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美少女は邪教の教主様 -勇者が断罪にやってくる!?-  作者: 波留 六
宗教都市を作ろう

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51.信者との再会

 シルダンが一番高い位置にある曲輪くるわである本曲輪ほんぐるわの隣で空中浮揚くうちゅうふようをする。すると、そこに近くで足を踏み鳴らして地固めをしていた竜たちが集まり、シルダンの背中に乗っている大聖堂をミニチュアのおもちゃのように本曲輪の上にひょいと乗せ換える。

 そのあまりにも簡単に作業を進める様子にリーセはぽかんと口を開いて眺めていた。


「本当に勇者はあんな者たちと戦って勝つつもりなの?」


 本曲輪にあるのは多層の屋根を持つ天守の印象が強く、そこに聖堂が建っている姿はなんとも言えない違和感があった。しかし、ルセロ教会の街なのだ。


「そう言えば、教会の向きはあれであっているの? 扉口を西、内陣を東の方角にむけなきゃ」


 リーセが烏の魔物(シュヴァイグラーベ)に視線を送る。しかし、彼は動こうとしなかった。特に方角を間違っていてもリーセは気にしない。しかし、様式美なのだ。宵の明星と明けの明星の方角を完璧に指し示すことが、建物の神秘性を高め、教会の権威を象徴するのだ。それが適当だと、何の為にあのような壮麗な建物を造ったのかわからなくなる。

 リーセが烏の魔物に声をかけようとしたとき、「むっ」とした視線を投げ返された。


「我々飛行生物には、地磁気や太陽、星の位置を基準に方角を判断する能力が備わっている。小娘の感覚よりもよほど優れている」

「むっ! でも、あんな適当な置き方をしたら……」


 リーセの言葉に烏の魔物たちがわらわらと集まってきた。リーセは怖くなって後ずさる。


「これで我々の目を隠すがいい」


 そう言って、烏の魔物はリーセに布切れを差し出した。


「一体何のためにこんなものを持っていたの?」

「時間が勿体もったいない。早くしろ」


 仕方なくリーセは一人目に目隠しをするために腕を伸ばしたが、彼女の身長ではつま先立ちにならないと届かなかった。ラメールとデンメルングに手伝って貰おうと考え、声をかけようとすると、彼らに一斉に睨まれた。


「ノノにはわかります。みんなリーセ様のことが大好きなんです」

「どこが。『小娘』とか言われているのにそれはないでしょ?」


 ノノの耳うちにリーセは答える。


「早くしろ! 忙しいと言っているだろ!」


 烏の魔物に言われ、リーセはノノを見て唇を尖らせると見つからないように肩をすくめた。



 全員の目隠しが終わると烏の魔物はその場でぐるぐると回り始め、全員がばらばらの方角を向いて立ち止まる。


「では、東の方角を」


 烏の魔物たちはリーセの掛け声とともに、一斉に同じ方向を翼で指し示した。

 彼らの方向感覚に彼女は目を見張るが、やがてため息をついた。


「聖堂の建っている向きは、あなたたちが差している方向とずれているんですけど!」

「な、なんだと!」


 烏の魔物たちは目隠しをとってリーセの言葉が正しいのか確認をしようとしたが、硬く結んでいたため彼らの翼では目隠しは外れなかった。彼らがもがく度に結び目は硬くなっていった。


「ぬおおおおっ、小娘、よくも我々を罠にはめたな!」


 リーセはもがく烏の魔物たちの目隠しを取っていった。



 竜たちは宮殿も本曲輪に置こうとした。


「あの場所に置くと気軽に街に遊びに行けなくなるっ。街に近い曲輪において欲しい」

「おいっ、お前は気軽に街に遊びに行くつもりか!」


 リーセの言葉にラメールが突っ込みを入れる。


「どうして? べつに遊びに行ってもいいじゃない!」

「お前はこの街の事実上の専制君主になるんだぞ。そんなやつがほいほい街の中を歩けると思うな!」

「ええっ? そんなの酷いっ!」

「それに、お前の話だと敵を曲輪に誘い込んで討つと言う話だっただろ。あんな建物を残してその曲輪を放棄したら、敵の拠点にされてしまう。住民の居住区となる一番下の曲輪は仕方がないが、その他の本曲輪へ続く曲輪はある程度破脚しやすい建物にしておく必要がある。諦めろ」


