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美少女は邪教の教主様 -勇者が断罪にやってくる!?-  作者: 波留 六
瀬替えをしたら周辺の街が攻めてきた

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73.異国の街の二人(後編)

「さて、申し訳ありませんが私には兵を退かせる権限はありません」


 クローゼが立ち去り、リーセが席に着いたあとアドリックは口を開いた。


「だけど、連合軍を向けたのはあなたが中心になって画策したことでは?」


 リーセは当て推量で言っただけだが、アドリックは痙攣させるように眉を動かす。


「私はただ転送石での移動を絶ち、交易を塞いで街を干殺しする作戦を進めようとしたんだ。しかし王は……」


 そう言って口を閉ざす。


「魔物の軍に勝てる算段があるのでしょうか? それとも、別の陰謀が働いているのでしょうか?」


 リーセの言葉にアドリックは首を振った。細い目の奥に秘められた何かを読み取ることはできなかった。


「魔物をクレフト領に入れることもできません。そのようなことをすれば、我々は人類の敵となり王国と戦う羽目になります。ですので、最初に私が申したことは謝罪します。どうかお忘れください」


 アドリックは口元を歪め、かすかに頭を下げる。


「今更かもしれませんが、民間の交易は歓迎します。クローゼを上手く使ってください。今日の彼がどのようにリーセ様の目に映ったかはわかりません。ですが、彼は本来有能な男なのです」



 リーセは街娘の格好に戻らず、法衣の姿で帰路についた。今は街の外を目指してクローゼ商会の手配した馬車に揺られている。相変わらず、切れることのない人並みで大通りはにぎわっていた。その人通りを避けながら進むため、馬車の速度はゆったりとしたものだった。リーセは馬車の小窓から外の景色を覗き込むようにして眺めている。

 時折、馬車を避ける人の中にはリーセの顔を不思議そうに眺める者もいた。


「おい、あまり顔を見せるな。また襲われるぞ」

「いいの。その時はラメールに守ってもらうし、今は商会の馬車に乗っているんだから、みんなに見てもらわないと……」

「どういうつもりだ? 事態を複雑にするようなことはやめろ」

「魚釣り大会で私が乗り物に酔いやすいって話を聞かなかったの?」

「亀の上は大丈夫だっただろ? それに烏の魔物(シュヴァイグラーベ)に時々吊るされているが平気だろ?」

「大丈夫じゃないし、平気じゃない! あれはすごく怖いんだからっ!」


 リーセの反論を聞いてラメールはため息をついた。


「交渉は失敗だったな……」

「そう?」


 リーセは小首を傾げる。


「帝国の方も交渉の窓口を探すつもりか?」


 ゲーツァに紹介してもらったのは東の王国のクローゼだけだった。帝国の交渉先を探すのは骨が折れると考えているのか、ラメールはその表情にさらに深い皺を刻む。

 リーセは彼の顔に触れるとその皺を伸ばすように指を動かした。ラメールは煩わしそうにその腕を払おうと動かす。そのとき、くぼみに落ちたのか馬車が大きく揺れリーセがよろめいた。

 ラメールは慌てて彼女の腕を掴み支える。


「危なかった……」


 リーセは大きく息をつき、ラメールの隣に座る。


「別に失敗したと思っていない。アドリックは連合軍が戦争に勝つと考えていたはず。そこに私と魔族の関わりが依然として強いことを匂わせた。それで、負ける可能性を考え始めているでしょう。そうなるとリーシの街との関係を考え直さなくてはならない。私は脅しはしたものの交渉の余地は残した。彼は王とも相談するでしょう。今度は向こうから使者を送ってくると思うし、戦いのとき消極的な戦略をとるかもしれない」

「その時の使者はクローゼか?」

「アドリックの最後の提案に乗って私たちがクローゼ商会を積極的に扱わない限り、彼が私たちの仲立ちをすることはもうないはず。戦争が目前に迫っているということで彼は焦りすぎた。少なくともアドリックはクローゼとの付き合い方を考え直すでしょう。私たちもまたクローゼ商会との取引を緩やかに減らし、今回の交渉について彼の失策を教えていく。ゲーツァさんには恨まれるかもだけど、そのときは彼女とアドリックを繋げればいい」

「帝国のほうはどうするんだ?」

「今回、クローゼ商会を通じて私とアドリックの交渉があったという情報を積極的に流していく。これはどういう結果になるのかわからないけど」

「それで馬車から顔を見せようとしていたんだな? 帝国と東の王国を離間させようというのか……」


 ラメールが顎をなでる。


「勘違いしないで。帝国と東の王国はもともと領土を巡って争っていたんでしょ? たまたまリーシの街という共通の敵ができただけなの」

「最初からこんなことを考えていたのか?」

「大筋はそうだけど、クローゼ商会の面目を潰すことは考えていなかった」


 リーセの顔をラメールがまじまじと覗き込む。その距離があまりにも近く、リーセは顔を赤らめて逸らした。


「それにしても……」


 リーセはため息をついて天井を見上げた。


「なんだ?」

「デートとは……」


 彼女の言葉にラメールは笑う。


「まだ終わっていない」

「どこがよっ。このまま馬車に揺られてクリスタルのオベリスクの所まで向かって帰るだけでしょ!」


 リーセの言葉に彼は赤らめた頬をかく。


「実は露店で買っておいたものがあるんだ」


 ラメールは紙に包まれたものを鞄から取り出した。その中から茶色の艶やかな光沢をもつサイコロのようなものが転がり出てきた。


「こ、これはっ!」

「カカオという木から採れた実を発酵させ干して砕いて、砂糖とミルクを加えて固めたものだ」

「チョコレート!」


 驚きの声を上げるリーセを見て、ラメールは複雑な表情を浮かべる。


「これを二人で食べようと思ってたんだが、知っていたのか……」


 リーセはぶんぶんと首を振った。そして一つ摘まむ。そしてラメールを見つめた。


「なんだ? 食べてみろ」

「ラメールも一緒に」


 リーセの言葉にラメールも一つ摘まみ上げる。そして二人で顔を見合わせたあと、一緒に口の中に放り込んだ。

 蕩けていくような甘みが口の中に広がった。

読んでいただきありがとうございます。

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