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美少女は邪教の教主様 -勇者が断罪にやってくる!?-  作者: 波留 六
宗教都市を作ろう

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47.海が見える街

 その地は連なる山塊によって囲まれた広大な平野であった。

 緑豊かな山の囲いに包まれた平野もまた緑を蓄えており、静けさとともに豊かな自然を感じさせる。

 平野の南側には杓子ですくい取られたかのような巨大な湾があった。

 水の色は青く深く、そして水面を通り抜ける風がさざ波をたてて太陽の光を白く反射させている。

 幾艘かの船が浮かんでいるのが見えた。沖に停泊しているようにみえるので漁をしているのだろう。


「あれは海?」

「そうだ。さらに南に進むと広大な海に出る」


 リーセはその光景をシルダンの背中から見下ろしていた。

 シルダンの周囲には烏の魔物(シュヴァイグラーベ)たちが護衛をするように飛んでいる。答えてくれたのはその中の一羽だった。紙を重ねた書類の束を抱えている。自らの飛行速度と上空の風に煽られて、紙がバサバサとはためいている。見づらそうではあったが、確かに彼はそれを読んでいるようだった。彼の両手は翼である。そして飛行している状況で落下せずに器用に紙をめくる姿に感心する。


「貸してくれたら、自分で読みます」


 シルダンの背中に乗るリーセは彼の魔法によって、風や冷気などから守られている。リーセは手を伸ばしたが、烏の魔物は首を横に振った。


「ダメだ。これは魔族の中でも知性の高い我々にしか読めぬものだ」

「試しに読ませてもらえませんか?」

「だめだ。小娘などに渡すと手荒に扱われ破れてしまう」


 今の方がよっぽど手荒な状況じゃないかと思ったとき、風が一際強く吹き、紙の束はそれにさらわれると、ばらばらになって宙に舞った。


「ぐわあああああっ! 我々の極秘の資料がぁぁぁっ!」


 烏の魔物たちは風に舞った紙をかき集めだしたが、シルダンはそれを無視して飛行を続けた。

 リーセも彼らのことは気の毒だと思いつつも、視線を平野部に戻す。

 平野部には二本の大きな川が中央を貫くようにして流れていた。

 これらの川が、山々からの水を集めて平野を潤しているようだ。上流で幾つもの支流を集め、力強い流れとなり、やがてその水流は細かく枝分かれして、幾つもの河川となって海へと注いでいる。

