう名前で、どう生きてきたかは上手く思い出せないの。でも、こことの生活とは違う、暮らしがあってそのことだけは覚えているの。私は誰からも崇められるような人間じゃない」

「リーセ様……」

「ここは私の居場所じゃない。そんなことは分かっている。私は離れたくない。ここにはみんながいる。でもリーセちゃんが目覚めようとしている。私の時間は少しずつ消えて行こうとしている。私にはわかるの。私の時間はもう残されていない。だからみんなにお別れを言いたかったの」


 リーセは言葉を止める。これ以上はノノの顔を見て話すことはできなかった。しかしこの距離なのだ。リーセは諦めたように力なく笑う。


「ノノはずっとリーセちゃんが戻ってくることを待っている。私はそれが本当に辛くて、でも、それとは別にリーセちゃんからノノを奪いたいと思っていた。でもそれは……」


 リーセの頭にノノの手が添えられた。柔らかく温かな感触。そしてノノに抱き寄せられた。


「リーセ様。あなたはルセロ様のことを信じていません。あなたはいつも自分ですべてを決めようとします。ですが、あなたをこの体の中に、あなたとリーセ様を引き合わせたのはきっとルセロ様なのですよ? そんなルセロ様があなたを一人にすることなんてありません」


 リーセはノノの背にそっと手を添えた。


「このノノだって……」


 彼女の決意がリーセの心にそっと重ねられた。

読んでいただきありがとうございます。

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