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美少女は邪教の教主様 -勇者が断罪にやってくる!?-  作者: 波留 六
宗教都市を作ろう

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44.リーセVSフールハーベントの街

 フールハーベントの政庁は、背の高い石柱の回廊に囲まれた、白い大理石の建物だった。

 太陽の光を受けて大理石は白く光を返し、威容を誇っている。ルセロ教会のような細やかな装飾や彫刻はどこにも見当たらない。簡素と言えば簡素だが、柱の高さや建物の規模が巨大であり威圧感を生み出していた。

 しかし、現在、街は魔物に包囲され、その防御が突破されようとする寸前なのだ。リーセには空しい虚勢に映った。

 開け放たれた扉には兵装をした者たちが詰めかけている。

 同じように襟を立て裾の長い衣装を着た者たちの姿もあった。


「あれが元老院議員たちだ」


 ラメールがリーセの耳元で囁くように言った。


「本当に円形闘技場コロッセオで着ていた服と違うものを着ているのね」

「前にも言ったが、あの格好は古代の帝国を真似て仮装をしているだけだ。一種の祭りのようなものだ」


 祭りで殺されたらたまったものではないと思ったが、リーセはその祭りの生贄だったのだ。彼女が彼らに視線をむけると、リーセたちも無遠慮に彼らに見つめられる。


「元老院は街の有力者で構成されている」

「有力者ってお金持ち?」

「そうだな。彼らの中から街の代表を任命するんだ」

「それは寡頭制というのかな。ということは領主というより元首と言えばいいのかな? 意外と民主的なのね?」


 ラメールは顔を歪める。


「そうだな。皇帝から爵位をもらった貴族が何代にもわたり街を支配している。もちろん、元老院が選んだ代表だ」


 リーセは苦笑いを浮かべた。皇帝から自治を認められているのだろう。しかし、その権利の行使は常に皇帝の顔色を伺いながらということだ。

 先導していた衛兵に促されその中を進む。リーセたちのあとを勇者一行もついてくるが特に誰何すいかをされる様子もない。彼らは街の統治にも関与しているのだろうか。それとも、現在の状況による一次的な特例なのだろうか。

 尋ねてみたかったが、ヴィルトはそのような話に乗ってくれそうもなかったので諦める。

 長く続く大理石の床を足音を立ててぞろぞろと進む。

 やがて衛兵は重厚な木製の扉の前で立ち止まった。


「入れるのは法衣の娘だけだ。勇者様方も入室はヴィルト様のみでお願いします」


 リーセは一度、ノノとラメールに視線を送る。彼女たちがついて来られないのは痛手だった。社会の常識や街の常識を確認することができない。そのようなことを考えているとノノが胸元で両手の拳を握りしめてリーセをじっと見つめた。

 励ましてくれているのだ。そう思うとリーセの胸の奥が暖かくなる。


「行ってくる」

「はい。まっています」


 扉が開き、リーセは部屋の中へと足を踏み入れた。

 部屋は小さいながらもほどよい奥行きをもつ広さである。壁には深紅のベルベットが張り巡らされていた。窓から射し込む日の光がベルベットに当たり、柔らかな光沢を放っている。

 部屋の中央に据えられた長テーブルは黒檀こくたんで作られており、艶やかな光を湛えている。その周囲には、男たちが既に腰を下ろしていた。

 彼らの服装はどれも深い色合いのベルベットや絹で作られ、袖口や襟元には金糸の刺繍が煌めいていた。それぞれの指には分厚い指輪が光り、誰もが権力を誇示するかのように無言のままリーセを見据えている。

 リーセは背筋を伸ばしたまま、彼らの視線を受け止めたが、内心では冷たい汗が背中を伝うほどに緊張をしていた。一つひとつの目が、彼女を見定めるように無遠慮にこちらを貫き彼女の不安を誘っている。

 その中の一人、彼女の瞳に赤い法衣カソックを纏った一人の男が映った。

 彼は端の席にふんぞり返り、その目は冷たい光を宿している。法衣の深紅が、まるで部屋のベルベットと呼応するように映えている。リーセは息を飲み、咄嗟に声を漏らした。


「ローフェル枢機卿……」


 ローフェルは微動だにせず、椅子にもたれたまま鋭い目でリーセを睨みつけた。その視線には、傲慢と敵意が入り混じっている。部屋に張り詰めた空気が広がった。

 その時、中央の席に座る者が咳払いをする。そして穏やかな笑みを浮かべた。


「私がこの街の元首の娘、ヘアスレーンです」


 軽やかな声だった。ヘアスレーンは男装をしていたが若い女性だった。

 円形闘技場でトーガを着た者の中にはいなかったように思う。


「私はルセロ教会の教主リーセと申します」


 どういった挨拶が適当なのか分からなかったので、とりあえずぺこりと頭を下げた。


「空いている席に座ってください。あ、勇者様はすみませんが立っていてください」


 軽やかに微笑を浮かべた。如才の無い感じはしたが、果たして彼女に決定権があるのだろうかと不安になる。

 リーセが空いている席に向かうと、ヴィルトは彼女の真後ろにたった。


「リーセ様は我が街と魔族どもとの仲裁に来られたとか」

「はい、ですが……」

「疑問は何なりと言ってください」


 リーセはしばらく目を伏せた後、視線を戻す。


「ヘアスレーン様に議決権はあるのでしょうか? 私をこの場所に釘付けにすることで、交渉を長引かせようとするのでしたら考え直して頂きたいのです。相手は魔王軍なのです。私に人質としての価値はありません。時間が過ぎれば彼らはこの街に攻撃を始めます。私にはその時限も聞かされておりません」