 知識は自分の方が多いのだから言い負かしてやろうとリーセは頭を捻ったが、ラメールは初見であるはずのこの城塞都市の肝を見抜いていた。

 そして二人が言い争っているうちに宮殿は焦熱しょうねつ峡谷きょうこくの配置と同じように大聖堂の隣に並べられた。


「まあ、本丸御殿だと思えば……」


 そう思い込もうとするほどに違和感が拭いきれなくなっていくが、気にすることをやめることにした。

 リーセたちのもとに烏の魔物たちが戻ってくる。


「おい、あの建物の中にいる者たちがお前を呼んでいる」

「わかりました。すぐに行きます」

「あと、転送装置のクリスタルは何処に設置する?」

「とりあえず、本曲輪で。街が出来上がってきたら街の外に移動させたい」


 そう言って、錫杖を握りしめると歩き始めた。



 大聖堂の中に入ると外の喧騒が消え、ひんやりとした空気と静寂が身を包んだ。

 内陣の椅子に腰を下ろす信者たちが一斉にリーセを見あげる。

 その中にフールハーベントの街と、ルセロ教会の間にあったさびれた集落の者たちの姿もあった。

 彼らは一様に怯え、不安気な眼差しを彼女に向ける。その表情を見てリーセもまた不安になる。本当に彼らを支えきることができるのだろうか。


「リーセ様、あの魔物たちは一体……」

「魔王様にお願いをして新しい街をお預かりすることになりました。魔物たちは街づくりの手伝いをするために来ていただいています」

「そうですか……」


 信者の一人はそのあとに続く言葉を飲むようにして黙り込む。


「よく来てくださいました。今日からこの場所が私たちの生活の場所となります。ただ先ほども言った通り新しい街です。何もないところなので皆様にも手伝っていただきたいのです」

「一体どのような街を作るのでしょうか?」


 声を上げたのは元枢機卿のベルナールだった。彼の頭は油分を増し艶やかに輝いていた。あまりの血色の良さにまた悪いことを初めたのではないだろうかとリーセは考えたが、ばらばらに質問を受けるより、誰かが聞き役になってくれた方が話を進めやすい。

 リーセは彼にかるく頷いた。


「『明けの明星、宵の明星、それはただ唯一。ルセロ教はホモ・ルミナスとホモ・サピエンス、人と魔族、帝国の支配する範囲と魔王の支配範囲の交じり合うこの地に立ち完全なる融和を目指す』。これは私の祖母の言葉ですね。私はこの言葉通りの街を作りたいと考えています」

「ま……、魔物も街に暮らすのですか?」


 リーセが頷く姿をみてベルナールは体を引いて息を飲む。他の信者たちも同じように目を見開いていた。


「そ、それで、私たちはどのように振舞えば……」

「先ずは、この理念を軸にこの街のあり方を示す文章を作りたいと思います。それが憲法となります。それをもとに街の人が暮らしていくための法律を定めて行きます。みなさんにも手伝って頂きたいのです」


 リーセが信者を見渡すと誰もが小さく頷いた。そのあまりにも従順な反応にリーセは少なからず驚く。慌てて、ノノに視線を送るが彼女は深く頭を下げるだけだった。

 ラメールに視線を移すと、彼はわずかに口元を動かし何かを話そうとしていたが、目を伏せると押し黙った。


「あ、あの、なにか意見があれば言ってください」


 一人がおずおずと手を上げた。さびれた集落の者だった。


「街の外を開墾して農場をつくるのですよね? そちらを手伝わせて欲しいのですが?」


 リーセは頷いた。


「分かりました。魔王様の所にいる技術者たちが、その辺りの準備を進めているはずです。そちらに加わって下さい」


 その者たちは魔王の奴隷であることは濁す。

 すると料理人の男が手をあげた。


「料理はここにいる者たちの分だけでよろしいのですか?」

「出来れば工事に携わった者たちの分もお願いします」

「わかりました。ただ、魔物の食事は何を作ればいいのかわかりません」

「人と同じもので大丈夫です」

「はあ、あの大きさですとどれだけの量を作ればいいのか見当もつきません」

「魔物の栄養はほとんどが魔力でまかなわれているそうですし、大きさを変えることができる者もいます。人間と同じ量で大丈夫だと思います。魔王の手下の方にも料理人がいますので手分けしてください」


 料理人の質問は終わったかと思ったが、彼はまだリーセの事を見つめていた。


「他にもなにかありますか?」

「はい。リーセ様は少しおせになったご様子です。リーセ様の分だけ特別に作らせてい頂きたいのですが……」


 リーセは断ろうとして口を開きかけた時、料理人だけではなく他の信者たちもリーセの顔を見つめていることに気がついた。


「リーセ様……」


 ノノが小さな声でささやく。その声を聞いて小さく咳払いをする。


「……そうですね。私は疲れているのかもしれません。今日は今までと同じようにここにいる皆さんで食事をしましょう。でも、明日からはよろしくお願いします」


 彼女の言葉に料理人だけでなく他の信者までもが口元を緩め頭を下げた。

 それを見つめるリーセの瞳からは採光が失われていた。

読んでいただきありがとうございます。

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