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美少女は邪教の教主様 -勇者が断罪にやってくる!?-  作者: 波留 六
宗教都市を作ろう

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60.リーセVS十二卿(後編)

 身廊につくと、すぐに枢機卿団が長椅子に腰をかけているのが見えた。

 彼らはリーセの姿に気がつくと立ち上がり、彼女を取り囲むようにして膝をつき祈りの姿勢をとった。

 リーセは彼らの顔を見渡したがベルナール以外に知っている者はいない。

 ベルナール以外の十二卿じゅうにけいは赤い法衣カソックを纏っていた。リーセは錫杖で床を強く突く。カツンと強い音が響いた。


「ベルナールから聞いていませんか? 勇者が訪れた夜、教会から立ち去った者は全て聖務停止インターディクトです。その法衣を纏うことを赦しません」


 張りのある声が聖堂に響く。

 リーセの言葉を受けた一人の男が顔を上げた。金髪の壮年の男だった。


「そのことですが、私たちは教会を守るため、ただ財産を守ろうとしたのです。勇者が訪れた夜、我々があの場にいては教会の財産は守れないと考えました。確かに私たちは布教のためにやりすぎたと認めます。しかし、こうしてルセロ教団が残っていることこそが我々の正しさだと信じています。ですので、我々の職務を取り上げることは今一度考え直して頂きたいのです」


 リーセはその言葉を聞いて、一同を見渡す。そして最後にベルナールを見下ろした。


「皆さんはこの者の考えに賛同していますか? ベルナール、あなたも同じ考えですか?」


 十二卿たちは誰も押し黙りその問いに答えなかった。ベルナールもその一人だった。その姿にリーセは眩暈を起こしそうになる。彼だけは十二卿の今の言葉に賛成しないと考えていた。

 彼が戻ってきた夜、リーセに赦しを乞うて星礼せいれいの儀を求めたのは何だったのか。


「では、そのあなた方が守った教会の財産はどこに?」

「それは世界教団に持ち去られてしまいました」

「ここにいる全員ですか?」


 十二卿たちは答えなかった。本当に取り上げられたのか、それともこの場で差し出すことが惜しいのかリーセには判断がつかなかった。

 リーセは長いため息をつく。


「それでは、『教会を守るため、財産を守ろうとした』のは全く意味のない行動だったのですね?」

「……そうは思いません。誰一人かけることなく我々はこうして教会の再建の為に、この地に集まることができました」


 リーセは錫杖でその男の頭を殴ってやりたくなったが、ぐっと堪える。


「しかし、あなた方の考えで進めると教会はまた同じような憂き目に遭うでしょう」

「それでは、我々の法衣の色を一段下げてください。我々は再びこの法衣を纏えるように邁進まいしん致します」


 リーセはベルナールに視線を送った。


「ベルナール、この者はこう申していますが、元枢機卿団長としてのあなたの意見としてはいかがですか? 私が与えようとする罰と、この者が受けようとする罰。あなたはどちらの罰に服したいと考えていますか?」


 ベルナールが頭を深く下げる。頭の油だろうか、それとも冷や汗だろうか。一滴の雫が彼の頬を伝い床を濡らした。


「リーセ様。お赦しください。私には……」

「ベルナール。私はあなたの意見を聞きたいのです。もしあなたがもう一度法衣を着たいというのなら、それは赦しましょう。ただし、私はあなたに職務を与えることは致しません。自らルセロ様の言葉を聞き自ら教会の為に尽くしてください」

「リーセ様、どうかお赦しを。私もまたルセロ神、いえ、あなたのお側で一番近い所で仕えたいという思いはあるのです」

「ベルナール。あなたが法衣を纏おうと、脱ごうとも、私のそばにいようと、離れようとも、あなたとルセロ神の距離は変わらないのです。今回の一件で私があなた方に申し付けるは聖務停止インターディクトです。ですが、法衣を着たいというのならそれを赦しましょう。あなたの心に問います。赤い法衣を着る資格はあるのですか? ルセロ神にその資格があると言えるのですか?」


 リーセの言葉が聖堂内に響き渡り、そして石の中に吸い込まれていった。リーセと十二卿、彼女たちの周囲は静寂に包まれた。


「わたしは……、リーセ様のお言葉に従いたく思います。これまで通り、一信者として生きていきます」


 リーセはベルナールの言葉に小さく頷いた。

 その様子を先ほどの金髪の男が鼻で笑い顔を上げる。


「リーセ様、あなたは私たちの罪を上げました。そして罰を与えました。あなたがそう仰るのなら、従います。しかし、あなたの罪はどうなのですか?」

「私の罪?」


 今度はリーセが鼻で笑う。


「そうです。私たちが私腹を肥やしていたことを糾弾するのなら、その間あなたは何をしていたというのですか?」

「つまり、同罪だと言いたいのですね?」


 男は頷く。


「分かりました。それもいいでしょう。これからこの教団に教主を名乗る者はいません。枢機卿を名乗る者もいません。信者は皆が同じ立ち位置となり一人一人が自らルセロ神の教えを実践する教団となるでしょう。最後の仕事としてその言葉を街の信者たちに伝えます。そして、私はこの法衣を脱ぎます」