 豊かな土壌ではありそうだ。しかし、川の流れは荒れることも多いのだろう。幾つもの荒れた場所では黒い土の地肌が見えていた。

 地肌の見える箇所には木の屋根が点在する場所もある。それが人々が暮らす集落なのだろう。そして河口付近にひときわ開けた土地があり、川を挟んだ中州に城塞が見えた。

 シルダンはその場所に向かって飛行しているようだった。

 街の周囲にある畑や牧草地がはっきりと見え、城壁に囲まれる街の姿も鮮やかに見えた。その大きさはフールハーベントよりも小さく見える。

 街の中を川が流れ、そこが河岸かしとなっており、幾艘もの船が停泊していた。


「あれが、魔王様の植民地かな?」

「そうだ。三〇年前、ここの領主は愚かにも勇者と結託し軍勢を率いて魔王様を討とうとした。魔王様はこれを粉砕し、この街に魔族の統治者をおいた」


 いつの間にか烏の魔物たちが戻ってきていた。時々、荒い呼吸を収めようと深く深呼吸をしている。


「シルダンが撃退したのですか?」

「いや、ここは魔王様の居城の東側にあたる。別の四天王のお方だ」

「魔王様から見ればシルダンの守りは北……、そのシルダンが亀だとすると、東の守りは龍かな?」

「東の四天王様のお姿は間違ってはいないが、シルダン様は断じて亀ではない。ふざけたことをいうと、その舌をひっこぬくぞ!」


 慌ててリーセは口元を押える。


「三十年前だというと、さすがにヴィルトたちじゃないよね」


 烏の魔物のするどい視線から逃れるようにリーセはラメールに話しかける。


「だろうな。それにこの辺りの場所は帝国領だったかもどうか……」

「ラメールが戦ったという別の国?」


 ラメールが頷いた。その間にシルダンは街の一角にある広場に降り立った。

 同時に湿気と潮の香りを含んだ空気がリーセたちを包む。

 ずっと乾燥した気候の場所にいたためなのか重くまとわりつくような感覚を覚えながらシルダンの背を降りると、街の人々から奇異な物でも見るような視線を受けた。


「この街には魔物除けの結界はないのね?」

「そんなものつけてどうします?」


 デンメルングがリーセの問いかけに答えながら、街の人たちに牙を向いて威嚇する。街の人たちは怯えるようにして散らばっていった。


「仲良くしたいんだから、威嚇しないで!」


 リーセが怒るとデンメルングはシュンと尻尾と肩を丸めた。


「こっちだ」


 シルダンがのっそのっそと歩きはじめる。リーセもまた錫杖を握りしめ、もう片方の手には鳥かごをぶら下げてそれに続く。

 彼女の後ろをノノとラメール、さらにその背後にデンメルングと烏の魔物たちが続く。住民たちもまた平穏を取り戻し、自分たちの生活に戻ったようだ。


「どこにいくの?」

「政庁だ。統治者に会わせる」


 シルダンの向かう先には一際大きな白い建物があった。


 周囲の建物を見ると、漆喰を塗った建物が多かった。


「地震はないのかな?」

「ここ数百年はないと伝えられている」


 烏の魔物が先ほどの紙の束をめくりながら答える。


「火山とか津波とかは?」

「火山は周囲にはない。津波はこの湾を取り囲む山が守ってくれる」


 振り返ると広大な湾が見え、その先には靄にかかった陸地が見えた。

 リーセはしばらく目を細めて眺め、近くの家に視線を戻す。漆喰の壁のちょうど膝の高さ辺りで色が変わっていた。


「津波はないということは、高潮か川の氾濫か……」

「よくわかったな。この街には両方ある。もう少し北側に街を移そうとしたが漁師たちの反対に合い進んでいない。そこには建設中の都市が廃墟となって放置されている」

「気候はどんな感じなの?」

「お前はフールハーベントの街の出身だな?」

「その街には住んでいないけど……」


 リーセは頷いた。シルダンの歩みは遅い。政庁の建物はすぐ目の前にあったが、まだ到着するには時間がかかりそうだ。

 そう思っていると、烏の魔物の一羽が串に差して焼き上げられた魚の塩焼きを差し出してきた。それを受け取ってかぶりつく。塩の浮いたぱりっとした表面に歯をいれると、油の乗った白身の肉が口の中でほつれ広がっていく。さばのように思えたが、魚の種類はわからなかった。


「ふぉ、ふぉいしい! しふぉがいい!」

「そうだろう。近くには塩田がある」


 少し熱すぎて口をほふほふしながらかみしめた。ノノやラメールも同じように食べていた。何本かの串を一気に口の中に放り込んでいるデンメルングと視線があう。


「旨いが、少し小骨が多いのが気になります」

「頭や尻尾も一緒に食べているのに気になるのはそこなの?」

「細かいことをいちいち気にしていたら、なんにも食べられなくなりますよ」

「気にしているのはデンメルングだから!」


 リーセの言葉に彼は悪びれる様子もなく朗らかに笑った。


「ところで、この魚はどこから?」


 リーセが尋ねると、烏の魔物が翼で露店を差した。店主を見ると目じりの下がった眼差しで何かを訴えかけているように思えた。


「この魚は一串おいくら?」

「ここにあるものは全て我々のものだ。遠慮せずに好きなだけ食べるといい」

「ぶはぅっ!」


 その言葉を聞いてリーセは盛大に咳こんだ。

 ノノが慌てて、リーセの背中をなでに来る。


「ノノ、私のことはいいから、店主にお金を払ってきて!」

「わ、わかりましたっ」


 リーセはとことこと駆けていくノノの背中を見つめ、咳が止まるのを待ってもう一口頬張った。


「それで、気候の話なんだけど?」

「ああ、フールハーベントのように夏場に雨が降らないということもない。この湿った南からの風が雨雲を運んでくる。時々、大きく荒れることがある。水害が起こるのはそのときだな」

「なるほど。冬は?」

「冬は寒くなると雪が降ることもある」

「雪は積もるの?」

「それは年に数度あるかないか。ただ土が凍り付くほどに冷える」

「もしかして川や海も凍るの?」

「それはない」


 リーセは頷く。街の外には耕作地も見えたが、漁師たちが街の移転を阻止するほどの力を持っているということは、この街は漁業で成り立っているのだろう。しかし漁業のみに食料を頼ることは、急激な気候の変化になって不漁になったり、人口に変化があった場合に街を支えきれなくなる可能性もあるし、栄養のバランスも考えたい。産業については複数の選択肢を確保したい。

 農業に適した土地へと変えていくには水害の被害を抑える必要があった。

 そんなことを考えていると、ようやく政庁にたどりつく。

読んでいただきありがとうございます。

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