「それはご安心を。父は病で臥せっています。全権は娘の私にあります。そしてここにいる元老院議員たちは今回の戦いの対策委員です」


 そう言えば勇者一行との決闘のときに場を仕切っていた男の姿がなかった。ヘアスレーンはあの男の娘なのだろうか。

 そして、世襲を公言する彼女の微笑みの影にラメールの言葉を思い出す。元老院からの代表の任命はもはや有名無実化しているのだ。

 他にも戦時下にあり対策委員とのことだが、彼女たちは武装していない。直接陣頭指揮を取ることはないのだろうか。


「仲裁に来たとのことですが? リーセさんは魔族どもがこの街に侵攻した理由はおわかりですか?」

「それはルセロ教会にあります。あの教会は魔を持つ者、持たぬ者、全ての救済を願うルセロ神様に捧げるために、私の祖母が魔王様より拝領した場所に建立されたのです。そこに勇者様が立ち入り、そして、世界教団の教主が立ち入りました」

「不思議な話です。ルセロ教団が信徒を増やしその者たちから財産を搾取していたのです。あなたはそれを認め勇者様に教会を明け渡して弁済を依頼されたのではないですか? これは全てあなたの責任ということですか?」


 相変わらず微笑みを絶やさないヘアスレーンに、リーセも負けない様に微笑みを返す。


「魔王軍から見ればいかがでしょう? 緩衝地帯となりえたルセロ教会が、魔物の排斥に熱心な世界教団に変わるのです。あの教会は魔王軍との戦いの最前線の拠点となりえます。私たちの罪など関係がないのです」


 逆を言えば、あの教会が存在することで、軍備に労を払うことなくこの街は平和でいることができたのだ。

 ここで魔王にあの教会を返すと決めたことを話せば、彼女たちは死に物狂いでこの戦いに挑もうとすうだろうか。もちろん裏事情を話すつもりはなく、代わりにリーセは微笑む。


「つまりは、リーセさんの起こした不祥事の尻ぬぐいの為にこの街と魔族どもが戦わされているのですね?」

「経緯は話した通りです。そもそもの根本的な原因は世界教団といいますか、人間社会が魔族を排斥したことに原因があるのです。ルセロ教団がそのバランスをとろうとして失敗したことは認めます。ですが、解釈の確認は現時点では無意味なのではないでしょうか?」


 ヘアスレーンは相変わらず口角を上げているが、もはや眉が吊り上がっていた。リーセは少し恐ろしくなって視線を外す。そして、すぐ隣でローフェルが鬼の形相で睨みつけていることに気づき、慌てて視線を彼女に戻す。


「それで、リーセさんの仲裁案とは?」

「全員でお食事会をしてみてはいかがでしょうか?」


 リーセの言葉にその部屋の者たちからため息が漏れる。「やはり子供か……」と元老院の一人がつぶやいた。


「それを魔物たちは受け入れるのですか?」

「受け入れさせてみせます」

「毒を盛ったり、暗殺の場となるのでは? 魔物たちが仕掛けることも、我々が仕掛けることもあるでしょう?」

「魔王軍側にはそれをする理由がありません。なぜなら力攻めでこの街を陥落させることができるからです。こちら側からもする理由がありません。確かに不意をついて魔王軍の幹部を一人二人倒せるかもしれません。しかし、それをしたところでこの戦況を覆すことはできないでしょう」

「この街を力攻めで陥落することができると言いましたね? ならばなぜ魔物たちはあなたを使者として差し向けたのです?」


 微笑みは完全に消えた。ヘアスレーンの目が細められ、射すくめるようにリーセを見た。


「彼らに私を使者として遣わすことに意味などありません。彼らは遊んでいるだけです。私の祖母が掲げた魔力を持つ者と持たない者の調和が可能なのか。私にその能力があるのか。この結果は賭けごとの対象となっていることでしょう。最初から選択肢などないのです。私にも、この街にも」


 リーセの言葉を吟味するようにヘアスレーンは顎をなでた。そして深くため息をつく。


「それで、全員で食事会をすれば和解できると?」

「それは無理です」

「何ですって?」


 リーセの一言に会議の場が凍りつくのがわかった。バカにされていると感じたのだろう。いっそう険しい視線がリーセに寄せられる。


「その場限りの関係にしてはならないということです。今回のことはいずれまた起こります。継続的に平和への取り組みを続けていく必要があるとは思いませんか。何よりこの街が人間によって統治されていることの価値を感じてもらう必要があります」

「……それは、帝国を裏切って魔族側につけということですか?」

「そうは申しません。試しに交易など持ちかけてみてはいかがでしょうか?」


 ヘアスレーンが腕組みをして黙り込んだ。他の者も声を発する者はいなかった。

 しばらくの沈黙が続いたあと、彼女はゆっくりと顔をあげた。


「即断はできません。時間を置くつもりはないですが、ここに居る議員たちで我々の方針をまとめます。リーセさんも勇者様もしばらく席を外してもらえないでしょうか?」

「わかりました。それでしたら、ひとつお願いがあるのです」

「どんな願いですか?」

「はい、私の従者としてついてきた二名を城門の外に出して欲しいのです。この街の中にいるよりも魔王軍の中にいたほうが安全なようですから」


 リーセは微笑んだ。

読んでいただきありがとうございます。

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