 男はリーセの真意をさぐるように繰り返し視線を送った。リーセは微笑みながらケープに手をかけた。勇者と戦った時とは違い、それは容易く外れ、リーセの足元に落ちた。


「あのとき、どれほど恥ずかしい思いをしたか」


 リーセは床に落ちたケープを見つめながら呟いた。刺繍の紋様が鮮やかに浮かび上がり輝いて見える。生地の白さも目に焼き付くように眩しく感じた。

 そのケープの上に錫杖と帽子をそっと置く。

 金髪の男がその様子を見てわなわなと口元を震わせる。リーセが法衣を脱げば、同罪とした彼らもまた法衣を脱がなくてはならない。何かを言おうと視線をリーセに向ける。リーセもまた静かに見つめ返した。

 他の枢機卿たちもまた彼女の様子をただ呆然と眺めていた。


「では、改めて、リーシの街に来たことを歓迎します。ここはルセロ教を信じる者たちの街ですが、この街では憲法と法律に従って生きていかなくてはなりません。この街の法律はそれが制定される前にさかのぼって罰するということはありません。ですので、私もあなた方も今までの罪で裁かれることはありませんのでご安心を。この街で暮らしていくにあたり、みなさんもまた何かの職業についてもらうことになると思います。私は……、そうだな、美味しいものをたくさん食べたいので、料理屋さんで働こうかな?」


 リーセは無邪気に笑って見せる。


「私に言えることはここまでですので。では、皆さんもご自由になさってください」


 リーセはそういうと振り返って、身廊の先にある扉へと向かって歩く。

 扉の上のステンドグラスには金星ルセロがかたどられている。この星もまた新しい街のように、祖母の思いを、魔王の奴隷となった者たちがデザインし、魔物たちが作りあげたのだろうか。


『明けの明星、宵の明星、それはただ唯一。ルセロ教はホモ・ルミナスとホモ・サピエンス、人と魔族、帝国の支配する範囲と魔王の支配範囲の交じり合うこの地に立ち完全なる融和を目指す』


 リーセは心の中で呟く。

 だとするなら、この星は祖母と母とリーセの最初の一歩だ。

 リーセはその下にある扉に手をかけた。彼女の身長の数倍以上ある青銅製の重い扉であり、信者たちによって磨き上げられ鈍い光を放っている。この扉もまた作られた時には光り輝いていたはずだ。


「んっ、んんんんんんっ!」


 リーセは扉を開こうと力いっぱいに押したが、びくりとも動かなかった。リーセは両手に息を吹きかけると再び扉に手をかける。


「きぇええええええええええっ!」


 こめかみの血管が破裂しそうなほど力を込めたが、扉はびくともしない。

 リーセが荒い息をついていると、ツヴィーリヒトとデンメルングが扉に手をかけた。


「この扉をあけたら、日の光が差し込んでくるかもしれない。ツヴィーリヒトは中で待っていて」

「待っていれば本当に迎えに来るのか? お前はこの教会から立ち去るためにこの扉を押しているのだろう?」

「そ、そうだけど。細かいことはいいの!」


 ツヴィーリヒトの隣に烏の魔物(シュヴァイグラーベ)のカークが並んだ。


「私が代わりに開いてやろう」


 リーセ、デンメルング、カークの三人で扉を押した。

 柔らかな光が差し込むと共に、かろやかな風が聖堂の中へと吹き込んでくる。

 目を細め日差しを遮るように手をかざすと、リーシの街が視界におさまった。

 石畳の道、まばらな家々は、海岸へ向かうほどに増えていく。街と呼ぶには幼く、そのほとんどは空き地だった。


「リーセ様っ」


 ふと近くで彼女の名を叫ぶ声が聞こえた。

 リーセは聖堂を離れ本曲輪の尖端まで進み眼下の曲輪を覗くと、そこにはこの街にこれだけ人が暮らしていたのかと思えるほどに、多くの街の住民たちが詰めかけていた。人だけではなかった。多くの魔物たちも集まっていた。

 彼女の姿をみると一斉に歓声が沸き起こる。


「いったい……、どうして?」


 ある者はリーセの名を叫び、またある者は、ただ大声で叫んでいる。手を叩く者、足を踏み鳴らす者、拳を突き上げる者。小さな子供が男に肩車をされ、両手でリーセに向かって手を振っている。

 みんな、ばらばらだったが、その顔に浮かべた笑顔だけは同じだった。

 彼らの歓声はリーセを包み、大聖堂を包み、そしてリーシの街を包んだ。

 ふと、リーセは群衆の最後尾にシルダンの姿を見つけた。彼は背中の甲羅を見せながら、のっしのっしと去っていく。


「私は……」


 何かを呟こうとしたが、思いは形をなさず、どのような言葉にもならなかった。

 呆然としているリーセの頭に帽子が乗せられ、肩に純白のケープがかけられる。

 振り返るとそこにはノノが立っていた。さらに彼女の背後には十二卿たちが跪いて頭を下げていた。赤の法衣カソックを纏っているものの、その頭には赤の帽子はなく、赤のケープも羽織っていない。


「リーセ様。お忘れ物です」


 そう言って、錫杖が差し出される。

 その錫杖に手を伸ばして触れる。

 歓声はさらに大きくなり、街を超え平野中に響き渡った。

読んでいただきありがとうございます。

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